第6話 入会者
明朝、ギルドにやって来ると既に長蛇の列が出来上がっていた。
普段であれば割の良い依頼を誰も速く手に入れるため列なんて作らないし並ばない冒険者の事を考えるに、彼らの大半は入会希望で間違いないだろう。
「これ、いくら儲かるんでしょうね?」
「ざっと数えただけで五十人……五百万ウイスだな」
「すごい……」
宮廷魔術師として働いていた時の年収が八百万だったことを考えると、もう既にとんでもない大金だ。
ただ、そのうちの十パーセントはギルドの手数料になるし、税金も取られてしまうが、それを考えても多すぎる金額と言える。
何やら買いたいものでもあるのか、計算を始めようとするクロンに耳打ちする。
「五百万稼いでもそのうちの大半は負債に消えるからな」
「……あっ」
むぅっと悔しそうな顔が可愛らしくて吹き出しそうになるが、何とか堪えて裏口からギルドに入る。
すると中ではバタバタと動き回る足音や職員同士の声なんかも聞こえ、相当忙しいのであろうことが伺える。
と、通路を通りがかった職員が俺たちに気付き、木箱を抱えたまま早く来てと手招きする。
そんな彼の後に続いていくと酒場が臨時の入会受付所になっていた。
ステージには入会の手順を記した看板が設置され、カウンターはカードを読み取るための魔導具と用紙の山が出来上がっている。
「おお、来たか。お前なかなかやるなあ?」
「ああ、どうも」
「あそこの受付嬢たちに入会時の手続きと注意事項、教えてやってくれ。後、受付開始したら金の計算と補助を頼む」
「補助はともかく、計算は受付嬢で出来ないか?」
「お前らだけ良い思いしてっと、あいつらやる気無くすからな。それにお前らがやった方が早い」
確かにそうかもしれない。
信頼を得るためにも一緒に働いた方がやる気を出してもらえるだろう。
「分かった、計算は俺とクロンでやる。それ以外は任せても大丈夫か?」
「おう、あいつらに売りつける用の品物も用意してるからな」
品物の売り上げの方は十パーセントが俺たちに入り、残りがギルドの取り分となる。
ちなみにその品物は、ギルドの傘下にある鍛冶屋などが作る武器や防具を始めとした、冒険者や戦闘を生業とする人たちに向けた物がメインとなっている。
それ以外にも耐性を付与するポーションや回復薬、魔物の毛皮などもあるが、在庫は少ないと聞いている。
「よし、そろそろ時間だな。扉を開けろ」
既にドア前で待機していたゴツイ男二人がゆっくりと開き、それを見て冒険者が雪崩れ込んで来るのかと身構える。
しかし駆け込んで来たのは数組の冒険者パーティだけで、それ以外は足早にこちらへやって来た。
「入会受付は入口左手側だ。手順表を見てから受付に行くんだぞー」
バルヒェットがそう言いながら案内を始め、俺とクロンは受付に入って計算の準備を始める。
と、受付嬢が少し緊張した声色でこちらを向く。
「あの……このやり方って儲かるんですか?」
「多分な。未知数なところが多いから俺も分からん」
というか、このやり方で儲けられないで倒産なんて事になったら負債を返せなくて首を刎ねられることになりそうだ。
脳裏にクロンがギロチンに掛けられる様が浮かび上がり、鳥肌が立ちながら両頬を叩く。
「よし、頑張ろう」
「やる気満々ですね」
「そりゃな。一緒に首刎ねられたくないだろ?」
「……頑張ります」
嫌な事を考えてしまったのだろう、余裕そうだった雰囲気がサッと変わった。
しかし、どことなく楽し気な雰囲気は残っていて、少し不思議に感じていると手順表を見た冒険者たちが受付前にやって来た。
「入会希望ですね? 料金十万ウイスと冒険者カードをこちらに挿入してください」
「あいよ」
冒険者の相手をする受付嬢の横で、クロンは金の入った麻袋を手に取ると中身を確認する。
しっかり十万ウイス入っていることを確認するとカードを返し、品物の販売所への案内をして次を呼ぶ。
するとやって来たのは三人組で。
「こいつら、俺の勧誘で来てくれたんだけど。金くれるのか?」
「一度、三人とも加入してからになります」
事前にバルヒェットへマニュアルを渡しておいたこともあり、受付嬢はすんなりと対応していく。
宮廷魔術師として働いていた時はどう利益に繋がるのか分からない仕事ばかりでやる気にならなかったが、こうも目に見えるとやりがいがある。
「センパイ」
「どうした?」
小声で呼んで来たクロンに、金貨と銀貨の枚数を数えながら返事をすると。
「きっと、上手くいきますよね」
「……ああ、きっとな」
可愛らしい笑顔を真正面から見てしまった俺は、思わず目を逸らしてしまいながら短く答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます