第11話 墓暴き

 目を覚まして直ぐに、自分のすべきことを理解した。

 懐かしい感覚。身体の全てが自分の思い通りに動くような。


「國彦!」


 ラチカが鉄棒を投げた。

 鉄棒の鈍い光沢に、國彦の顔が映る。何も変わっていない。だが、その腕が、甲殻類のような外骨格に覆われていた。

 アダムスーツの一部が、國彦の腕に装着されている。


 特別サービスだ。


 一瞬見た夢での言葉を思い出す。

 あの神擬かみもどきが、世界の因果に、少しだけ融通を効かせてくれたのだろう。


 國彦は男に鉄棒を振り下ろす。男は先程と同様に脅威の反射神経でそれを受け止めたが、國彦はその隙を見て、アダムの拳を握る。


「喰らえ」


 國彦は渾身の力で、男の鳩尾を真っ直ぐ、激しく打擲ちょうちゃくした。


 倉庫内に、衝撃音が響く。


 男は大きく宙に浮く。

跳躍ジョルト

 國彦はそれでもまだ姿勢を立て直そうとする男に向けて跳躍し。

アウト

 間髪入れず、再度打撃を加えた。


 再び男の身体が宙を舞う。

 男はゆっくりとラチカの近くに落ちていく。


「はんッ」


 ラチカは鼻で笑うと、腕を支柱にして下半身を浮かせた。


「この糞野郎!」


 ラチカは落ちて来る男を、腱を切られていない方の脚で蹴り落とす。


 それが決定打となった。


 男は完全に意識を失い、沈黙した。


「あんたそれ」


 ラチカは脚を引き摺りながら、國彦の元へ向かった。


「ああ」


 國彦は小さく頷いた。

 オルムとドンナーの戦いは、セーブデータの上書き合戦のようなものだとゲームに例えた大河の言葉を、國彦は思い出した。


「クリアボーナスみたいなもんだな。お前の怪力と一緒だ」

「んだそりゃ」


 ラチカが怪訝そうに眉をひそめた

 それから少し沈黙して、嫌なことを思い出したとばかりに顔もしかめる。


「あんたが倒れた後、文句言ってやったんだ」

「文句?」

「ドンナーのクソッタレに。こんな中途半端な世界に放り出しやがってって」


 國彦は噴き出した。


「俺も同じことを言った」


 さて、と。國彦は倒れた男の腕を落ちていた縄で縛り付けた。

 倉庫に駆けつけた時、既に気絶していた女の服を探り、携帯電話を見つけると、警察に電話した、


「暴行事件です。場所は──」


 それだけ言って通話中のまま地面に携帯電話を放り、ラチカに手を差し伸べる。


 ラチカもその手を握り、國彦の肩を借りて、倉庫を出た。


 それから一部で、まことしやかな噂が流れるようになるまで、そう時間は掛からなかった。


 鬼の腕を持つ男と、人並み外れた怪力を持つ女の二人組の、英雄ヒーローの噂が。

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墓暴きの女。 宮塚恵一 @miyaduka3rd

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