【23】セバスの謝罪。

 セバスから逃げるように立ち去った私は、孤児院の自室で着替え、ベッドに倒れ込む。

 案の定、魔力枯渇まりょくこかつになってしまい、そのまま1~2日程療養した。


 子どもたちに心配かけてしまったけど、それがなんだか嬉しかった。

 代わる代わる様子を見に来てくれて、愛おしい。


 また、リリィが魔力を分けてくれたおかげで、割と復帰が早かった。

 


 起き上がれるようになって、院長室で書類を眺めている時に、チャイムが鳴った。

 ここで働かせてるリアルな人形メイドのエルが応対に出た。


「まあ、ありがとうございます。少々お待ち下さい」


 院長室の部屋のドアを開け放っていたので、その話す声は聞こえていた。


 しばらくしたら、エルが私を呼びに来た。


「院長先生。ミリウス辺境伯爵家の執事、セバス様がいらっしゃいました」


 私は飲みかけた紅茶を吹きそうになった。


「えっ」

「ふぁっ」


 私とサメっちが同時に驚きの声をあげた。


「先方はアポがないから、とお断りにはなっているのですが、私としては子どもたちへのプレゼントをたくさんお持ち頂いたので、応接室にお通ししてお礼など申し上げて頂きたいのですが」


「わ……、わかった……」


 せ、せばすが……。

 旦那様、この孤児院のことを話したわね!


 どうしよう、動悸どうきが。

 しかし子どもたちへのプレゼントを持ってこられたなら、受け取らない訳にもお礼を言わない訳にもいかない。


「エル、お通しして、お茶菓子を用意してちょうだい」

「かしこまりました」


 私は、かなりラフなワンピース姿だったので、一瞬困ったな……と思ったが、どうしようもないので鏡を見て身だしなみだけはチェックして応接室に向かった。



 *****



「お、オマタセシマシタ」


 応接室に入り開口一番、緊張した声が出てしまった。


「いえ、アポイントメントもなくこちらが伺いましたので」


 セバスが立ち上がって礼をする。


 ……いつもの非常に冷たい顔ではない。すこしホッとする。

 旦那様が事情を伝えて誤解がとけたのかな……。


「その、どうぞ、お座りください」

「では、失礼して」


 二人で向かい合って座る。

 せ、セバスと対面するとか怖い!


「その、子どもたちに、たくさんのプレゼントを頂いたみたいで……ありがとうございます」


「出来たばかりの孤児院です。色々と物入りでしょうし、子どもたちへの新しい門出のお祝いです。この度は私個人からの贈り物です。ミリウス辺境伯爵家からも贈呈予定がありますが、準備中でして再度お持ちする予定です。または入り用のものがあればリクエストなど頂ければプレゼントに加えさせて頂きます」


「え、まだ頂けるんですか!? ……というか、さっきエントランスに山のように包がありましたが、その、あんなに頂いてしまっては……」


「ご遠慮なく受け取っていただきたい。この土地に関しては私も気になっておりました。しかし、旦那様からお伺いになったかとは思いますが、後手に回っておりました。その間に手遅れになってしまった子供もたくさん出ました。また、あなたのその他のご活躍もお聞きしました……そして、この間の火事の件も――お礼申し上げます」


 セバスに! 頭を! 下げられている!!

 どうしよう。態度が180度違う!! 動揺しかない。


「そ、そういえば何故あそこにいらっしゃったんですカ…」


「……街が深刻な状況におちいったことはすぐに連絡が来ましたからね。避難の誘導などを。旦那様も自ら消火に参加されておりましたよ」


「あ、ああ、そうなのですね」

「……動揺されているようですね」

「あ……はい。あ、いえ!! 別に動揺なんて!! ありがとうございます!」


 セバスがそこで、フ……、と少し目を細めた。

 ほ、ほっ 微笑んだ!?


「無理もありません。私めの態度はそれは酷いものでした。相当、頭に血が上っておりました……。謝罪をさせてください。申し訳ありませんでした。不敬罪で死刑になっても文句の一つも言えません」


「セバスが頭下げたぁあ!!!」


 サメっちが混乱して目を回している。


「こ、こら、サメっち!」


「……ああ、旦那様が仰っていたぬいぐるみですね。お気になさらず」


 旦那様喋っry。


 まあ、サメっち達のことは喋らないと、じゅうぶんには説得できないか。

 この事を喋らないと、道路舗装どうろとそうしたとかまず信じてもらえないものね……。


「ど、どうも。……でも、その、王家がミリウス辺境伯爵家へ行った仕打ちはその、酷いもので。私はその酷い王家の娘ですので……あなた達があんな風になってしまったのも致し方ないかと思っています……ので、もう気になさらないでください」


 セバスは、ハア、と小さくため息を吐いた後に、こう言った。


「……私はこんな優しい方の話一つ伺わないであのような酷い態度を取っていたのですね。本当に申し訳ございませんでした」


「も、もういいですって」


「かしこまりました。ところで奥様」


 お、おくさまっ!?

 

 この人、本当に……セバスなんですかー!?


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