【38】頭がなんかおかしい気がする。

 


 地下洞窟でしばらく私はフワフワしていた。

 おもに頭が。


 (※以下しばらくアプリコットが頭おかしいだけなので、読みたい方だけどうぞ。飛ばして大丈夫です。)


 いくら結婚してるといっても書面だけで、私達は実質結婚してるとは言えず、お付き合いはしているとはいえ、その相手への承諾もなしの唇へのキスは、ちょっとどうかと私は思うのですが、   『リコ!!』   でもなんていうか、このフワフワした気持ちというのは、私は幸せってことで、他の人ならば、こんな事されようものなら、てめえゆるさねえ、乙女の唇をなんだと思っているのだと胸グラを掴むような案件ですが、相手はあのアベル様であって、   『リコ!!』   ああ、そう、他ならぬアベル様が私にキスをしてくれたのであって、あ、いや、別に婚約者だから当たり前だし? いえ、書面上は妻ですし? あれ? 思考が一周した気がするけど気の所為ですよね? さっき彼も妻って言ってたし!   『リコ!!』   いやしかし私達は普通の夫婦ではなく結婚していても婚約状態なのでやはり断ってからにしてほしいけど、別にしなくてやっぱいいです、なんて思考が言ったり来たりしていて、   『リコ!!』   うれしいなと思ったり、ちょっとツン気味に緊急時にそんな事してなくもいいんじゃないですか? やっぱないです、とか突っぱね……いや、アベル様に対してそれはないわ、うん、ないわ。むしろ・正直・あと・2~3回は繰り返してキスしてくれてもいいんじゃないでしょうか?、と思っ……ああ、神様。私あとで彼にどんな顔をして会えばいいのですか? というか後で会った時にまたキスしてくれたりします?    『リコ!!』   そんな事考えてしまって……はしたないでしょうか? でも考えてしまいます、またキスしてくれます? ねえ。そこが私、気になります!!   『リコ!!』  もう! 胸が早鐘ってるような、いきなり止まってしまいそうな、昇天してしまいそうな感じになってますよ、どうしてくれるのですか? なのに、もしも、実はさっきのはムード的になんとなくしてしまいました~とか言われたらどうしようって、不安に思う所もあり、ちょっとどうしたらいいのこれ。誰かなんとかしてクレヨン。


(※真面目に読んでくださった方いたら、お疲れ様でした。ありがとうございます)



「リコ……アプリコット!!!!!」

「はっ」


「……やっと気がついたか、奥様」

「奥様、大丈夫ですか?」


 そう言ったのはロニーとリリィだった。


 気がつくと、周りに孤児院の子どもたちが集まってきていた。

 リリィがちゃんと事前に伝えていた通り、洞窟へ連れてきていたようだ。


「どうやら、旦那様に状態異常のデバフをかけられていたようね」

「……リコ、どう考えても、リコが勝手にそうなってたぉ……」


「奥様、ずっとボーっとしてるから、私、心配しましたよ!」


 わーん、とリリィが抱きついてきた。

 可愛い。


「大丈夫よ。私は正常よ」


 リリィの頭をヨシヨシと撫でる。


「正常な人って自分は正常って言わない気がするんだ……」

「ダヨネ~」


 ロニーとサメっちは少し黙ってなさい。



 ドン! ドンドン!!


 その時、すごい音がした。


「わ!? すごい音!!」

「リコ、実はさっきからずっとこの音はしてるょ……」


「奥様、大丈夫ですか?」


「あ、セバスさん。……この音は一体?」


「魔砲はご存じですか?」


「ああ、戦争で使う大砲ですよね。王都にいた時も勉学で実物展示を見たことあります」


「それを街のあらゆるところに配置し、空砲を撃って、飛竜を浜へ誘導してします」


「え、あの短時間で配置したんです?」


「(小声)暗部に闇属性を数人揃えてますので、そちらを使ってテレポートによる配置を」


「……まだここで音がしてるって事は卵まではまだ連れていけてないんですね」


「たまに報告が入りますが、この街の上空で旋回しているようですね。多分街に、狙っている冒険者達の匂いが残っていて、ブレるんでしょう」


「冒険者達は、どこに閉じ込めてるの?」


「街にある地下牢ですね」


「うーん、僕ならそこなら嗅ぎつけちゃうかもなぁ……」


 サメっちがヒレを口に当てながら言った。


「サメっちは鼻がとても良いものね。飛竜も鼻良いのかな。特定まではできないまでもグルグルしてるって事は、アイツらの匂いがして探して同じとこグルグルしてるのかな」


「旦那様は、冒険者たちの衣服を取り上げて、その匂いで誘導されようと指示されておりますが。飛竜達は思ったよりも怒り狂ってますので、このままでは街の建物等に被害が大量にでるかもしれません。先程体当たりで時計塔が破壊されました」


「えええ。……アベル様はいまどこに?」


「旦那様は、各所に指示を出しながら、暗部と共に体当たり体勢に入った飛竜をテレポートさせる処理をなさっています」


「え! アベル様がそんなことを!?」


 領主が前線で体張ってるんです!?


「今回は旦那様他、闇魔法所持者が前線に出られるのが一番だ、と判断なさいました。……なにせこの街で闇魔法の実力が一番高いのは旦那様ですので……。飛竜を一体でも傷つけたら更に他の飛竜達の怒りを買いますので、丁寧に対応されております。耐久勝負になりますので、魔力切れが心配なのですが……」


「そんな」


「旦那様ほか、闇魔法使い達が魔力切れを起こしたら、騎士団が飛竜を掃討することにはなっておりますが。……ただ、そうなると掃討し終えるまでに街がかなり被害を被るでしょう。ですが、旦那様たちは優秀です、信じてここで待ちましょう」


「そんな……」


 ふと。

 さっきのキスが、お別れのキスのように感じられてきて、急に全身がひんやりしてきた。


 私は辺りを見回した。

 出口はあっちかな。


 ……アベル様のところへ行きたい。


「サメっち……」


 私はサメっちに見に行きたい、と言った。


「リコ、だめだよ?」


「でも、さっきからすごい音がずっと続いてる。アベル様の魔力が枯渇したら……」


「あう……じゃあ、見るだけだよ?」


「アベル様が私の助けを待ってるの……」


「待ってないと思うよ!? むしろここに居て欲しいはずだよ!? リコどうしちゃったの!?」


「いいからとにかく、出して頂戴、田中」


 私はサメっちに乗り込んだ。


「人をリコの前世のドラマに出てきそうな運転手みたいに呼ばないで!?」


 旦那様の作戦の邪魔になったらどうするの?……とかサメっちはブツブツ言いながら、地下洞窟を飛び抜けた。


 セバスがいけません!! と叫ぶのが聞こえた、ごめんなさい。


 アベル様は、私を守ってくれようとここに連れてきてくれたのはとてもうれしい。

 でも、私も、孤児院の子達や街の人、そして街自体を守りたい。


 いつの間にか、あの街も大好きになってるのよ、私。


 ――できることはきっとある。

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