第5話
僕のお兄ちゃんはクズだった。
話は聞かないし、呼んでも無視、部屋は汚いし、 家計からお金を盗ってゲームを買う。
あげくに僕のことは、 「おい」 とか 「お前」ばっかりで名前もまともに呼んでもらったことがな
い。
それでも、僕にとってはお兄ちゃんで、両親も家族と思ってた。
ある日、夕飯のためお兄ちゃんを呼びに部屋をノックした時、返事がなかった。
いつものことでどうせ鍵のかかってないドアをそっと開けると中から笑い声が聞こえた。
「あははっカサキってほんとに面白いね。」
その透き通ったような綺麗な声に僕は…一目惚れ
をした。
「…あっお兄ちゃん、 ご飯だって」
「あ?めんどくせー…そうだ、お前さっ俺の分持ってきてくんね?」
「この声って... カサキがたまに話してくれる弟
君?」
「ん? そうそう、それ」
「もっと弟君、大事にしてあげなよ。」
「俺がそんなめんどいことするわけねぇだろ。」
「う、うん。わかった。」
いつもの僕だったら嫌だよとか無視して待ってる
よとかてきとうに返してるはずなのにその時の
僕はPCの画面の向こうから聞こえる声に魅了さ
れていた。
「お前、今日は妙に素直だな。まぁいっかんじゃよろ」
それから僕はもっとその声をききたくて、お兄ち ゃんの部屋に理由もないのに行くようになった。 だからその声がどんどん好きになって、 けど同時にその声の主がどれだけお兄ちゃんのことが好きなのかもよく分かってしまった。
数年経った夜、 急に両親から呼び出された。
2人共深刻そうな顔をして、 僕に絶望を贈った。 「これからはお兄ちゃんのことをクズと呼びなさい。それと、お兄ちゃんの部屋には鍵を何個かつ けて鍵を渡した。 これからはお兄ちゃんの部屋に
は入るな」
え…
意味がわからない、 どういうこと?
お兄ちゃんはクズだけどいくらなんでもそんなことって...
え?
それにじゃあ、僕はもう、あの人の声を...きけないの?
そんなの...嫌だよ
そこで僕の初恋は、唐突に終わりを告げた。
それからは僕はお兄ちゃんとほとんど話すことも無くなった。
勿論、あの透き通ったような綺麗な声もきけなくなった。
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