【53】アベル様の本当のお母さまに会いました。①
寒さ冷え込む2月。
既に結婚式の支度のピークは終わった頃。
「すこし、暖かい国へ婚前旅行に行きましょう……いえ、結婚はもうしてるんですが」
「婚前旅行! ……というか、そんな時間あるんですか?」
「私、実は闇魔法使いでして」
「それは存じ上げてますが。つまりテレポートですか。二人で行くんです?」
「まさか。部下にも何人か闇魔法属性がいますから。全員で連携します」
「闇属性便利!?」
「便利でしょう」
――そんな軽い話題で始まって連れて行かれた暖かい国『カルディアラ王国』。
馬車ごと何度かテレポートし、着いた瞬間。
「暖かい!?」
「暖かいでしょう。春より暑く、夏より涼しい、一年中過ごしやすい気温に恵まれた国なんですよ」
生えている木が図鑑でみた事はあるものの、実際に見たことない木が生えてる。
前世で言うとハワイっぽいイメージの国だなあ。多分ハワイでもオフシーズンというか涼しい時期?
テレポートで出た場所は、カルディアラ王宮のすこし手前だった。
「じゃあ、早速挨拶に参りましょう。そしてあとは観光して2~3日ゆっくりしたら帰りましょう」
「はい……って、わあああ」
王宮の反対の遠方に、エメラルドのような色の海が見える。
わ、わくてか!
「僕、あの海で泳ぎたい~」
私が目を惹かれた瞬間と同時に肩に乗ってたサメっちが、ヒレをパタパタして言った。
「いいですよ。じゃあ、一度海へいきましょうか」
「え、いいんですか!?」
「ええ、遊びに来たのですから。もともと行くつもりでもありましたし」
「わーい!」
サメっちが空中で小躍りしている。そして私も。
わ、わーい!
前世でも今生でも、こんな綺麗な海で、遊んだこと今までないよ!
スイカ割りとかしたーい! くそう、話通じる人がいな……
「スイカ割りしたいですううううう!!」
いたー!!!
傍らを見ると、リリィもキラキラした瞳で海を見ている。
「なんですか、スイカ割りって」
「あ、えっと。なにかこう固くて大きな果物を、目隠しして誰が割れるか競うゲームです!!」
リリィ、ごまかすの早いな!
「ふむ。ああ。西瓜(すいか)。そういったゲームも確かにありましたね」
この世にも西瓜割りあった!
「西瓜ならセバスさんが別荘のほうにご用意させていたはずです」
セバスの代わりに、旦那様の世話役でついてきたロニーが言う。
ロニーはリリィほど頻繁に顔を合わせなくなったのだけど、会う度に顔が大人びてきている。
言葉使いも、洗練されてきている。なんか、イケメンになってきたな……。
「ありがとう、ロニー。もう少し気を楽にしていいんだよ」
アベル様が、そう言ってロニーの頭を撫でた。
ロニーがすこし頬を赤くして、言った。
「いえ、私はセバスさんの代行ですので」
身のこなしといい、喋り方といい……セバスに仕込まれている……!
更に、騎士団のほうでも鍛えられてるんだろうなぁ。
そしてその境遇についていけるロニーは偉いな……。
昔、アベル様をテストしたセバスが目を付けたってことは、私が思ってた以上に優秀な子なのかも。
リリィも、ロニーが一緒なのでいつも以上にテンション高そうだ。
*****
「よく参った。楽にせよ。アベル。そしてその妻アプリコット」
「ディフィルナ陛下にご挨拶申し上げます……」
「――初めまして、ディフィルナ陛下」
目の前には、アベル様に良く似た顔立ち、そして長い黒髪に翡翠のような瞳の女帝。
――アベル様の本当のお母様だった。
事前に話を聞いた時はびっくりした。
高貴なお方がお母様、というのは聞いていたけれど、まさか王族……しかも一国の女帝だったとは……。
というか、アベル様も最近知ったらしい。
結婚が決まったから、あなたにも話す時がきた、みたいな感じで義理の両親から話があったらしい。
「お前が、あそこの辺境伯になった我が子アベルか。なるほど、妾(わらわ)に似ておる……と、おお可愛らしいではないか。アプリコット。アベル、良き伴侶を得たな」
「ええ、よろしくお願い致します。ディフィルナ陛下」
「お褒めに預かり光栄です、ディフィルナ陛下……」
挨拶しながらも、ディフィルナ陛下の側にいる薄着な美男美女が気になる……!
ハーレムが法律で許されている国とは聞いていたけれど!
というか、同性も侍らせている!? 両方いける口ですか!? お義母さま!
こ、これは好色王というやつでは……!
「ほら、堅苦しくせんでええ。どれ、もっと近うよれ、アプリコット」
ディフィルナ陛下に手招きされる。
「……?」
は、はい?
「ディフィルナ陛下、おやめください。カルディアラ王国とはこっちは文化が異なります」
会ったばかりの母親にきっぱり言い放つアベル様。
毅然(きぜん)としてるぅ! 好き。
「つまらんのう。まあ良い良い。では、夕餉の席でまた会おう。妾(わらわ)もそろそろ仕事に戻るゆえ」
そして、ディフィルナ陛下もあっけらかんとしてらっしゃる方だなぁ。
助かるけど。
その後、王宮を見学させてもらい、夜にはディフィルナ陛下と食事会をしたあと、私達はホテルへと移動した。
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