【22】リヴァイアさん。
旦那様と、これからの話をした次の日。
私は街をぐるぐる周回するように散歩していた。
自分でも何をしているのだろう、とは思うのだけれど、本当に無意味にグルグル歩きまわって……たまに、
「うあ」
と声をあげてしまい、道行く人に変な目で見られた。
落ち着かない。
私は歩き疲れて、手近なベンチに座り込んだ。
「リコ~。大丈夫?」
サメっちが肩に乗っかる。
「大丈夫だよ。ねえ、とりあえず私の気持ちはおいといてさ。旦那様はセバスや使用人を説得できると思う?」
「それな~」
「いくらアベル青年がリコに好意的であっても、使用人たちがリコに対する態度を改めなければ、息苦しい結婚生活にはなるだろうな。きっとアベル青年からだけの説得では難しいぞ。ダメ元でアプリコット、お前もセバスに誤解を伝えてみてはどうだ」
ミニサイズのニャン教授が、サメっちと反対の肩にのっかってそう言った。
「えええ、怖い、無理!」
「すっかり苦手になっちゃったねぇ~」
「王宮にもああいう目つきの人いたけど、そういう人と接しないといけない時はホントつらかったんだから」
「知っているよ。よく頑張ったな、アプリコット」
「ありがとう、ニャン教授……歩み寄りが必要なのは、私もわかってはいるんだ。セバスが私の話、聞くかなあ?」
「さっきも言ったがダメ元だ。
その時、サメっちがピクっとした。
「リコ~」
「ん、どうしたのサメっち」
「なんだか強い煙の匂いがするぉ……火事?」
「ええ!? 孤児院のほう!?」
「ううん、真反対だから孤児院は大丈夫~。この匂いは……ウェストストリートかな。ほら工場とかあるほう」
「心配だな、ちょっと見に行こうか」
「アプリコット、駄目だぞ。魔力がまた
「そっか、そうだね」
――その時、叫び声が聞こえた。
「やべえぞ!! すげえ火事だ!!」
「ウェストストリートの先の森に火が付いたぞ!!」
にわかにワアワアと、大きな騒ぎになった。
「……森はやばいね。多分消火局は街だけで手いっぱいだよね」
「しょうがないな。だがどうする? 水属性が使える人形など今は連れてきていないだろう」
「んー……そうなのよね……あ、あれ、どうかな?」
私はキョロキョロ見回して――噴水の中央に設置されている龍神の石像に目を付けた。
私は駆け寄って、龍神の石像の
「コンセプトが水を
「おお~。いけるんじゃない?」
「よし、試しにこの子を起こしてみよう!」
※※※※※※※※
――数分後。
「ぎゃああああああああああああ!!」
「ばけものおおおおおお!!」
「魔物よおおおおおおおおおおお!!!」
――逃げ惑う人々。
街は火事と混乱と『豪雨』に包まれていた……。
豪雨の原因は目の前のこいつ……。
「アプリコット、我が主。命ずるがよい、我に何を望む――」
「あ、あはは……えっと」
「リコぉ……怖いおおおお」
サメっちが白目だ。
街の空いっぱいに、浮かぶ蛇――いや、水龍。
その巨体をうねらせる姿は、まるで本の
「アプリコット……これは魔力が心配だ。さっさと命令して鎮火し、さっさと眠らせろ」
「わ、わかった」
言われなくても、やばいのはわかってる。
何故なら、さっきからグイグイ、魂ごと持ってかれるんじゃないかっていうくらい、魔力吸引されてる。フゴォー。
まさかあの噴水の石像がこんなデカい龍になるなんて思わなかった……。
多分、長年あそこで水難や水不足などの祈りを捧げる人が多くて、込められた念の年季が
思いがこもった人形というのは、やはり作りたての人形よりも強い子や有能な子が多い。
「り、リヴァイアさん! あっちのウェストストリートと、その先の森が火事なの!! お願い、雨を降らせて鎮火して!!」
「――いいだろう、請け負った」
空に暗雲が立ち込め――オーダーは雨と言っただけだったのに、雷が鳴り始め、その雨量に至っては、カサが役に立たないほどの豪雨になった。
「うわ……!」
雨振りすぎ!
足くるぶしにまで、水が上がってきた!
今度は水害になったりしないかな!?
でもこれなら、火事は消えるだろう。
しばらくするとリヴァイアさんは、その手に持つ丸い水晶に、森の様子やウェストストリートの様子を映して見せてくれた。
火事による黒煙はまだ立ち込めているが、火は無事消えたようだ。
「我が主の望みは叶えた」
「わあ、ありがとう! リヴァイアさん、もう戻っていいよ」
「――あい、わかった。また会おう、主よ」
「ええ、またね……」
ごめん、多分もう呼ばない。
リヴァイアさんが姿を消すと、もとの良い天気に戻り、水も引いていった。
噴水広場からは遠い場所の火事だったのに、ここでも焦げ臭い。
この匂いはしばらく残るだろうけど、森と街が手遅れにならなくてよかった。
「わー、ビショビショ……あ……」
私はふらついて座り込んだ。
急激な眠気。あ、これ
いけない、気を失う前に帰らないと。
「大丈夫ですか」
誰かが私を支えてくれた。
「あ、ありがとうございま――」
――セバスだった。
「……あの、今の龍は……」
私は慌ててそれには答えず、何故か謝ってしまった。
「あ、すいません、こんな所で座り込んで! さ、サメっち!」
「お、おいよ」
私はセバスの手を振り払って、サメっちを巨大化し、その背に乗った。
「さ、さよなら!」
私は小声でサメっちに孤児院に行くように伝えた。
孤児院にも私の部屋がある。そこで休もう。
サメっちの姿に、またセバスが目を見開いていたけれど、どうせ旦那様にバレてるからもういいや。
それより
そして私はサメっちに乗って脱兎の如くその場から逃走した。
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