【37】地下洞窟へ避難させられる。
アベル様に背後から両肩を掴まれて、耳元でささやかれる。
「まったく、あなたはこんな所に勝手に来て。危ないでしょう。私が処理すると言いましたよね?」
わあい、心配されて怒られてるうー………いや、ゴホン! そうじゃなくて、ごめんなさい!
「す、すみません。私の買った土地のことですし、旦那様の手を
私はできるだけ平静を装ってそう言った。
「言い訳はいいです、ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさい」
ご、ごめんなさいは? とか優しい……。
謝ると、ため息してアベル様は私から手をそっと離した。
はっ。
アベル様の後方に控えてる騎士がニコニコして、こっち見てる……!
な、なんだよ……!! こ、こっち見んな!!
「――それで、詳しい話を聞かせてもらおうか」
アベル様は、商談していた人たちに厳しい視線を向けた。
結論から言うと、あの卵は飛竜の卵だった。
錬金術師は、大人の飛竜から細胞を取るのは非常に困難なので、巣にある飛竜の卵が孵った瞬間、少し皮膚の一部等、こっそり採取してきてくれ、と頼んだそうだ。
卵から孵った瞬間なら、外の空気に慣れるまで動作も鈍いし立ち上がるのにも少し時間がかかるから、狙い時なんだそうだ。
なのに、冒険者共は、いい加減な仕事をして卵ごと持ってきたわけだ。
あんなデカい卵よく運んだな、と言ったら闇を扱えるメンバーがいた。
闇のテレポートで距離を稼いで、なんとか持ち帰ったそうだ。
話を聞いていると、アベル様よりは闇魔法のレベルは低そうだった。
それでも飛竜の巣から卵を盗んで街まで運べるとは、闇魔法恐るべし。
「はあ……卵があった巣まで案内しろ。卵を返却する」
アベル様はため息をついて言った。
「ええ、じゃあ、俺等の仕事の代金は」
「オレは支払わないぞ。結局、細胞が手に入らなかったからな」
錬金術師はじと目で、そう言った。
「……お前たちがやった事は仕事ではない。依頼者の依頼内容をまるで無視してるじゃないか。さらに、街をいま危険にさらしているぞ。飛竜が追ってきて街を破壊する可能性がある。危険物持ち込みでお前たちをこれから逮捕するが余罪を追加されたくなかったら、これ以上は口を
無表情で、でも強い瞳で冒険者たちを叱りつけるアベル様。
ええ、と言って冒険者たちが反論しかけた所に思わず私は。
「やだ、アベル様、かっこいい……」
はっ。
また口に出てしまった!
「……リコ、ちょっと……勘弁してください」
アベル様が顔に手をあてて赤面した。
あっ! 騎士たちが!! 今度は吹き出しそうなのを我慢しているように見える……!
自分でまいた種ではあるけれど、恥ずかしい!
その時、冒険者ギルドのドアがバーン! と強い音がするほど開かれた。
「やべえぞ!! 遠方の空に飛竜の大群が現れたぞ!!」
「――なんだって」
「た、大群!?」
「……ああ。さてはよりによって、飛竜のリーダーの卵を盗ってきたな、あいつら……」
錬金術師が頭を抱えながら言った。
「り、リーダー!?」
私は聞き返した。
「人間だって、一般人が何か盗まれたのと王族が盗まれたのでは、対応が違いますよね。後者なら――盗んだものにもよりますが、最悪一族郎党死刑ですよね」
錬金術師は、そういうと頭をくしゃくしゃして、ため息をついた。
「え、それって、街の人間皆殺しするつもりってこと!?」
「いや、そこまでは無いかも……しれないですが、怒り狂って街を破壊したり無関係な人間を殺して回ったりする可能性はありますね」
「ええ!! ……しかし、どうしてこの街に犯人がいるってわかったのかしら……」
「さすがに道中の匂いは追えないと思うから、あてずっぽうで一番近くの街である、ここを目指してんじゃないすかね。とりあえず人間許さない、みたいな感じで」
錬金術師がそう言った。
えええ……。
「アベル様、とりあえずそいつら、飛竜の前に置いてきましょうよ……犯人引き渡せば帰ってくれるんじゃ?」
私は思わず、淡々とそう言った。
「奥方様、血も涙もない!?」
冒険者共が震えた。
アベル様はしばらく難しい顔をして目を閉じていたが、考えがまとまったのか口を開いた。
「そうしたい気持ちは山々ですが、法律的にそれはちょっとできませんね。とりあえずは卵を返すことを第一にします。一番大事なのは卵です。卵が無事返却されれば、怒りは収まらずとも、多少はマシになるかもしれませんし。ですが……おい、そいつらは拘束しろ」
騎士たちが冒険者たちを取り押さえる。
「あと、そいつらの衣類をいくつか取り上げろ。その匂いで卵まで誘導する」
冒険者達がわめきながら連れて行かれた。
ちなみに錬金術師だが、ギルドマスターによると、いつもちゃんとした指示を出して依頼する人で、彼の言う通りに仕事をしたならば、特にこんな大変なことにはならない話だったと言う。
今回は冒険者たちの仕事の仕方が大変悪かった、とのことだった。
***
ギルドの外へ出ると、街は騒然としていた。
取るもの取りあえず、みんな地下洞窟へ走っている。
「リコ。あなたは、孤児院の子たちと一緒に地下洞窟へ避難してください。飛竜はうちの騎士団で対処します。セバスに伝令を送って、既に避難誘導任務にあたらせていますので、セバスの指示に従って――あ、だめだ。あなたは強制的に連れて行ったほうがよさそうだ」
「えっ」
アベル様は、そういうと、私の手をとってテレポートした。
いきなり辺りが暗くなった。
「く、暗い!! ここどこ!!」
「地下洞窟です、あなたはここに居てください」
「え、連れてきてくれたんですか」
「ええ、だからここに居てください」
そこでサメっちが言った。
「旦那様……。あそこでリコに普通に『洞窟行って』って言ってもリコはどこに行くかわからないって思ったんだね~……」
「あ……うん。サメっち正解だ」
アベル様が笑った。
「アベル様、ひどい!?」
「……心配なんですよ」
そう言ってアベル様は、私の唇に軽く触れるだけのキスをした。
えっ。
……私は固まった。
「ここで大人しくしてるんですよ、リコ」
私は口をあんぐり開けて、首を縦に振り続けた。
つまりは大人しくなった。
それを見てアベル様は苦笑したかと思うと、テレポートされた。
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