第17話 興味シンシン!
『ところで葵ちゃんって、みゆっちのことまだ好きなの? 仲良さそうなのは見てわかるけどまったく親展してないよねー』
朝の着替え中、俺は舞に昨日聞かれた言葉を思い返す。
好きなのは変わらないはずなんだけど、前に持っていた『好き』とはなんとなく違ってきている気がする。
これって異性としてよりは同性としての好き?
そもそも女の子同士で付き合うのってありなの?
だめだ、わからない。
今間違いなく言えるのは、あれこれ考えていても答えは出なさそうにないということだけ。
「あお、ここだよ」
そうしてやってきた待ち合わせ場所の駅前。
大きな時計の下では
「あれ……ミーアはまだ来てないの?」
「少し遅れるって言ってた」
「じゃあ座って待ってよっか」
ひとまず近くのベンチに腰掛けたのだけどすぐに隣から視線を感じる。
俺はバッグから誕生日に貰った本を取り出し微笑んだ。
「そうそう、これすっごく面白くて一気に読んじゃった!」
「よかった……! お勧めのまた探しておくね」
「いやーお二人ともすみませんです。あまりに楽しみすぎてネボーしました!」
気づけばミーアがやってきていて俺の腕に抱きついた。
「じゃあ私はこっち」
石動さんは反対側の腕に強く抱きつく。
二人は夏らしい涼しげな服に身を包んでいて、なんだかいつもより気合いが入っているのがわかる。
俺もこんな風に見えてるといいんだけど。
両手に花のような状態で映画館に向かっていった。
「こういうのはほとんど見たことありませんので楽しみです!」
ミーアはポップコーン片手にはしゃいでいたのだけど、上映が始まるとすぐに静かになってしまった。
今は幸せそうにすうすうと寝息を立てている。
寝不足なのもあるんだろうけど、やっぱりこの子はアニメ以外に興味はないのかも。
反対側に視線を向けると石動さんは真剣にスクリーンを見つめている。
それもそのはず、今見ている映画は恋愛ものであり本人の強い希望によるものだ。
そうしてエンドロールを迎えると、終始肩に寄りかかっていた石動さんは頬を染めてこっちを見ていた。
「みゆサン、すっごく面白かったです! 最高です!」
「それは嘘。ミーアはずっと寝てた」
「ふふっ、見てたんです? では次の場所に向かいまーす!」
「だから手を引っ張らないで」
「まあまあ、いいじゃないですか。ライバル同士なんですから!」
「ライバルは手を取り合わないはずなの……」
先を行く石動さんとミーアにゆっくりついていく。
絵に描いたような凸凹コンビで、二人の性格はまったくの正反対だけど意外と仲がいい。
「お二人とも、アタシのリズム感見ててくださーい!」
今はゲームセンターに来ていて、ミーアが音ゲーをするところを見ている。
自信満々に言うだけあってかなり動きがよく、あっという間にギャラリーが増えていった。
「へー、うまいじゃん!」
戻ってきたミーアとハイタッチする。
「葵サンもどうですか?」
「でもああいうのやったことないしなぁ」
「でしたらあれにしましょう! 初心者でもわかりやすい思うです!」
なかば強引に連れられたのはステップして体を動かすタイプのもの。これもリズム感を要求されそうだ。
だけどやってみるといい運動になる上にわからないなりに楽しい。
俺はいつのまにか夢中になってしまっていた。
「なんかすっごい充実してたかも」
「周りの方々、葵サンの胸ばっかり見てましたね!」
ミーアはサムズアップしながら満面の笑みを浮かべている。
「うそ、気づかなかった」
「確かにあお、すごい揺れてた。私もずっと見てたし」
「な……みゆまで変なこと言わないでよっ!」
ひとしきり騒いだあと最後に目的の浴衣を買いに行く。
ミーアはミニ丈のひまわり柄を、石動さんは朝顔、そして俺は桜模様のものを選んだ。
今から花火大会が楽しみになってきた。
どうやら二人もそうらしくわかりやすくにこににしている。
「そうだ。まだ時間もあるしうち来る?」
「ぜひぜひ! アタシ、葵さんのおうち初めてです!」
そうして部屋にあげたのだけど、ミーアはあちこちを見回したあとやっと座った。
「そんなにわたしの部屋って変かな?」
「そんなことありません! ところで葵サン、今日はどちらのデートプランが楽しかったです?」
「もしかして対決ってこのこと?」
「そんなところです!」
「どっちも楽しかったけどな……それじゃだめ?」
俺が首をかしげると、二人はこそこそと話を始めすぐに頷いた。
そのあと石動さんがぐっと寄ってくる。
「あのねあお。勝った方はこの間の動画のセリフをお願いしようって話になってて」
「え、あれを?」
「でも引き分けですので、二人ともにお願いしたいです!」
「それどういう理屈なのよ……」
無言でじーっと期待するような眼差しを向けられて、頷くしかなくなってしまった。
「し、仕方ないからわたしが耳かきしてあげる。ってなに驚いてるの? いいからさっさとここに寝転がりなさいよ……」
顔が熱くなるのを感じながらふとももをぽんぽんと叩く。すると石動さんはそっと頭を乗せてきた。
吐息がかかり、さらさらの髪がふれて少しだけくすぐったい。
そこへ咳払いが聞こえると近くでミーアが横になって待機している。
「本当は起きてるんでしょ? もしそうならそうって言わないと、大変なことになっちゃうよ。本当にちゅーってしちゃうんだからねっ……?」
目をつむったミーアはんーっと唇を近づけてくる。
それを手の甲で防ぐとミーアは手のひらに口づけをした。
「あー恥ずかしい。もう二度とやらないからね!」
両手で顔をあおいでいると、勢いよく起き上がったミーアが目を輝かせ尋ねてきた。
「ところで葵サン、エッチなのは隠してないんですか?」
「ちょ、ちょっと、今度はなに言い出すの!?」
「殿方はそういうのを持っていると伝え聞いてまーす! つまり葵サンも持っていたわけですよね? アタシ興味シンシンなのです!」
「あるにはあるけど、こういうのは皆して見るようなものじゃないよ。ってみゆ、すごい真っ赤……」
石動さんは心配になってしまうくらいに紅潮していて、それを見たミーアはにやにやしながら近づいていく。
「もしかしてそういうの見たことあるんです?」
「な、ななな、ない」
「ホントですかぁ?」
「ほんとにない。そんなことない……!」
「それはさておきです。これから鑑賞会やりましょう!」
ミーアは石動さんから離れるととんでもないことを言い出した。
ここは俺が釘を刺さないと暴走しそうだ。
「待ってよ。それ本気で言ってるの?」
「もちろんです! みゆサンも興味ありますよね?」
「なっ……な、ない」
「やっぱりこの人とても怪しいです。まあまあ、とにかく始めましょうか!」
結局断りきれなかった。
そんなわけで今、友人からの借り物のえっちなディスクをクラスの女の子と一緒に見ている。
これどんな状況?
男の時には考えられなかった展開に驚きを隠せない。
「わぁお。こんなの入るんですね……! ね、みゆサンどう思います?」
ミーアは口を開けたまま、時折日本語ではない言葉が小さく漏れ出る。
「どうして私に聞くの……」
石動さんは手で顔を覆っているけど、開ききった指の隙間からしっかり覗いている。
俺はいたたまれない気持ちで終止目が泳ぎまくっていた。
「いい勉強なりました! アタシ知ってます。みゆサンはムッツリというやつです」
「違う、違うの……!」
「なにが違うんです? ちょっとその体で試してみましょうか!」
「じゃーん、おねえ自慢の可愛い妹がきたーく! あれ、ミーアさんとみゆさんまでいるぅ。なんの話してるの?」
天音が部屋に入ってきた瞬間、部屋中が静まり返る。
さすがにこの子にはまだ早い。さて、どう説明すべきかな。
思い悩んでいると真っ先にミーアが声をあげた。
「ハイ、ジャパニーズプロレスでーす!」
「はいはーい。あたし、プロレスがよくわかんないです!」
「そうですね……こう、それはもう激しい動きなんです! ね、みゆサンそうですよね?」
「ほんと、そう、なの、激しい」
「あっはは、みゆさんなんでカタコトなのぉ?」
天音の無邪気な笑い声が響く。
二人も同じことを考えていたようで、身振り手振りを交えながらこの場を乗り切った。
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