墓暴きの女。

宮塚恵一

第1話 正義の味方と極悪人

「本当に知らないな?」

「やめろ……やめてくれ」


 東京某所の反社会的勢力の事務所。

 國彦は溜息をつき、それまで漁っていた箪笥の戸を乱暴に閉めた。


 部屋には涙目の男が、頭を下にしてぶらぶらと揺れている。


 揺れる男の脚を持っているのは一人の女だ。


 辺りには男達が積み重なるように倒れている。

 國彦はそれもお構いなく踏みつけて、女にぶら下げられた男の元に来た。


「流石に疲れた。このまま窓開けて落としても構わねえか」

 

「待て待て、ラチカ」


 國彦はラチカを制すように両手を彼女に向けた。


「冷静に行こう。尋問の方法なんざいくらでもある」


 國彦は懐からナイフを取り出す。そのまま男に目線を合わせて、その鋭い切先を男の目の前に向けた。


「教える! 教えるから!」

「本当だな?」

「ああ!」

「ならさっさと吐け」


 國彦は男の頬をナイフで切る。男は小さく悲鳴をあげ、必要な情報を國彦に喋った。

 ラチカは用済みになった男を床に落とすと、後頭部を蹴り上げて気絶させた。


 國彦もラチカも、どちらともなく踵を返し、急いで事務局から外に出た。




 事務所の男の吐いた情報を元に、郊外のコンテナハウスを訪れる。

 ラチカは苛ついたように吼えると、コンテナの取っ手を両手で掴み、渾身の力でこじ開けた。


 中には猿轡を噛まされた裸の女が倒れていた。全身濡れているが、息はしている。


 ラチカは自分の着ていたジャケットを女に羽織らせて、抱き上げた。


「貴方達……は?」


 弱々しい声で問う女に、二人は答えた。


「正義の味方」

「極悪人だよ」

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