エマナとフェグリス

 街の外の外国軍の本陣、そこに彼はいた




 フェグリス・ラングーラム


 金髪で身長はエマナと同じくらい。




 ラングーラム家の二男であったが、今は家とは絶縁している。


 そして外の世界と手を結んでいる。




「そういえばこの日だったか……」


 あの日をフェグリスは思い出す、爺さんが僕を見捨てたあの日






 スターラヤ共和国


 僕はこの国に生まれた、次男として




 彼は幼少の頃は今とは違い紳士的で誰からも好かれる性格だった。次男でありながら尊大で誰にも威張っている長男エマナよりも人気があり、王宮でも彼が皇帝を継ぐことが有力視されていた。


 しかしそれを認めない人物がいた。


 かつて統治能力を失った南部を統一し、繁栄をもたらしたラングーラム家のカリスマ的存在、彼の祖父に当たる




 グロティウス・ラングーラム


 彼はその事実を知った時、心の底から憤慨した


「何じゃと!!」




 慣習を破り兄より弟を可愛がる、そして内紛につながり家の存続自体も危うくなる、こんなくだらないことで内紛になった歴史が今までどれだけあったと思っているんだ?




 彼はそう考え、行動に移した。




 そしてその三日後。


 ラングーラム邸聖アルミニウス


 フェライニの父、コルネーリス・ラングーラム


「おはようございます、父上」




「久しぶりじゃ、元気にしておったか?孫の顔を見たいと思ってな、今ここにいると聞いた、会わせてもらうぞ」


「別にかまいませんが、何せ突然来られたのでもてなす準備が出来ていません」


「構わん、息子たちの所へ案内してくれ」




 そして10分くらいした後、息子2人、娘2人を一つの部屋に集める。


 コルネーリスが4人の前で話しだす。


「おお、息子たちよ……」


「お帰りなさい、おじい様」




 ペコっ


 グロティウスが頭を下げる。




「お帰りなさい、おじい様」


 次に娘二人も頭を下げる。


「─お帰り」


 1人だけ頭を下げず、どこかひねくれたような表情のエマナ。


「ありがとうな、それとエマナ、お前にいいものをやろう、こいつを見てくれ、どう思う?」


 彼に祖父が差し出した物、それは……


「おお、おいしそう」




 パンに砂糖、ミルクや白ワインで味付けし、油で揚げたお菓子トリハス。


 この国では高級品のお菓子。




「ほれ、お菓子のトリハスじゃ、専属の調理師に頼んで造らせたお菓子じゃ、さあ食べなさいエマナ」


「わーい、いただきまーす」


 喜びの表情でトリハスを食べ始める。




 ちらっちらっ




 祖父がフェグリスをチラチラ見ている。


「お、おじいさま……」


 彼が問いかける、疑問を抱きながら




「なぜ、高級品のお菓子を彼だけに?」


「長男だからじゃ、他に理由があるか?」


 その問いかけに問い返す祖父、自分のやった行為に何の疑問もないように




「おじい様、次男だから、女性だからとあからさまなえこひいきをするのは良くないと思います。平等に扱うのが筋だと思います」


「そうか、そう思うか……」


 やけに落ち着いた声、そして……




 ドン!!!


「大バカ者!!!!!!」




 いきなりの大声、表情は大きく激高しいきなり大きく机をたたく。




「そんなきれいごとを言っている立場かお前は!!!」


「跡取りは長男、それ以外はそれを支える、前の王朝が崩壊して我らラングーラム家が政権について以来私たちはこれを守り、鉄の掟で少しずつ領土を守ってきた、それを詰まらん私情で崩壊させる気かお前は!!!」




「彼は我がラングーラム家の跡取りとして皇帝を引き継ぐ立場にある身分、お前は彼を補佐していかなければいかないのだぞ、そのお前が彼とともに食べ物を恵んでもらおうとは何事か!!」




 彼の罵声は夕方まで続いた。




 そして祖父や両親の教育でエマナはまともに育った。だが俺は見捨てられ13の頃家を出た。自分の意思で。




 トントン


 誰かがノックしている。それに彼は答える。


「何だ?」


 ノックした人物はそれに反応する。


「私だ」


 入ってきたのは側近ビウスツキ・デニーキン。




「準備は出来ました」


 もう引き返さない、あの時の雪辱を晴らす、そう覚悟を決めた表情で彼の返答に答える。


「わかった」








 一方、4人は市街地を出歩いていた。街で噂をしていたことの真実を確かめるために…


 とある民家に指をさす広希。


「確か、あの家だ」




 イレーナが地図を見て答える。


「はい、そのようですね」


 イレーナは思い出す、さっき聞いた噂を。




 城壁で兵士と会話した時。


「え?セフィルス教の信者に動き?」


「はい、信者に知り合いがいるんですけど、そういうマニュアルがあるそうなんです」


 そこに広希が話に入る。


「どういう事だ?」


「有事の際には傷ついたセフィルス教の兵士たちをかくまうという決まりがあるんです」


「さらには機密事項を敵に渡したり」


 その言葉に驚く4人。


「そんなことをやっているのか、確かめてみよう」




 その噂の民家の前に立つ4人。


「すいません」


 家の主人に話しかける広希。


「何でしょうか?」


「お尋ねしたいことがあるのですがいいですか?」




 落ち着いた表情で話しかける。


(感情を抑えろ、まだ敵と決まったわけではない)


「はい」


 広希の質問に落ち着いて答える。




「いま、カルトリやセフィルス教の集団と市街地戦を繰り広げています」


「それで、このあたりに逃げ込んだ兵がセフィルス教の信者の家に逃げ込んでいると聞いています。このあたりに信者をかくまっているような家を知っていますか?」








 主人、広希の質問にすぐには答えず、しばしの沈黙が流れる。


 ちらっ


 そして視線を右上に逸らす。


「知らないねえ……他当たってくれ」


 その言葉を発している時の表情、しぐさを見逃さなかった。


 ドン!!


 主人を突然けっ飛ばす。


「おい、なにするんだ?」




 その突然の行動に驚く海輝。


「ここの家だ、家宅捜索させてもらう」


 そうほかの3人に叫び、家の中に入っていく。


「何をする!!」


 主人の叫びを無視して。




「ここは、寝室?」


 寝室に入る、そしてある一点を見る。


「ここか?」


 それはクローゼット。


 スッ


 そこに剣を突きたてる。


 ドン


 部屋に入っていく主人と他の3人。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!そこに触れるなあああああああああああああああああ」




 何かに取りつかれたような主人、広希に襲ってくる。


 ドゴォ!!


 襲ってくる主人の腹を思いっきりけっ飛ばす。


 ドン!!


 壁に激突し気を失う主人。




「あとは隠れている敵の兵士だ、いるんだろ?」


 その言葉に景が続く。


「ばれないと思っているのかなあ?そこにいるんでしょ、剣で刺されちゃうよ」




 ドン


 突然扉の向こうから兵士が襲ってくる。


 ズバッ


(やはりいたか……)


 それを返り討ちにする


 ドン


 返り討ちにあった敵兵は返り討ちにあい、壁に激突する。


 グダッ


(よし、気を失ったな)




 スッ


 景、カバンからロープを取り出し、それを渡す。


「はい、広君」


 それに言葉で返す。


「その主人もだ」


「捕まえろ、内乱罪だ」


「あ、はい」


 イレーナもロープを取り出し、主人の体と両腕を縛る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る