【35】人の土地に勝手に物を置かないで欲しい。

「昨日、孤児院の裏手にある空き地に変な人達が来て、大きな荷物を置いていったんですよー!」


 両手をいっぱい広げて、その大きさを説明するリリィ。

 うーん、そのまま抱っこしたい。

 ふわっとピンクの髪が一瞬広がるのがまた可愛らしい。


「え、なにそれ」


「ちょっと置かせて欲しいって。エルに場所代、と言って少しお金置いていったんですけど……」


 エルとは孤児院に私が常駐させているリアルなメイド人形だ。


「何の荷物?」


「それが絶対見るなって、大きな布とベルト付きの皮の紐でグルグル巻きにしてあるので、何かわからないんですよー」


「いつ引き取りにくるのか、聞いたかい?」


 アベル様が優しくリリィに聞く。


「それが……取引が終わったら、とのことで、その取引がいつ終わるのか本人たちもわからない、って。それでその人達、実は前からその空き地を利用してたらしいんですよ。ボロい空き家もあって寝泊まりしてた事もあったらしいんです。久しぶりにそこを利用しようとしたら……奥様がその土地を購入してしまって……でも、どうしても使いたいから、と強引にお金を払って置いていったんです」


「うーん、ちょっと見に行こうかな。旦那様すみません、ちょっと行ってきますので……えっと」


「一緒に行きましょう、私も行きます。テレポートしましょう」


「え、でもアベル様の貴重な休憩時間が」


「そう、休憩時間だから自分のために使うんですよ。……なんて、あなたと過ごしたいだけですよ。ほら、リリィも来なさい」


 ……今、さらっとなんか言った。


「はーい、ごちそうさまでーす」


 リリィ、おくする事のない娘だな!!


「あ、ありがとうございます」


 旦那様は闇魔法でゲートを形作られた。

 そこに手をひかれて、くぐると目の前は孤児院だった。


「便利だ……」

「ふふ、便利でしょう。仕事に欠かせない能力です」

「いいなぁ」

「いや、リリィの聖属性は生きていく上で利点ありすぎだからね?」


 属性魔法いいなぁ。


 まあ、私も人形によっては属性魔法持ってたりもするから、間接的に使えたりもするのだけど。

 ちなみに手に入れた人形は起こしてみないと、どんな能力を持ってるかは、わからない。


 リリィがこちらです、と言ってアベル様と私を空き地の荷物のところへ案内してくれた。


 空き地に入るとすぐに目についた。

 少し見上げるくらいの大きさで、暗幕が巻かれている……大きな荷だな。なんだろう、これ。


「……これは、たしかに大荷物だな。いくら代金を払ったからとはいえ、地主の許可なく人の敷地にこんな物を置いていくなんて、どこの業者だ」


 アベル様はそう言って、例の荷を見上げた。


「引き取りに来たら、そのあたり注意しておきます。こんな孤児院の傍に、得体のしれない荷物をまた置かれても困るから……別の場所にレンタル倉庫でも作って商売しようかしら」


「ああ、それ良いんじゃないですか? いいですよ、初期費用の額がわかったら教えてください」


「あ、ありがとうございます」

「ふふ」


 アベル様に何故か頭撫でられた。

 ……う、うれしいな……。


「わーい、あまーい」

 リリィ!!


「と、とりあえず危ない物じゃないかだけは確認しておきたいですね。この布、はずしてもいいかしら……」


 私は、布越しに拳で小突いてみた。


「ん」


 コツコツ、と木箱などではないような手応え。


「(コツコツ)(コツコツ) ……固い。サメっち何か変な匂いする?」


「えっとね……実はさっきから、ヤバイ匂いがするぉ」


「やばいって?」


 リリィがキョトンとしてサメっちに問う。


「……卵の殻っぽい匂いがするぉ」


「卵の殻?? それって匂いあるの?」


「僕はするんだよ~。あと……なにか大きな……呼吸を感じるぉ……」


「呼吸!? いやな予感がする……布をとって確認しましょう」


「は、はい」


 あまりにも荷が大きいので、アベル様が荷ほどきしてくださるそうだ。

 闇属性は闇の球を浮かべさせ、そこから大きな腕を出す魔法がある。


 アベル様がその闇の手で、荷にたくさんついているベルトを取っていく。

 高い所に、自ら登らなくていいのは便利。


 最後のベルトを取り払って、布を取り払うと――巨大な緑色の卵が姿を現した。



「これは……」

「なに、これ……」

「おっきぃ!!」

「すごく……大きいです……ぉ」


 全員が驚嘆きょうたんの声をあげる。



「うーん……」


 アベル様が眉間にシワを寄せながら、拳でコツコツとその大きな緑卵を小突く。


「アベル様、これって」

「……見た通り、卵ですね。おそらく……何か、かなり巨大な魔物の」


「あの、これ、ここで卵が孵ったら……」


「生まれたばかりですぐ動けるかはわかりませんが……。動けるようになったら、それはまず……、餌を求めて、すぐ隣の孤児院へ……」


 アベル様が無表情で淡々と言った。アベル様? 


「いやああ!?」


 リリィが泣いた。


「サメっち的には、もうすぐ生まれそうな予感がするよ~」


「わあああ! 壊しましょう!?」


 リリィが魔力変質で自分の拳をおおった。


「あ、ちょっと! リリィ、やめなさいって!」


「やめるんだ、リリィ。サメっちがもう生まれそうだと言っている。殻を破壊したら、生まれる手伝いをするだけだ」


 私とアベル様でリリィを止める。


「ひぃー!?」


 リリィの目がグルグルだ。涙目で混乱している。


 ロニーがいれば、なだめてくれそうだけど、彼は今、ミリウス騎士団で修練中だろう。


 私がリリィをなだめている横で、アベル様が卵を闇ですっぽり包んだ。


「アベル様、どうされるんです?」


「ここで生まれたら困るので、とりあえず人のいない浜辺へ運んできます。その後、鑑定士に鑑定させ何の卵か特定します。そのあと冒険者ギルドで、この卵に関連しそうな依頼がやりとりされてないか調べようかと」


「おお、手際いい……さすがアベル様。すてき」

「えっ」


 アベル様が頬を染めて、驚かれた。


「あっ!?」


 く、口に出てしまった!!


「……行ってきます」


 アベル様は、わずかに微笑んで私の頬にキスをすると、闇の中へ消えた。同時に闇も消える。


「ち、ちがうんだ……ちがうんです、違う時……」

「リコ……」


 サメっちがジト目だ。

 何が違うのかは、うまく言えないけど、ち、違うんだ!!


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