【41】可愛いサメ&クマ&ネコ VS ドラゴン。


 サメっちのリミッター解除を求める声に、私は応える。


「OK」


 私はサメっちに力を与える。


 サメっちのちょっとフワフワしていた体が――リアルなサメそのものの、滑らかだったりザラザラだったりする、いわゆる鮫肌になっていく。


「これ、受肉してますよね!? いや、手足をはやしてた時もあれはある意味受肉だともいえますが……」


「アベル様、しっかりしてください。ちょっとリアルっぽくなりましたが、サメっちの可愛らしさは変わりません」


「いや、可愛いとか可愛くないとかじゃなくて!」


「ニャン教授~。旦那様とリコの護衛お願いね~」

「あい、わかった」


 そしてリアルなサメになったサメっちは、私達を下ろすと海へ飛んでいった。


「え、海へ!?」

「仲間を呼びに」

「仲間!?」


 しばらくすると、海の向こうに――大きなサメの背びれが無数にこちらへ向かってくるのが見える。


「海洋魔物が凶悪な数でこちらへ向かってきましたよ!?」

「安心してください! あれ味方ですから!」


「……。(……オレはもう考えるのをやめよう。そうしよう。やめてリコを守ることだけ考えよう。こういった術師は術師自身は無防備なものだからな……うん)」


 アベル様が無言で、闇魔法で防御膜シールドを展開される。

 

「……。(アベル様……無言で私を守ってくださろうとしている……素敵……結婚したい……もうしてるけど……)」


「おや、アベル青年がアプリコットを守ってくれるようだ。どれ、私も戦場へ赴くか」

 

 ニャン教授も出陣するようだ。


「OK。行ってきて。力を送るね」


「……(ピク)」

 アベル様がピクッとされた。


「この場を任せていいかな、アベル青年」

「(オレはなにも)それは……もちろんです(考えない)」


 私がニャン教授に魔力を注ぎ込む。

 ニャン教授は飛竜と渡り合える大きさになった。普通にそのまま。


「……普通だ!?」


「あ、ニャン教授は見た目は、変わりませんよ」


「……なにかがっかりしてないかね? アベル青年」

「いえ、別に……」

「そうか……ネロ! 背後が甘いぞ!」


 ニャン教授はそこまで話すと跳躍ちょうやくして、ネロの背中を狙って高所から滑空してきた飛竜を海へ蹴り飛ばした。


「クェーーーーーーッ」

 飛ばされた飛竜は海の上を吹っ飛び――


 ザバアアアアアアアアアアアッ!!


 海から飛び上がった、サメっちの仲間の巨体海洋魔物(見た目ホオジロザメ)に、バクッ!! と口でキャッチされ、そのまま海に引きずりこまれる。


 その周りにザザザ……と、海洋魔物の尾びれが集まって、バシャバシャと激しい水しぶきが上がる。


「リコ、あ、あれは……まさか、食べ」

「あ、大丈夫です。そんなグロい事はさせませんよ! アマガミですから!」

「あ、アマガミ!? 結構な量の赤い液体が海の上に浮いてますが!?」


 クェーーーーーーーッ!!


 その時、海に引きずり込まれた飛竜が、ポーンと空中に突き上げられ、落下するとまた突き上げられ、のボール遊び状態になった。


「あ、血は多分サメっちのですね。飛竜に引っ掻かれたか噛まれたかな。可哀想に」

「血!? サメっち、ぬいぐるみでしたよね!? ――と」


 ずずん!!


 見学に熱が入っていたが、こちらにも飛竜は飛んできて、旦那様がバリアを強化して受け止める。


 そこへネロが猛ダッシュでやってきて、飛竜の尻尾を掴み持ち上げ、ジャイアントスイング状態で回転し、放りなげる。


「ぐおおおおお!!」


  ネロが可愛い咆哮をあげた。


「ネロが、楽しそうに笑ってる……珍しい可愛い」


「……あれ、笑ってるんですか? 可愛い!? どうみても狂気の雄叫びだが!?(もうこれ、騎士団いらないな……。というか、いっそ騎士団来る前に終わってくれ、頼むから)」



 ――そして。


 ニャン教授は飛竜を跳躍して蹴り飛ばし、ステッキで叩き落とし。

 ネロが衝撃波で撃ち落とし。


 その落ちてきた飛竜を(一応手加減してる)さらにボコボコにし。


 海上にうっかり飛んだり、浜辺付近を飛んだ飛竜はシャークアタックを受け、海に引きずり込まれ、しばらく、海中から戻ることは叶わない状態となった。


 戦闘不能になった飛竜が砂浜に積み上がっていく。


「が、があああああああ!!」


 ――いち番大きな飛竜。

 卵を口の中で保護しているためか、戦闘を見守っていたリーダーの飛竜が、震える咆哮をあげた。


 その声を聞いた、ボロボロの飛竜たちは、ヨロヨロと起き上がり、一匹、また一匹と続いて空に舞い上がり――街ではなく、巣があると思われる方向へ飛び、この場を離脱し始めた。


「あ……あきらめた……?」

「……そうみたいですね、サメっち、海の飛竜を解放してあげてー」


 返事は聞こえないが、海洋魔物達の背びれが少しずつ沖へ戻っていくのが見え、弄ばれてた数匹の飛竜が、ポーンと高い上空へ放り投げられた。

 放り投げられた飛竜は、空中でくるりと回転して体勢を整えると、そのまま、仲間の方へ一目散に飛んで行った。



 最後にリーダーの飛竜が、仲間が全員、離脱したのを見届けてから飛び去っていった。


 なんとなくその顔色は。


 『もう二度とこねえよ!!』


 と、言っている気がした。


 やはり可愛いは正義。勝った。


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