第2話 牙城國彦とエルラチカ
牙城國彦は改造人間だ。
正確に言えば、元改造人間である。
だが、その過去は世界の彼方に葬り去られた。
「礼はいらないです。こちらが勝手にやってることなんで」
國彦とラチカは、救出した娘の無事を確認して直ぐ、彼女の前から姿を消した。
二人にとって彼女を助けることが目的で、それ以外のことはどうでも良かった。
「後はあいつ次第だ」
ラチカは國彦の運転する車の助手席で、ぶっきらぼうに呟く。
「次は?」
「もうカーナビに目的地打ち込んであるから走れや」
ラチカはそう言うなり、座席を倒して眠りについた。
「了解」
國彦は車を走らせる。
エルラチカは怪人だ。
正確に言えば、元怪人。元オルムの子供達。
國彦と違うのは、ラチカは天然の怪人だったということだが、その過去もやはり世界の彼方へ葬り去られている。
男を一人難なく片手で持ち上げるような怪力はその時の名残だろうと、彼女自身は考えているが実際のところを知る術はない。
オルム
かつて人間を襲い、世界を侵略しようとした、オルムと呼ばれた高次元生命体の使徒。
今でこそ人間の姿をしているが、その正体は全身を甲殻類のような外骨格に覆われた怪人。
だが、ラチカはその姿を永遠に失っている。
最初から、そんなものはなかったことになっている。
を倒すべく力を与えられたグレイヴマンによって、
牙城國彦もエルラチカも、自分達は元々人間を領域を超えてしまった存在であったことがあるという、記憶だけが残っている。
「呑気なもんだ」
隣で眠るエルラチカを見て、國彦はポツリとひとりごちた。
彼らが超人/怪人であった証拠はない。記録もない。過去もない。
だが、牙城國彦は忘れない。
かつて自分達が共に戦った仲間であったこと。
共に侵略者オルムを打倒したこと。
「いっそ妄想だったらどれだけ良かったか」
そして敵であったエルラチカに恋をしたこと。
國彦が恋をしたのは、彼の横で眠っているエルラチカではない、と彼は認識している。
同一人物だが、別人。
だから、また逢いたいと願っている。
かつて彼が恋したエルラチカに。
今の彼女と共に旅をすることで、もしかしたらと思っている。
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