【27】約束のパーティに出席します。
約束のパーティの日がやってきた。
「わ、すごい人ですね」
「ナポレーヌ伯爵は、交友関係がとても広いですからね」
ナポレーヌ伯爵家の庭園には豪華な食事がならんでおり立食ができるようになっていた。
また屋敷内ホールではダンスパーティや呼んだ芸人たちが芸を披露していたりと、同時に様々な行事が行われており、まるでお祭りのようだ。
ナポレーヌ伯爵は王宮のパーティへ来たことあるんだろうけど、覚えてないな。
「ご挨拶に伺いたいですけど、すごい人です。というか、ナポレーヌ伯爵とご子息がどこいるのかわかりませんね」
「恐らくそのうち向こうから来ますよ。……とりあえず、一度踊ってその後、なにか食べますか?」
「そうですね」
私達が歩くと、ヒソヒソ声が聞こえた。
――あれが噂の姫ね。
――王家から無理やり辺境伯のところへ嫁いだんでしょう?
――シーグリッド様がお可哀想。
「なんだぉ~。ヤナかんじの話し声が聞こえるぉ~」
私のアップした髪の中に隠れているサメっちがそう言った。
ドレスにもいくつか隠しポケットを作ってもらって、サメっち以外にも人形は連れてきている。
「まあ、予想はしていたから、平気だよ」
小声で返す。
アベル様にも一応聞いておいたのだけど。
決まりかけていた婚約者のお名前はシーグリッド様。
まっすぐな銀髪に赤みがかったブラウンの瞳の女性らしい。
銀髪か……きっと妖精のように美しい人なんだろうな。
でも、アベル様から彼女と愛し合っていたわけではない、と聞いて少し安心はした。
少なくともアベル様にとっては、婚約者になる予定ではあっても、恋人ではなかったわけで。
彼女の方もアベル様をただの婚約予定相手だった、と思ってくれてれば気が楽なんだけれども。
私も婚約者を奪われたきた立場だから、彼女のほうがアベル様を好いていたら申し訳なかったりもするし。
アベル様とダンスを踊って、またヒソヒソ声が聞こえて、聞こえないふりして笑顔を浮かべる。
「……参りましたね、こんなにヒソヒソされるとは。ちょっと想定外」
「そんなに仲睦まじかったんです? その例の伯爵令嬢と」
「……いえ、普通にエスコートしていただけのつもりなのですが」
「えっと……その。最近、私に接している態度……あ、甘やかしモードはあったのでしょうか?」
そういうの聞くの、ちょっと恥ずかしい。
「いいえ、全然違いますよ。 あ、ドリンクは果実水でいいですか?」
あっさりそう言ったアベル様が飲み物を取ってくださった。
「あ、はい。ありが……!?」
受け取ろうとした時に、彼は私の頬にキスをした。少し、ゆっくりめに。
「あ、アベル様、なにを……」
「いえ、すみません。あまりにも例の令嬢に関するヒソヒソが多いので……私達が仲睦まじい、という様子を見せようかと」
「そ、それなら最初に相談してくださいよ。ビックリします」
「ビックリさせたかったので。ほら、微笑んで私を見てください」
「……あなたがまず微笑んでませんよね!?」
アベル様は基本無表情だ。
「あ……ああ、失礼。過剰なポーカーフェイスと疲労で真顔が染み付いているかもしれません」
「……なんですか、それもう……」
私は困ったように笑った。
それを見て、アベル様もつられて微笑んだ。
なんだかそれが、嬉しい、と私は思った。
そんな事をしていた時、声をかけてくる令息がいた。
「よう、アベル。相変わらず上手くやってるようじゃないか」
ワイングラス片手にニヤニヤしている、ダークブロンドの青年だ。
「リドリー。来ていたのか」
「ああ、久しぶり。伯爵はうちにも招待状を送ってくれるからな。……こちらが例の姫様か?」
私をじろじろ見てくる。
なんだ、無礼な人だな……。
私は作り笑顔で会釈した。
「妻のアプリコットだ」
アベル様が私をすこし隠すように立った。
……か、庇ってもらえた。
王宮では母親から敵対認定されてからは、こんな事なかった。
ちょっとうれしい。
「知ってるよ。アプリコット姫。お噂はかねがね。アベルの3つ上の兄、リドリーです」
リドリーと名乗った男性のその笑顔は歪んでいる。
いるいる。王宮住んでたら、こういう顔のやつ、今までもいっぱい見た。
やっぱりこういう場所に来たら一定の割合でいるよなぁ……。
「……どうも」
「なあ、アベル。お前運がホントいいよな」
「……なにがだ?」
アベル様が、がっつりポーカーフェイスモードに入っておられる。
「ほんとお前上手くやったよな。普通、お前よりオレだろ、辺境伯になるのは……そして綺麗な伯爵令嬢と恋仲になったかと思ったら、今度は醜聞が酷いとはいえ、国の姫を娶っただと? うらやましいねぇ、おめでとう」
顔が
「――ありがとう」
それに対して淡々と真顔で答えるアベル様。
「……つまんねぇ、やつ」
そういうと、リドリーとやらは、アベル様の後ろに隠れがちな私をじっと見た。
「美しく、そして可愛らしい姫様だ……。オレが爵位を継いでいれば、あなたが私の妻だったんですね」
おえ……。
なんか、この人……顔つきに品がなくて受け付けない。
生理的に無理。
私はアベル様のスーツの端をぎゅ、と掴んでしまった。
「……」
アベル様が、一瞬びっくりした顔で私を見たあと、目を細めて微笑んだ。
え、なに。
「リドリー、悪いが妻が人に酔ったようだ。ここを離れさせてもらう」
「そうかよ……ああ、アプリコット姫、またお会いしましょうね」
うーん、なんか言ってるけど、聞こえないなあ。無視。
そしてアベル様は私をエスコートして、その場を抜け出した。
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