第5話 チャンス
ギルドに帰還したのは昼過ぎ頃のことだった。
冒険者が出払ってしまった事で大通りは朝ほど人はいないが、今度は買い出しを市にやって来た主婦や商人の奴隷たちで賑わっている。
「なんか、奴隷増えてませんか?」
「ちょっと前に戦争あったからな。捕虜が連れて来られたんだろ」
確か、以前から領土の小競り合いをしていた隣国の領地に攻め込んだとかって話だったか。
結局どうなったか続報が無い辺り、負けたか引き分けで終わってしまったのだろう。
ギルドに到着すると仕事の無い新米冒険者たちが併設されている酒場で退屈そうに駄弁っている。
「あの人たち日雇いの仕事でも探せば良いのに」
「日雇いなんて稼げないからやりたくないんだろうな」
そんな事を言いながら受付へ向かうと、察した受付嬢がすぐに奥へ引っ込んで行き、数分待つとバルヒェットがやって来る。
「何だ、見つからなかったか?」
「いや、二匹とも殺した」
言いながらクロンと共に死骸から回収して来た体の部位や切り落とした頭を入れた木箱を出すと、彼は困惑した様子ながら中を見る。
「二匹ともってどういう……ああ、番か」
中身を見て察したのかそう呟いた彼は、一つ思い付いた顔をする。
「なあ、募集掛けるのって明日からやるとか言ってたよな?」
「まあ、そうだな。それがどうした?」
「今やっちまえよ。丁度、冒険者も結構いるしよ」
その言葉でハッとした俺は後ろを振り返り、暇そうな冒険者たちに目を向ける。
確かに今は冒険者に勧誘を仕掛ける最高のタイミング。それもグリフィンをぶち倒してきた俺がやれば、話を聞く気にもなるはずだ。
「俺も協力してやる。一気に金蔓を作っちまおう」
悪い顔をしながらそんな事を言ったバルヒェットは受付を飛び越えてこちらにやって来ると、酒場の最奥にあるステージに向けて歩いて行く。
普段はストリップや演奏などにしか使われないそこには勝手な登壇を禁ずる看板があり、彼はそれを隅の方へ移動させる。
上手くいくかどうかわからない不安から来る緊張を抱えながら俺とクロンも登壇すると、冒険者たちがざわざわと騒がしくなる。
「全員聞け! パンプフで暴れていたグリフィンの番がこいつらによって討伐された」
言いながら箱から取り出した頭を掲げて見せたバルヒェットに、冒険者たちはおおっと盛り上がる。
すげえすげえと盛り上がる彼らを見て余計に緊張していると、彼は俺の腕を掴んで。
「そんで、こいつらが儲け話を一つ思い付いたそうだ。聞きたい奴は聞いていけ」
深く息を吸い込んだ俺はこちらを見る冒険者たちに向けて口を開く。
「俺の名はアムストロ・マルヒャー、元宮廷魔術師だ。まあ、ここにいる者が興味を持っているのは俺じゃなくて金の話だろ?」
その言葉でまた盛り上がり、「金くれー」と叫ぶ者が出て来る。
「俺が紹介するのは、ゆくゆくは働かなくても金が勝手に入って来るようになる話だ。最初は大変だが、面倒な労働も、命がけの仕事も、全て必要無くなって自由な生活が待っている」
冒険者に一番効きそうな言葉を並べてみると、分かりやすいほど彼らは食いつく。
「このやり方はここから遠く離れたベルバテック帝国で流行ってるんだが、これに取り組んだ者たちは自由な暮らしを手に入れて勝ち組に、冒険者稼業に固執する者は負け組として扱われている」
ベルバテックは海と山を挟んだ先にある遠く離れた国で、未知な部分の多さから憧れる者が多いのだ。
かくいう俺も一度は行ってみたいと思っているが。
と、冒険者の一人が口元に手を当てて。
「早く方法教えろよー!」
「しょうがない。前置きはこのくらいにしてやり方を説明するとしようか。まず君たちがやる事は俺たちの会員になり、友人や知人を勧誘するんだ」
その言葉を聞いた皆は困惑した表情を見せる者が多いが、数人は何となく理解した顔をする。
「一人勧誘するごとに五万ウイスがお前たちの手元に入る。つまり、十人誘えれば月収五十万ウイスも夢じゃない」
理解した者たちが「おおっ!」と歓声を挙げる。
「まだ話は終わらない。自分の勧誘した者たちと協力してギルドの扱う品物を購入し、それをたくさんの人に売り捌く。そうすると売上金の一部と会員費用の一部が勧誘者に入り、もっと儲けられるようになる。俺の試算だと百万ウイス儲ける事も不可能じゃないぞ!」
そう、不可能では無いだけだ。売れなきゃ大損になる。
しかし彼らは全く気付く様子無く俺の話を一言一句聞き逃すまいとばかりに前傾姿勢となり、中にはメモを取り始める者もいる。
「後は分かるな? 下請会員にも知人を紹介させて、どんどん輪を広げていく。そうすると下請たちが勝手に商品を売るから、後は勝手に金が入って来る生活が待っている……会員になりたい者は?」
ほぼ全員が手を上げながら財布を取り出すのを見て俺は頷きながら。
「募集は明日、ここで行う予定だ。会員費は月々十万ウイス、二人誘うだけで元が取れる金額だから初期投資だと思って気前よく頼むよ。くれぐれも、チャンスを逃さないように」
十万という大金を毎月払えと言われたのに、彼らは全く迷う素振りを見せていない。
上手くスピーチが出来た事に安堵していると、バルヒェットがニヤニヤしながら俺の肩をポンと叩き、受付の方を指差す。
「あっ」
どうやらギルド職員たちも話を聞いていたらしく、興味津々な様子を見せている。
……明日からはまた忙しくなりそうだ。
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