第8話 日常と休息
朝目覚めると、國彦は脱ぎ捨てていたジーンズを履き直した。
ラチカは未だ裸のまま眠っていたので、その身体に毛布を掛けてやる。
「暫くはゆっくりできるって言ってたか」
しょぼつく眼を擦り、洗面所で顔を洗う。
鏡を見るのは苦手だ。
その奥にアダムスーツを着ている自分を幻視することがあった。それが現実であったことを証明できないのに、戦いの記憶だけはありありと思い出せる。そんな歪さに、吐き気を催しそうになるからだ。
シャワーを浴びて上下共に着替え、ベッドに戻る。
ラチカは未だ眠っている。
國彦はホテルの内線でモーニングを頼み、脱ぎ散らかした上着も鞄にしまった。
自分達の関係を、正しく言い表わすならばなんであろう、などと煩わしいことを考えた。
仲間? 運命共同体? それとも──。
「阿呆らし」
そんなこと、言葉にする必要もないだろう。
もう一度で良いから、彼女に会いたい。本当に、それだけなのだ。
國彦は何となしにテレビを付けた。
朝から殺人があっただの、事故があって子供が轢かれただの、気の滅入るニュースをやっている。
人類を侵略せんとする、オルムは倒された。
だが、こうした毎日までが変わることはない。
「起きてたのか」
ラチカがむくりと起き上がる。
「朝食、頼んであるぞ」
「ああ、サンキュ」
ラチカは裸のままふらふらと冷蔵庫を開けて天然水のペットボトルを手に取ると、一気に飲みくだした。
「次はいつだ」
「あー……」
國彦が訊くと、ラチカは頭を掻いて暫く考える素振りを見せた。
「いつも言ってるけど、あたしの記憶はぼんやりしてるんだ」
「未来が変わった奴もいる」
「良いんだ。最初から、これはあたしのエゴだから。……あんたも飲む?」
ラチカは少しだけ中身の残っているペットボトルを國彦に差し出した。
國彦は首を横に振る。
「俺は良い」
「そ。次は、本当に先。一ヵ月くらい、何もない」
「珍しいな」
「かもね」
「またバイトでも探さねえとな」
こうした期間は國彦とラチカの二人で短期バイトをやることにしている。
当然というか、肉体労働メインだ。特にラチカの怪力は、何をするにもまあまあ役に立つ。
ただ──。
「たまにゃどっか遊び行くか」
「酒、あんたの奢りな」
「なんでだ。っていうかまず服着ろ」
國彦は床に落ちていた服をラチカに放り投げる。
ラチカはおかしそうに笑いながら、それを受け取った。
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