第11話 轟音、強襲 2

 「…やられた。なぜ天井を突き破られることが想定できなかった!総員結界を展開しろ!」



 下では想一郎さんが指揮を執っている。私たちも援軍に向かおうとするが、



 「行かせないぞ。」


 「エレグラ、こいつ誰!?」


 「こいつも有名だ。レバルディの配下筆頭、双剣使いのデュールだ。何でよりにもよって毎回俺たちは筆頭に当たるかな。」


 「お前は…そうか。この小僧があいつの言っていた裏切り者か。そこそこいい戦闘能力を持っていると見た。面白い。殺し甲斐がある。」

 

 「気をつけろ、何か仕掛けて来るぞ!」


 「虎流殺傷術こりゅうさっしょうじゅつみず暗水雲あんすいうん!」



 次の瞬間、デュールは私たちの前から一瞬にして姿を消した。しばらく妙な静けさが続いたが、その数秒後には事は起きていた。私のすぐ後ろにいた男性の隊員の腹が突然裂けたのだ。男性はそのまま倒れ動かなくなってしまった。



 「何!?」


 「ナミカ来るぞ!そのまま後ろへジャンプだ!」



 私はエレグラの言うように後ろ向きにジャンプした。すると足元から、いつ現れたのかもわからない速さでデュールが斬りかかってきた。もう少し遅ければ私もそこの隊員のようになっていたであろう。デュールの刃は私の服をかすり、辛うじて身は無事であった。



 (速い…!エレグラがいなきゃ避けようもなかった。…いや、ぼーっとしてる暇なんてない。反撃、そう、反撃を!)



 私は引き金に手をかけ、撃とうとする。しかし、突然グレイの死に顔が脳裏に浮かんできた。どういう訳か、私の手は震え、思うように引き金を引くことができない。



 (…なんで、どうして!わかってるはずなのに…!」



そうこうしているうちにも、デュールは次の攻撃を仕掛けてきた。首を斬られそうになった時、横から見慣れない剣が間に入り、デュールの剣を弾き飛ばした。



 「誰?…って、あなた、クルさん!?」


 「まったく、ほんと手間がかかるよな、ナミカは。」


 「え、クルさん、今私のこと…」


 「エレグラってやつから聞いたぜ。やっと名前がもらえたんだな。これが終わったら祝杯をあげようじゃないか。それにしても同じ隊だとは驚いたぞ。今や俺も、この間の戦いの後、副隊長へと成り上がったんだ。ここは任せてくれ、他でもない、お前のためだ!」



 クルさんは剣を高く振り上げる。



 「王剣キングブレイド限界超過オーバーリミット神皇之真眼ゴッドゲイザー!」



 次の瞬間、クルさんの剣は金色に輝く。そしてクルさんが剣を振ると、その荘厳な斬撃は辺りを一瞬にして抉り取った。



 「ほう、ここにも筋のあるやつがいたか。ますます面白くなってきた。だがその程度でこの俺に攻撃を当てられると思うなよ。」


 「まだまだー!」



 クルさんは縦横無尽に剣を振り回す。しかしデュールの動きは速く、これだけ広範囲の攻撃でもかすりすらしていない。



 「全然当たってないし。さすがに素人だからな。これ…どうしよう。」


 「見てられんな。俺が出る。」


 「エレグラ!?このスピードについていけるっていうの?」


 「動きを見切れている時点で勝ったも同然だ。捕食者、それもこのレベルのやつに合わせるなら、被食者じゃ無理だろう。神爪刀シンソウサーベル限界超過オーバーリミット抹殺形態キラーモード。」



 エレグラが刀に付いているレバーを引くと、青い稲妻と共に刃が三枚に分裂した。エレグラは居合い斬りのように刀を構える。



 「デュール、こっちだ。俺が相手をしよう、斬れるものなら斬ってみるといい。」


 「面白い。ならばそのはらわたをえぐり取り、レバルディ様へ献上してやろう!」



 デュールは凄まじい速さで斬りかかるが、次の瞬間には勝負はついていた。



 「…獲った。」



 私が気付いたころには、デュールの体は巨大な魔物の爪にでもえぐられたかのようにバラバラになっており、辺りには血しぶきが飛んでいた。



 「すごい…」


 「合わせただけだ。…初めて限界超過とかいうものを使ってみたが…なんだこれ、やけに疲れるな。」


 「そりゃそうだろ、まじで限界引き出してるんなら、一回限界超過しただけで武器は壊れちまう。武器自体の制御解除は七割程度にして、足りない分は、使用者の生命エネルギーから補ってるんだ。だから一気に使いすぎると武器だけじゃなくて自分も死んじまうんだって、隊長が言ってたぜ。」


 「怖っ」



 なるほど、こんなに頻繁に限界を引き出しておいて大丈夫なのかと、今までひそかに疑問を抱いていたが、そういうことであれば合点がいく。それにしても、



 「却ってそれの方が危険ではないのか。」


 「さすが、言いたかったことを先に言ってくる。」


 「一日一回程度なら、健康に支障はきたさないみたいだぞ。」


 「ねぇ、クルさんいろいろ知ってるっぽいから聞くけど、私の銃って、オーバードライブトリガーどこについてるの?」


 「あ?そんなの、大体わかりやすいところに…って、この銃、まじでオーバードライブトリガーついて無くねえか?」


 「ええ…」


 「二人とも、気を抜いている暇はないぞ。」


 デュールの死に気付いた周りの残党たちは、一斉にこちらへ向かってきている。


 「私役に立ててるのかな…」

 


 一方そのころ…箱舟内のとある一室にて…


 

 「…私、役に立ててるんでしょうか。これで、いいんですよね。」



 一人の幼い少女と共に、怪しい人影が一つ…



 「うん、ばっちりだ。今回もよくやってくれた。」


 「あの…これで、ノウダンさんは助かるんですよね。」


 「それは君の働き次第さ。これまでこの…箱舟?の情報収集、ご苦労だった。しかし、ナミカという女を毒殺しろと言ったのは…」


 「ごっごめんなさい!次は必ず…!」


 「いや、もういい。彼女もどうせ今日死ぬ。あの劇薬を摂取しても昏睡状態になるだけとは、少しひやひやしたが、あの危険分子の覚醒はなかったんだ。結果オーライじゃないか。それより、新しい任務だ。…皇珠護天を、暗殺しろ。」


 「…!皇珠さんを!?でっでも…!」


 「何のために君に力を授けたと思ってるの。今回は派手にやっていい。この混乱に便乗してね。監視カメラも君のおかげで全部ストップしてるんだ。君はだれからも恨まれることはない。…ノウダンにも。」


 「わかり…ました、ウーラさん。」


 「期待しているよ。…安心して行っておいで。君には天虎幹部二位であるこのウーラが付いているのだから。」



 場所は戻り最上階廊下、私たちは無数に湧いてくる残党と死闘を繰り広げていた。



 「きりがない…こいつら、どれだけ湧いてくるんだ。」


 「さすがに疲れて来るな…おい、ナミカ、お前は大丈夫なんだろうな。」


 「うん、何とか。限界超過なしでも案外戦えるかも。でも、流石に…」



 長時間にわたる戦闘に疲労が見えだしていた時、後方から一発の弾丸が目の前の敵を撃ち抜いた。さらにその弾丸は分裂し、周囲の敵を一掃していく。



 「あれは…ステラ!無事だったんだ!」


 「ナミカ…!あんたも無事だったのね。正直あんたが一番最初に死ぬんじゃないかと思ってたわよ。」


 「そういえば、ステラの所属って…」


 「そう、ここなの。私への配慮なのか、あなたたちと一緒の隊に配属されたわね。余計なお世話よ。」


 「彼女は…さっきの会議中に紹介のあった、ステラ=リゲルじゃないか。しかし驚いたぞ、風の噂で聞いていた苗字というものを持っているとは。」


 「…誰か知らないけど、みょーじって何よ。私はステラ=リゲルまでが名前よ。」


 「そうなのか!?」


 「そうなのか!?」


 「そうなの!?」


 「何をみんなして驚いてるの。そんなに変かしら。」


 「いや、だって!」


 「話は後だ。ステラのおかげで、周りの敵は大方駆逐できた。次は下の援護に…ん?おい、あれ…」



 エレグラの指さす方を見ると、そこには何やら焦った表情で走るナコちゃんの姿があった。



 「ナコちゃん?どうしたんだろう。ここは危ないのに。」


 「ん?ナコちゃん?って、ノウダンさんちでバイトしてたあの女の子か?さすがに危険だ。行くぞ。」



 私はふと嫌な予感がした。これがただの気のせいならばよいのだが…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る