【26】 平和の訪れ


 アベル様と既に結婚しているのに婚約した、数日後。


「わあ、お姉ちゃん、綺麗な指輪」


 リリィがキラキラした瞳で私の婚約指輪を見ている。


「ありがとう、リリィ」


 今、リリィとロニーを辺境伯爵家の本棟に連れてきている。


 前々から気にしていた、リリィの魔力に関する話し合いをする為だ。

 はっきりとは聞いてないが、ロニーは彼氏だろうし、リリィの保護者ヅラしてるとこがあるので同席させた。


 先程、旦那様……じゃなかったアベル様にお願いして、辺境伯爵家が所持している鑑定装置を使って、リリィのスキルを確認してみた。


 やはり聖属性だった。

 そしてパッシブスキル――自動で発動してしまうスキルに魅了と自動回復、自動修復があった。他にも瘴気無効や、幸運とか羨ましいものがいっぱいだった。


 たしかお母様もそうだったはず。

 リリィの魅了に関しては、説明をちゃんとして、封印させてもらった。

 アベル様に頼んで封印師を呼んでもらったのだ。


 アベル様の協力を得られてからは、やりたいことがスルスル進む……。


 そして魅了の封印に関してリリィは、

「うん、いらない! 封印でいいよ!」

 そのように快く承諾しょうだくしてくれた。

 

 ロニーはそんなリリィの様子をだまって優しい笑顔で見守っている。


 リリィの鑑定が終わった後は、二人を別棟にご招待した。


「わあああ!! お人形さんがいっぱいいて!! 動いてる!!」

「うわ、すげえな、これは」


 人形が動き回っているし、建物はメルヘンだ。

 子供にとってはちょっとしたアミューズメントパークだろう。


 私はリリィの人形のアニーに魔力を送って起こしてみた。


「あ……アニーが動いた!!」


 リリィが涙目で感動しまくってて――可愛い!!


「ねえ、お姉ちゃん、私ここで働きたい!! お姉ちゃんの侍女になりたい!!」


「えっ!?」

「なんだと?」


 ロニーが、少し大きな声を出した。



 *****



 さらに数日後、アベル様と私は別棟の庭園にあるテーブルで向かい合って座っていた。


「おまたせしました!! ……とと」


 リリィが、侍女服を身に付けてティーセットを乗せたワゴンを押してきた。


「……ほら、気をつけろよ」


 傍にはスーツを来たロニー。


 リリィがここで働きたい、と言った結果、別棟に使用人としてこの二人を週の半分だけ、住まわせる事になった。

 孤児院卒業は、まだ早い。


「ありがとう、二人共。がんばってね。ナニーに聞けば色々教えてくれるからね」

「二人共制服が似合ってますね。がんばってください。とりあえず勉強からね」


 アベル様と私が、二人にエールを贈る。


「「はい」」


 リリィの能力を調べるついでにロニーも調べたら、なんと風属性魔力持ちだった。

 今は使用人として住まわせているけれど、本人が望めば騎士団のほうで鍛えてもらってもいいかもしれない。


 もし、騎士になることができれば、騎士爵がもらえて、土地も貰える。

 そしたらリリィを娶って二人で住むこともできるだろう。


 ……と、ぼそっといったら、やる気満々になっていた。


 ただセバスがちょっと彼に目を付けていて、執事としての教育をしたいようだった。

 彼も執事の後継者を探しているらしい。

 執事に騎士に。ロニーも将来の夢が広がるねえ。


 リリィにも少しだけ、侍女が覚えておくべき護身術等を学ばせる。

 聖属性は攻撃性がないので、自身に魔力変質などでエンチャントで戦えるように教育しておかないと。


「あの、アベル様。なにからなにまで、ご協力頂いてありがとうございます」


「何を言ってるんですか。私の仕事でもあるんですから。リコ、これからも遠慮なく相談してください。ああ、そうだ……近いうちにデザイナーを呼びますので、パーティーのためのドレスを作ってください」


「え……、でも、城から結構ドレスを持ってきてるんですよ? わざわざ作らなくても」


「初めて一緒に行くパーティーなのに、私にドレスを贈らせてくれないんですか?」


「う……わかりました。わかりましたから、手を放してもらえます?」


「おや、つい。……そうだリコ、実は私の仕事も、もうすぐ落ち着くんですよ。前辺境伯が放置して滅茶苦茶になっていたものが、やっと正常化してきました」


「え? そうなんですか? おめでとうございます」


「ええ。ですから、今日もこうやって時間がとれました。これからは一緒に出かける時間もとれると思いますので、お付き合いよろしくお願いしますよ」


「は、はい」


 ――その言葉の通り、それからアベル様は、私とお茶する時間の他、一緒に過ごす時間を増やされた。


 観劇やら買い物だけかと思ったら、ピクニックなんかにも連れて行ってくださったり。


「な、なんだかずいぶん、私を甘やかしていませんか!」


「甘やかしてますよ?」


「なんというか……人として駄目になる気がするので、本来の夫人のお仕事をなにかしましょうか……」


「それなら本棟に住んでいただかないと。でも貴女は今、孤児院経営をしているし、買い取った元貧民街の整備もこれからやっていってくれるのでしょう? 今はそれで十分ですよ」


「わ、わかりました」


 こんなに甘やかされていいのだろうか。


 不幸体質が身についてるから、なんだかこう……幸せだと罰があたる気がしてしま……あ、私は今、幸せ……なのか……。


 少なくとも、この人のそばにいるのは心が温かくなる気がする。


 そういえば、最初にこの領地に来たとき、彼と普通の夫婦にはなれなくとも、家族として仲良くはなれたらいいな、とは思っていたのだった。


 あの時、私が思ったその希望が、今、かなっている。



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