【20】旦那様に全部バレました。
「――本棟に泥棒に入ったのも、道路を勝手に綺麗にしたのも、奴隷オークションを
別棟の応接室のソファで、
「……すみません、お食事を頂けなかったので、……ど、泥棒はつい……。他は別に悪いことしてないと思うんですけど……その、別棟に限り自由にしていいという規約からは外れてますね、はい……すいません……」
「ごめんなさいぉ……」
サメっちがヒレで目を隠しながら言った。
「食料泥棒の件は、もういいです……。こちらの不手際が原因です。まさか国の姫に食料泥棒させてしまったなど……申し訳ありませんでした」
旦那様が眉間を少し揉んだあと、謝罪された。
「よ、よかった……です。ありがとうございます」
私は涙目でそう言った。
旦那様がクス、と少し笑った。
「……それで、暇だから人助けしてたんですか?」
「あ……。人助けのつもりはなかったんですけど、振り返れば人助けしてますね。……その、ごめんなさい。別棟の中でなら自由にしていいっていう契約だったのに、外で色々やってしまって……」
「いえ、構いませんよ。あなたのやった事は悪いことじゃありませんし。むしろ僕の手の回らない事をやってくださいました、ありがとうございました」
「手が回らない?」
「ええ、例えば貧民街は前からどうにかしようと思っていたんですが、他にもやることが多くて」
「そうだったんですね」
「予算、足りないのではないですか?」
「え」
「あの毎月お渡ししている予算だけでは、貧民街を整備するのに予算が足りないでしょう。それにあの予算はあなたのものです。公共事業するなら、それはそれで別に工面するので、そちらを使ってください」
「貧民街の整備……続けて良いのですか?」
「ええ。こうなったら、お願いします。私も手が回りませんのでやって頂けると助かります。相談があればいつでも聞きますし……いえ、できる限り一緒にやりましょう」
……予算を貰えるのも、整備を続けられるのも嬉しいけれど、でも。
「それは有り難いお言葉なのですが、旦那様。実は私から離縁を申し上げたいのですが」
「……はい!?」
旦那様は予想以上に反応した。現状考えると、そんなに驚くことかな。
「王命による結婚ではありますので……私のほうから離縁すると言えば、旦那様も被害が少ないかと。王命に逆らうのは私ですから……それでも不安でしたら、私が勝手に行方をくらましますので。ただ、孤児院の子たちは守っていただけると」
「あ……あの! 待ってください、アプリコット姫。オレ……私は離縁するつもりはありません。実はこの間からお伝えしたいことがあったのです。その、言い訳になりますが、忙しくて時間が取れなくて……聞いてもらえませんか」
え、離縁するつもりない? なんで!?
私がキョトン、としてると旦那様は話し始めた。
「……まずは謝罪を。あなたをこのような
謝られた!?
どうしたの、一体。
「私側の状況をお話すると、貴女がこのオキザリスに到着する2日前に2つの情報が立て続けに早馬で来たんです。
――1つ目は、『貴女と前辺境伯との結婚情報』の早馬、そしてすぐその後に来た早馬……2つ目の情報が、『前辺境伯が国外追放となった、アベル=ミリウスを次の辺境伯とする、そのまま姫と結婚しろ』というものでした」
「そ、そんな情報がいっきに来た上に、そのあと私がすぐに到着したんですね ……うちの父がすみません…」
というか、母が原因なんだけど。
「領地の仕事は私がずっとやっていたので、爵位を継ぐことは別に問題はなかったのですが、花嫁までやってきたとなると、私達も情報収集する時間もない上に、その、あなたの醜聞が酷かったものですから、歓迎するわけにはいかなかったのです」
確かに警戒して当たり前である。
ある日いきなり醜聞モンスターの花嫁が奇襲のようなスピードでやってきたのである。
屋敷をかき乱される不安にも
最初に歓迎してしまうと、そのままずっと好き勝手&増長される可能性もあるだろうし。
「つまり、私が醜聞どおりの酷い姫かどうか下調べする時間がないから、とりあえずあのような条件を出されたと?」
「ええ……その、もし醜聞通りの方なら物凄くクレームを出されると思ったんです。そして、その、歓迎しなければ自分から離縁を言い出してくれるのでは?、と。実は、まだ私が幼い頃に……僕は会うことはなかったんですが、あなたのお母様がこちらへご宿泊にいらっしゃった事があったそうなのですが……その、使用人への当たりがきつかったらしく、それで元々王家への印象がここの使用人たちの多くは心象が良くなく……」
……う。
なんだか想像がつく……!
うちの母がすいません!!
というか、そんな心象が残るってことは、心酔させる前に帰ったんだろうな。
オブラートに包んで話してはいらっしゃるが、母の事だから……相当ここで暴れていったんだろう……。
「そちらにしてみれば、同じ穴のムジナですものね……」
「それに加えて前辺境伯が王宮に入り浸り……領地経営が無茶苦茶になってしまって。そのうち私が引き取られた訳ですが、領地の様々を勉強をしながら、セバスと二人三脚で不眠不休で領地体制を整えなおしてきたのですが……さらに私が来る前はセバスが1人で奔走していたらしく。セバスは、早くに伴侶を亡くしたのですが、その奥さんの死に際にも駆けつけられず、葬式にも出れなかった」
……うあ。
それでセバスも私にあれだけ当たりがキツイかったんだ。
そりゃ……そうもなるよね。
王家への不信ゲージがあったらマックスだと思う。
「すみません、王家の不徳です……。謝罪致します。恥ずかしい限りです」
私はとりあえず謝罪した。
「貴女が謝る必要はありません。……ちょうど、本日、調査は終わって報告を受け取ったばかりです。そして貴女が何も悪くない……貴女も被害者だというのを知りました。それでなくても――第一印象から……うすうす悪い人ではないのでは? 醜聞はなにか間違いなのでは? と思ってはいました。ただ、私をずっと支えて助けてくれたセバスが王家への不信があまりにも強かったので、私はあの時、彼を優先してあげたかった。その為にずいぶんあなたを傷つけた。この通り……謝罪させてください」
旦那様は、また頭を下げた。
謝罪大会になりそうだ。
でも、そうか。
旦那様は、醜聞を鵜呑みにしないでちゃんと調べて、自分の目で私のことも確かめてくれてたんだね。
「い、いえ、大丈夫です。頭をあげてください。元はといえば、王家が……うちの両親のわがままでミリウス家を巻き込んでしまったのですから。そうなるのは当然です」
「だからといって、対応が不味すぎました。あなたには、本当に申し訳ないことをしました。それで……離縁しない、という話に戻すのですが……」
「はっ。そうでした。そういう話でした」
「……最初のあの契約書はなかったことにして、普通にこのまま結婚してもらませんか?」
「えっ」
「その、普通に私の妻として……あ、恥ずかしいな」
旦那様はそう言うと口元を押さえて目を逸らし、顔を赤くした。
そう言われると、私もなんか恥ずかしい。
謝罪大会から今度はむずがゆい話題になりそうだ。
「「……」」
二人共すこし、無言になった。
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