【21】 あなたを知りたいです(無表情)。
無言がしばらく続いたあと、私の肩でずっと黙ってたサメっちが口を開いた。
「セバスや使用人たちが怖いから、リコは無理だと思うょ~、旦那様」
「あ、こら! 余計なこと言わないの!」
「セバスが? ……あ」
「旦那様、気にしないでください」
「だめだよ、リコ。ちゃんと言わないと。旦那様が話を聞いてくれる人だってわかったでしょ~」
「いや、でもね」
セバスとの関係にヒビが入るような話は……。
「……そういえば、これも聞こうと思ってたのですが、以前の食事会で私が席を外した時……なにかありましたか? いや、ありましたよね?」
う。
「旦那様、リコは旦那様とセバスの信頼関係にヒビが入らないか心配してるんだよ~」
うあ!!
私はサメっちの魔力を切った。
ただのヌイグルミに戻ったサメっちがコロッと、私の
「セバスに何を言われたのですか? ……だいたい予想はつきますから、言っても大丈夫ですよ。気にしてなかった訳ではないのですが、今まで聞けずに申し訳ない」
「……あー」
私は頭を抱えてうつむき、そのまま。
「まあ、簡単に言えば離縁してくださいと」
「細かく話してください」
「ええ……」
旦那様は、私から事細かく聞き出した後、立ち上がった。
「なるほど、よくわかりました。今日はもう遅いので明日以降、セバスと話をして説得します」
「え、いやその。でも私はもう離縁でお願いしたいので……」
「……そうだとしても、駄目です。何の罪もない貴女にこんな待遇をしてきたのですから、セバスや他の使用人たちにも謝らせます!」
……無表情の旦那様の目が使命感を帯びてる!!
「いえもう、放っておいてくれたほうが」
「いけません! それに……」
放って置いてもらえない!?
「それに?」
旦那様が私の手を取った。
……えっ。
「私は貴女と、やり直してみたい。図々しいとは思いますが……離縁する前に少し私に付き合ってくれませんか」
ええ!? 困るよ!!
「いやでも、縁談が進んでいた伯爵家の令嬢はどうするんですか!? 私と離縁すれば、まだそのお話取り戻せるんでしょう?!」
「取り戻せるかもしれませんが、確証はありませんし――私はその令嬢に
「やり直せるとも限りませんよね!?」
「ええ、ですが――」
そう言う旦那様は、私の手の甲にキスをした。
――!?
「私はあなたを、もっと知ってみたくなりました」
私はカーッと顔が熱くなるのを感じた。
無表情で何言ってるんだ旦那様は!?
「し、知る!? 知ってどうするのです!? わ、私、これ以上何も出ませんよ!?」
旦那様がキスした私の手を自分の頬に持っていく……ああ!?
なにやってんすか!? 無表情で!
「そうでしょうか? 私達はまだ知り合って間もないですよ。ゆえに、私のことも知って頂きたい。そのための時間も必ず
旦那様のエメラルドのような瞳が綺麗で、少しドキドキしてしまう。
おかしい。
私もう、容姿端麗な方には何にも感じなくなってたはずなんですけど。
「つ、つまり」
「お互い夫婦として愛し合えるように、努力してみませんか?」
「そ、それは、き、期間とかあるんですか?!」
「期間?……そうですね、一生、ですかね」
「一生!? さっき『少し付き合って』って言ってませんでした!?」
私は白目を
本気で離縁する気ないの!? この人!!
「ええ。人間の一生なんて多分あっという間ですよ。だから少し。ほら、気がついたら四季なんてあっという間に変わってますし……」
「旦那様……ちょっと、仕事が忙しすぎて感覚おかしくなってるんじゃないですか?」
私は思わずそう言ってしまった。
「忙しさとストレスで頭をやられている所は自分でもたまにあるかな、とは思いますが、真面目にそう思って伝えています……まあ、それは冗談として」
「真面目なんですか!? 冗談なんですか!? どっちなんですか!?」
「……(ニコ)」
笑って誤魔化そうとしてません!?
それにしても普段は無表情の旦那様の微笑みは破壊力あるな!?
「とりあえず、結婚式を挙げてもいいな、とお互い思うまで、とかどうでしょうね」
「それも最悪、一生ですよね!? ちょっと言い換えただけですよね!?」
「そんな事はないですよ。お互い嫌いになったり、やっぱりちょっと無理とかって可能性もあるじゃないですか?」
「ああ、つまり、そういう状態ならば離縁できると」
「そうです……でもまあ、一生、というとあんまりな条件なので更新期間を設けましょうか。とりあえず半年。その時にお互い意志を確認したり、話し合いをしましょう」
「いやでもそんな事をしていたら、伯爵家のご令嬢、取り逃がしますよ!?」
「既に私はあなたと結婚しているので、私の中では終わってる話です。それはもう考えないようにしてください」
旦那様が私の手を放した。
「では、今度こそ帰ります。おやすみなさい、アプリコット姫」
「お、おやすみなさい……」
旦那様はテレポートして帰られた。
※※※
「……はあ」
私は一息ついたあと、サメっちを起こした。
「サメっち!! 何であんなこと喋っちゃったの!!」
私はサメっちを叱った。
「だって、セバスの件は本当にひどかったから言うべきだと思ったんだぉ~」
そこへ、スーツを着た二足歩行の猫のニャン教授が割って入ってきて言った。
「アプリコット、ずっと人形のフリをして聞いていたが、悪い話ではなかったと思うぞ。サメっちをあまり責めてやるな」
あなたは人形ですけど!?
「そうですね、もし使用人の方々とも和解できそうでしたら、ここで辺境伯夫人するのも良いのではないですか? 旦那様素敵ですし」
メイド人形のナニーがそう言った。
「な……。みんなして何なの!?」
「それにさ~。旦那様に僕たちのことバレたってことは、もう隠れなくていいよね?」
「あ、それは……そうかもね」
そう言うと部屋中の人形たちがわーっと沸いた。
……あんたら!?
「でも、私がここで幸せそうにしてたら、お母様がたまたま尋ねてきたりした場合……なにするかわからないし……」
「たしかにね。でもそれはもう、リコがどこで何してたって湧いてくる考えだと思うよ~」
「まあ……それは確かにそうなんだけど」
「アプリコット、孤児院のことを考えると、悪い話でもないぞ。費用その他の相談がアベル青年にできるのだ」
「ああ、確かにそれは……」
「そうですね。なにせ半年はあるわけですから、今すぐどうこうという訳ではないですし。半年ここでごゆっくりされては?」
ナニーが私のベッドを整えながら言った。
「そっか……まあ、そうだね。とりあえず今考えてもしょうがないか」
「そうそう。ほらもう寝ないと~」
人形たちに
しかし、その夜はなかなか寝付くことが難しかった。
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