防衛戦

次の日、4人は再びエマナの部屋に集まった、彼からの呼び出しを受けたのだった。






「何の用?何かあったの?」


 景がエマナに質問する。答えがすぐに帰ってくる。




「ああ、カルトリの軍がまた攻めてきた、この都市の守備を頼みたい」


「カルトリ?」


 景が質問する。






「この港から海路を取って2ヶ月くらいの距離に位置するルルイエ地方の国だ」


「常識的に考えて船で2カ月の距離に国を転覆させるほどの大軍なんて遅れるわけがない。この世界の技術力で」


「だから彼らは商売と宗教を利用した」




 セフィルス教っていって、あの国に限らず交易をしているルルイエ地方の国々はすべてあの宗教を国教としている。


「もう2か月前から戦闘状態に入っている、また協力をお願いしたい」


「まず彼らは俺達と通商条約を結び互いに利益目的に友好関係を作る。その中で宣教師を送りセフィルス教を布教する。平和、平等、自由を理念とした表向きはきれいな宗教だ」




 そして最後にその地に軍隊を送る。その時にはその土地にはセフィルス教が蔓延し、彼らの軍には無抵抗な状態になっているからな。




 そして彼らはそこの国民を片っ端から奴隷として扱い、彼らの植民地と化した土地では人口の半減程度は当たり前、過酷な労働環境により屍の山の出来上がり。


 そのやり方で世界の土地を手に入れて繁栄を築いていたんだ。




 それに問いかける海輝。


「でもその宗教って平和、平等、自由を掲げているんだろ?」




 イレーナがそれに答える。


「彼らの考えはこうです、人間と動物の間には明確な断絶があり、彼らと私たちは違うんだ、という思想が根本にあります。ここで大事なのは動物の中に私たちセフィルス教以外の人間、または自分たちの人種以外の人間も含まれているという事です」




「つまり私たちは家畜同然の存在としか見ていないわけか……」


 今度は海輝が質問する。


「それで、今はどうなっているんだ?」




 そっぽを向くエマナ。


「芳しくはない、当時は実情も知らずに貿易目的で受け入れてしまったからな……」




「そして今回もまた攻めてくる。まあ、今回はそれを予測していて強固な城壁を作っている、というか海輝が倒した魔獣はあいつらが召喚させたらしい」




 そこに話に入る広希。


「つまり、城壁の中に敵を入れさせないのが仕事ってことだろ?」


「ああ」


 うなずくエマナ。


「もう今日の夜には攻めてくるだろう、今回もよろしくな」


「わかった」




「だが、敵にはあいつもいるって噂だしな……」


「ああ……」


 その彼の姿を想像する。




 そう会話を交わすと、王子は去り、広希達は宮殿へ帰って行った。


「夜、攻めてくるらしい、そこまではゆっくり休もう」




 そしてこの戦いが終わったらイレーナ、海輝、広希、景の4人はここを出る事を告げた。






 夜、敵の襲来に備え、政府は守備隊を結成。


 確実に敵が来るという情報がこの場の中に緊張感を生み緊迫した雰囲気が流れていた。


 この都市を強固に守る城壁、その守備隊の中に彼らはいた。




 海輝が話しかける。


「ねえ、いまさら聞きたいんだけど?」


 広希が答える。


「何?」




「さっきから腕に巻いてある赤い奴って何?」


「そうか、説明し忘れてた。この世界では師団という概念がある、4から5人くらいで組むのが普通で、それを束ねるのを師団長という。それがこの赤いマークだ。キャプテンマークともいう」




 2人が会話を続けているとき、兵士がざわめきだす、そして叫び始める。


「何だ、あれは?」




(何があった?)


 4人も前を見る、そこには見たこともないようなものがこっちの城壁に向かって進んでいた。


「え?」


 味方たちが驚きの表情を見せる。


 彼らが見た物、それは……




 車輪のついた動く塔のようなもの。周りは鉄板に覆われている。


 上には敵の兵士。




「矢を放て!!」


 弓矢の部隊が一斉に矢を放つ。


「いや、あれじゃ駄目だ」


 広希が叫ぶ。


「周りが鉄板で覆われている、あれじゃあいくら弓矢を打ってもはじき返されるだけだ」






 広希の予想通りだった。彼らが放った矢はことごとく鉄板にはじき返される。


 敵の新兵器は何事もなかったようにこっちに進んでくる。




 その動きを見て閃く広希。


(あれだけ鉄板で周りを覆っているんだ、逆にいえば重量のバランスは相当悪いはず)




「魔術が使える奴、一か所でいい、車輪を狙え!!車輪を壊せばあの塔は崩壊するはずだ!!」




「やってみていいか?」


 この声に志願する者が一人。


「海君?」


 イレーナが反射的に呼ぶ。


「それが俺のあだ名?ま、いいけど……」




 そして練習した術式を試す


(まだ戦いは続く、だから全力は出さないように)




 天竜の力、力となり解放せよ!!


 スペルビア・オブ・バースト!!




 練習では試したが本番では初の汎用術式プロトスペルを放ち始める




 ドォォォォン


 見事に車輪に命中。




(当たった、やった!)


 わずかに喜ぶ海輝。




 すると動く塔は傾き始める。


 ギィィィィ……




「よし、傾き始めたぞ!!」


 周りからは歓喜の声。




 そして、その傾きは止まらず…




 ガシャァァァァァァァァン!!!




 そのまま地面に倒壊する。


 中に人が大量にいたのだろうか、塔からは悲鳴の声が聞こえる。


(中にも人がいたのか、恐らく中で車輪を動かしていたな、恐らく壁につけられていたら中の階段を伝って大軍を送りこまれていたな……)


「おい、誰か!このことをほかの奴らにも伝えろ、車輪を壊せと」


「はい!!」


「兵士の1部が反応し、他の戦線へ向かっていく」




 そして下部への集中攻撃により、敵の新兵器は次々と攻撃を受け倒壊していく。






 そのさなか、戦場を動揺させる伝令が届く。




 伝令!!伝令!!






 大声で伝令係がやってくる。


「どうした」


 伝令がかりに答える広希。


「敵に1部の城壁を突破された模様。援軍要請が来ています」




「え?」


 予想外の報告に広希が思わず声を漏らす。




「突破されているだと」


 兵士たちの間に動揺が広まる。


「何があったんだ?どんな奇襲作戦だ?」


 聞き返す広希


(まずい、こっちに動揺が広がっている……)




「いや、門番の兵士が門に鍵をかけるのを忘れていたのだそうです」


 伝令係が答える。


「え?そんな……」


 唖然とするイレーナ。




 それを見た広希が周りに向かって話しだす。


「わかった、今は過ぎたことを攻めている場合じゃない。俺達といくつかの部隊はそっちへ向かう、あの動く塔への対策は伝えてある」


「みんな、行くぞ」


「わかった」


 掛け声に答える海輝




 この場所を去ろうとした時、景が問いかける。


「広君?」


 それにこたえる広希。


「ん?」


「これ、本当に偶然だと思う?私には、何か裏があるようにしか見えないんだけど……」




「俺もそれは思った。本当に偶然だろうか?まさか?」


 しかし今に彼らにそれを判断する手立てはない、そして街の防衛のため侵入された市街地へと向かっていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る