【40】可愛いクマのぬいるぐみVSドラゴン。
――飛竜達がこっちを見た。
街へ向かうでもなく、巣へ帰るでもなく、まさかの私達をターゲット!?
まだ腹の虫が収まらなくて、近くにいた人間を嗅ぎつけたってこと!?
「伝令を頼む、救援を呼べ!」
アベル様がすかさず部下に命令する。
「はっ」
部下がテレポートして消えた。
「リコ、跳びます」
そして、すかさずアベル様も、私を抱き寄せてテレポートし、別の茂みへ移動した。
――ドコッ!!
……バキバキバキ…ッ
間一髪、飛竜の一匹が、私達のいた場所へ突っ込み、その辺りに生えていた木や茂みをなぎ倒した。
「わ」
その振動と大きな音に私は少し耳を抑えた。
「大丈夫ですか、リコ」
アベル様の声は落ち着いている。
こんな状況で慌てないとか……かっこいい。
「だ、大丈夫です」
しかも、抱き寄せられたままじゃない?
私は旦那様の服をギュ、とした。
……はっ。 また状況にそぐわない事を考えている!
私、一体何考えてるの!
「すみません。地下洞窟へあなたを連れて行きたいのですが、どうやら私がターゲットです。……私達がここで姿を消すと、奴らが街へ舞い戻ってしまうでしょう。騎士団をここへ呼びましたので、それまでは……」
アベル様は、辛そうな顔をされている。
私を連れてきてしまったことに心を痛められてるのだろう。
ついてきたのは私なのに。
「ついてきたのは私です。そんな顔しないでください」
「そうだよ~旦那様、リコが悪いよ~」
ずっと黙っていたサメっちがそう言った。
「サメっちひどい。それにしても卵を返したのに、まだやる気なんですね、
「そうですね。ただ幸い私達がここにいることで、街に被害がいかないのは幸い――っ」
海の岩場にテレポートするアベル様。
ドコッ!!
ズザザザザーッと、テレポートした先で、滑空してきた飛竜が私達のいた場所にあった木をなぎ倒しながらスライディングしていくのが見えた。
「ふう……まったく、あの冒険者たちはなんてものを持ち込んでくれたんだ。ギルドに冒険者の教育について忠告しないといけないな」
そういうアベル様の顔色が少し良くない。
ただでさえ、毎日仕事で忙殺されているのに、こんな厄介事に体を張る羽目になって……。
「アプリコット」
その時、ニャン教授が、私の外套の内ポケットから出てきた。
「ここに連れてきているメンツをだせ、ターゲットを分散しよう」
「あ、そうか! よし!」
「何をするつもりですか、リコ――……なっ!」
「わ……!」
アベル様の声に、空に4体の飛竜が、私達目掛けて滑空するのが目に入る。
「アプリコット、四方からくるぞ! アベル青年、テレポートは待て!」
ニャン教授が叫んだ。
「さ、サメっち!! ニャン教授!!」
私はサメっちとニャン教授に魔力を流し、搭乗できるサイズと人間サイズにそれぞれ大きくした。
「アベル青年、サメっちにしがみつけ! サメっち、真上へ飛べ」
「! なるほど」
ニャン教授が私を抱えて、サメっちに乗り移る。
瞬時に理解したアベル様がサメっちに乗り移り、闇の手を使って自分を固定する。
そして、サメっちが間一髪でその場から離脱する。
4体の飛竜は、スピードが止まらず、お互い頭突きし合って、その場にひっくり返った。
その場で首を振ったりしている。
「なんと、英断です、教授」
アベル様がニャン教授を褒め称える。
「フフフ、だが、一時しのぎだ」
「そうですね……すぐに復活しそうだ」
そうか、タフそうだものね、飛竜たち。
ならば。
「ネロ起きて! 思い切りやっていい相手だよ! リミッター解除だよ!」
私は黒いクマのネロにありったけの魔力を込め、飛竜に対峙できるほど大きくして、砂浜に投下した。
ズシン!!
大きな音と砂を舞い上げて着地したネロは。
――思い切りやっていい、私のその言葉に、
ニタアアアアア……
――
狂気宿るその瞳はまるで血のように赤く――なんて可愛いのかしら。
「リコ……ネロってぬいぐるみですよね? いまズシンって音がしたんですけど、ぬいぐるみの質量じゃないですよね!? それにあの顔はなんですか!?」
「質量のことはよくわかりません! 良くわかりませんが戦闘に必要な重みは獲ているかと! 顔は、喜んでるだけです! 可愛いですよね!」
私はアベル様にサムズアップした。
「可愛いはちょっと違うのでは!? というか、あのネロは強いのかもしれませんが、飛行する敵に向かわせて大丈夫なのですか?」
アベル様がそう言った時――
『 グウォアアアアアアアアアアアアア!!!! 』
ネロが可愛らしい咆哮と共に、リングが幾重にも重なり飛んでいく衝撃波を飛竜の一体に向けて放った。
その奇襲とも言える最初の一撃に、飛竜は回避することが叶わず、空中で吹っ飛ばされ、落下し、砂浜の上にバウンドして気絶した。
「すげえ!?」(アベル様、素が出た)
「アベル様、ご心配は解消されましたか?」
「……あ、はい……」
――仲間がやられたのを見た他の飛竜達は、大きな叫び声をあげた。
何かを相談し合うように、キィキィと声を上げ、突如砂浜に現れた黒い巨体を敵対認定しているようだった。
しばらくすると、3体ほどの飛竜が、急降下でネロに攻撃を仕掛ける。
――望む所、と赤い目を光らせたネロが、迎え撃つ気満々で、猛スピードで走り始める。
砂浜がネロが走るスピードで振動している。
「あの、リコ?」
「なんでしょう、アベル様」
「同じことをもう一度聞きたいのですが、あなたが使役しているのは人形、ですよね? そしてあのクマはぬいぐるみですよね?」
「そうですよ? 放り投げた時ちゃんとぬいぐるみでしたでしょう? いまちょっとだけ見た目が変わっちゃってますけど
「いえ、そういう事ではなく……」
その時、サメっちがその会話を遮った。
「リコ~、飛竜の数が多すぎるからネロが大変じゃないかな、僕もリミッター解除して」
「……えっ」
アベル様が嫌な予感がする、みたいな顔でサメっちを見た。
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