【42】今度は旦那様が倒れました。
飛竜と対峙した翌日、私は部屋でゴロゴロしていた。
「昨日は疲れたなぁ」
今日はご飯も部屋に運んでもらった。
別棟にも図書室はあったので、そこから適当に何冊か持ってきた本を読み漁る。
「……脳死で読める漫画とか読みたいなぁ~」
「漫画って、リコの前世にあった本だっけ」
「うん。あー、あの漫画の続きどうなったんだろうなー。久しぶりに思い出したらモヤモヤする」
のんきなどうでもいい会話をサメっちとしてたら、メイド人形のナニーが来た。
「アベル様がお越しですよ」
「ぶっ」
夜着のままだよ!!!
なんか急に恥ずかしくなってきた。
昨日、浜辺から帰ってきて、疲れてるのはアベル様も同じ……というか、普段ずっと働いてるアベル様のほうがずっと疲れているはずなのに……。
アベル様は昨日もあれから、後処理含め、様々な方面で働きっぱなしだった。
さすがにその処理は、何も教わってない私は手伝えない。
孤児院の子たちを地下洞窟から孤児院へ連れ帰った後は、さすがに疲れて休むことにした。
今回は、
そしてそのまま、この時点までダラダラしていた。
アベル様は朝早くから起きて領地のために働いているというのに、一応妻である私がこんな……ダラダラと……。
……い、いや? 私はこういう生活を望んでたはずなんですが?
なのに、いつの間にかアベル様の助けになりたい、とかいっぱい考えるようになってしまっている。
アベル様が悪い。
アベル様が私に優しいのが、甘いのが悪い。
私は枕をギュ、とした。
ああああ、もう!! そうだよ、好きだよおおおおおおお!!! 悪いかああああ!!
……でも。だけど――。
「お嬢様? どうかされましたか?」
ナニーの声にハッとする。
いや、今はそういう事を考えている場合ではなく。
「お、応接室にお通しして! 少し遅れますと伝えて」
「だから、生活リズム……生活習慣は崩さないようにと、いつもお伝えしてますのに……今日はリリィも来ないからって、ホントだらしのない……」
ナニーに怒られた!!
「わ、わかってるよ!! 今日は特別だったの!!」
「まあ……昨日は大変でしたものね。でも急ぎましょうね」
「は、はーい」
急いで着替え、
*****
「お、おはようございます、アベル様。お待たせいたしました」
「いつも急に来てすみませんね、おはようございます、リコ」
ナニーが、アベル様にお茶のおかわりを淹れ、私にも用意してくれた。
「それで、どうしたのですか?」
「許可を頂きたくて来ました。この別棟に1室、私に仕事部屋をもらえませんか」
え。
「いえ、それは……アベル様が決めることですし、私の許可なんて必要ないと思いますが……えっと、どうして」
「そう言ってしまえばそうなのですが、一言あなたに相談したかったのです。仕事が忙しくてあなたに会いづらいなら、あなたの近くで仕事をしようかと思いまして」
え、えーっと……。
アベル様、結構なんていうか……攻めると決めたら
それにしても……わざわざ別棟に来て仕事してくださるの、か。
わ、私に会うためにですか? そんなん顔が
「それは……どうぞ! でも効率落ちたりしません? それに私は孤児院に行ってる時も多いですよ」
私はそう言ってカップのお茶を飲んだ。
このお茶って、甘みがあるタイプのお茶だったかな。なんかすごく甘く感じる。
「それは承知の上ですし、工夫しますので、よろしくお願いします。なんにせよ、ここにいる時間を増やせば、あなたと一緒に食事を摂れる機会が増えそうですしね」
アベル様、忙しいのに私のこと考えてくれるんだなぁ……。好き。
「それと、まだお願いがあるのですが」
「なんでしょう」
「ミリウス家では1年に一度、乗馬交流会を開いているのですが、ちょっとその準備が押してまして、セバスを手伝ってやってくれませんか」
「楽しそうな催しですね、いいですよ」
「招待状準備やら食事の準備、テントの設営指示したりとか……また、私の妻として……ミリウス辺境伯夫人として、参加をお願いしたいのですが……乗馬は大丈夫ですか?」
私達は既に婚姻関係にあるのに、なぜこんな遠慮がちな会話しているのだろう。
ちょっとおかしくて、私はフフッと笑った。
「大丈夫ですよ。教育は受けてます」
「すみませんね」
「もし……このまま結婚したらそのうち、他のパーティも招待客選びやその招待状、もてなしの準備は……私の仕事になりますよね?」
「はい、まあそうですが」
「じゃあ、今は結婚してるので私の仕事、です。出しゃばらない程度にセバスさんから仕事もらってやりますよ」
私は何を言ってるんだろう。
夫人業務なんてやりたくないはずなのに。
でも……この人の助けになりたいと、思わずそういう言葉が出て言ってしまう。
私、別に、親切な人間じゃないはずなんだけど。
「それでは、荷物を運び込みます。テレポートで持ち込みますね」
「……便利ですね、闇属性」
「ふふ、では行ってきます――あ」
そう言って立ち上がったアベル様がふらついた。
「あ……! 大丈夫ですか!?」
私はアベル様に駆け寄った。
近寄ってみると、顔色が良くないように見える。
私はアベル様の額に手をあてた。
「あ、なにを」
アベル様が少し顔を赤くした。
「すみません、失礼しますね。熱を……あ、これは熱ありますよ、アベル様。今日はお休みされたほうがいいです」
「すみません、でもこれくらい大丈夫です」
「あの……テレポート程、処理は早くはできないですが、うちの人形たちに荷物運びなら、やらせますよ? だからアベル様は休んでください」
「いえ、大丈夫です。本当に一瞬の仕事ですので――…」
と言いながら、アベル様は気を失って――
「アベル様!! サメっち!!」
「うん!!」
アベル様は倒れたが、間一髪でサメっちがその背に受け止めた。
「……絶対疲労だ、これ。今日に限ってリリィはお休みだし……。サメっち、一旦、私のベッドに寝かせたあと、本棟の医師を呼んできてくれる?」
「わかったよ~」
本棟の使用人にもサメっちのことはもう知れてるから、お使いに行かせても平気だろう。
「ナニー。空いてる部屋のベッドのシーツ取り替えて、一式セッティングして。それ終わったらまたサメっちにアベル様運んでもらうから」
「かしこまりました」
医師が来るまで、私はアベル様の頭をなでていた。
……働きすぎです。
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