第14話 ビーチから生配信!
「いつも見てくれてありがとー。今日は予告どおりビーチからの生配信でっす!」
舞は波打つ海岸をカメラに収めながら元気よく挨拶をしている。
心配だったテストは補習をまぬがれたどころか平均点以上を取り、こうしてなにごともなく海に来られた。
「イエーイ、日本の海もいいものです! ほらほらみゆサンも!」
真っ先にカメラの前にやってきたのはミーアだ。
胸元でクロスしている黄色の水着は谷間を強調していてかなりセクシー。
当然その大きさもあって揺れに揺れている。
「や、やっぱり恥ずかしい……」
その隣でもじもじとしているのは石動さん。両肩とおへそを出しつつも、胸元の露出は控え目なフリルの白水着がよく似合っている。
あんなに食べてるのに、体の線がほっそりとしているのはどういう仕組みなんだろう。
カメラの方、というよりはこっちをちらちら見ている。
「みんなー、これ新しい水着だよ! どうどう? かわいいよね?」
天音はピンク地に黒い水玉の可愛らしいワンピース。それを見せつけるようにカメラに寄りダブルピースをしている。
「最後は黒水着がセクシーな葵ちゃんだよー」
舞からカメラを向けられて、自分の露出の多さを思い出した俺は腕で胸を隠す。
この三角ビキニというやつはまだ俺には早い気がしてきた。
「変なとこばっかり撮らないでよ、ばか」
「ちょっとちょっと。この見た目で初々しいのすっごくよくない?」
「またそういうこと言う!」
「さてっと、まずは準備から始めるよ! ということで日焼け止めと……きれいに焼きたい人にはサンオイルを用意してありまーす」
舞が他の三人を映している間に背後から配信画面を覗き込む。
≪初見。なにがとは言わないけどとにかくでかい≫
≪皆可愛くて課題どころじゃないんだがw≫
≪これなんで投げ銭できないの? 不具合?≫
≪僕は断然天音ちゃん推し≫
≪舞さんは出演しないのかなぁ≫
≪ライバル設定の二人の動向が気になる!≫
≪葵お姉様にばかって言われたい(笑)≫
続々とコメントが流れていて盛況のようだ。
いまだになにが受けてるのかわからないけど、楽しんでくれてるみたいだしいっか。
一人頷いているとミーアが近くまでやってきていて俺の手を引っ張った。
「葵サーン、オイル塗ってください!」
「あ、ちょっと。そんなに慌てないでよ」
パラソルの下まで連れていかれると、ミーアはビキニの紐をゆるめシートの上にうつぶせに寝そべった。
あれ、こんなイベント知らない。どうすればいいんだろう?
手渡されたサンオイルを見て戸惑っているとミーアの声が聞こえた。
「背中に塗りたくってもらえると助かります!」
「えっと、こう?」
オイルを数滴垂らし手の平で触れるとミーアの体が少しだけびくんとした。
「どうぞ続けてくださーい!」
「あ、うん」
最初は恐る恐るだったけど段々とスムーズな動きができるようになってきた。
それにしてもミーアはすべすべな肌をしている。
「背中はオーケーです。次は前をお願いできますか?」
「前って?」
「わかりません?」
振り向いたミーアは悪戯っぽく笑っていて、その様子に俺ははっと気づいてしまった。
「って、それは自分でできるでしょ!」
「ジョークです! でも、葵サンならしてくれるかなと少しだけ期待していました!」
「まったくもー」
「では交代ですね。葵サンは日焼け止めでしたか?」
今度は俺がうつぶせになって、背後のミーアからクリームを塗ってもらっている。
なのだけど。さわさわ、さわさわと変な風にくすぐったい。
「ミーア、なんか手つきがいやらしいんだけど」
「そうでしょうか? アタシの国ではフツウですよ!」
「絶対うそ! それ、その動きやめてー!」
しばらく悶えたあと、隣に視線を移すと天音が石動さんに日焼け止めを塗っている。
「お客さんお肌キレイですね! それに細いし羨ましいなぁ!」
「天音ちゃんだってすごくスリムだよ」
「うー、別の意味に聞こえてダメージ受けちゃう……」
「なんかごめん……」
沈む二人の様子を微笑ましく見ているうちに体からミーアの手が離れていった。
「ハイ、おしまいでーす! あとはご自分でお願いいたします!」
「ありがとね」
「いえいえ。あのお二人が終わったら皆さんで遊びましょーう!」
ミーアは肌を焼きたいらしくそのまま寝転がった。
俺はその隣で体育座りをして周りの風景を眺めている。
貸し切り状態の砂浜に見上げれば青い空。波の音と潮の匂いに感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
「葵ちゃんたそがれてる?」
いつのまにか舞がすぐそばにいて顔を覗きこんでいた。
「ぼーっとしてただけだよ」
「そういうのも様になるよねー。ほら、もう皆お待ちかねみたい」
舞の視線の先には準備万端といった風に三人が手を振っていた。
「おねえ、えーいっ!」
「この、やったなー!」
「あはは、楽しいねぇ!」
浅瀬で天音と水をかけあっていると背中に控え目な量の水が飛んで来た。
こんなことするのはミーアか舞くらいしかいない。
「ちょっと、なにするのー」
言いながら振り返ると石動さんが恥ずかしそうに俯いていた。
「ごめん……。でも私も一度やってみたかった」
「みゆ、もっと思いっきりでいいよ!」
「わかった。こう?」
「わ、やったなっ」
「二人とも見て見て。あれすっごいよ!」
かけあいをしていると天音が興奮気味に遠くの海面を指差している。
そこにいたのはミーアで、見事なクロールで横切っていくと俺を含めた全員から驚く声があがった。
「さてと、お昼になるわけですが……これよりお料理タイムです!」
舞のひときわ大きな声が響く。
下手すると俺の家のくらいあるんだけど。
今は別荘内のキッチンに案内されていて、その広さに皆で辺りを見回しているところ。
「待って舞。この格好のままやるの?」
「もちろんだよ。あ、エプロン着けたい人は着けてねー」
水着とエプロンは変な組み合わせだけどこれなら少しは隠せるしいいかも。
同じことを考えていたのか石動さんもエプロンを身につけている。
「ねえねえ。今どんな反応なのか知りたくない?」
ふと見ると舞がスマホを差し出してきていた。
≪お昼なに作るんですか?≫
≪ちょっとコンビニ行……ってる場合じゃねえ!≫
≪だめですよ葵様、それは破壊力が高すぎます!≫
≪水着だけよりなんかエッ≫
≪みゆさん絶対葵さんのことお気に入りだよね。色々捗ります≫
≪水着エプロン、ありですね~≫
これ、ありなの? やっぱりよくわからない。
首をかしげながら俺はカメラの前に立った。
「えっと、今日は夏らしく冷やし中華を作っていくよ。皆、準備はいいかな?」
いつもの料理教室スタイルで教えながらなのだけど、皆手際がよく上達しているのがわかる。
一番不器用な天音ですらきちんと形になっていて、ほとんど口出しすることはなくなってしまったほど。
薄々気づいてたけど教えた子が成長していくのって嬉しいものだ。
「皆、すっごいうまくできたね。それじゃいただきましょうか!」
「葵サン見てください。マヨネーズドバドバでーす!」
「と、とっても個性的だね……」
昼食を終えてまたビーチに戻ってくると、舞は相変わらずテンション高く準備をしている。
「さっきコメントでもあったけど舞も映ってみたら?」
手伝いながら俺は声をかけた。
「いやいや、うちは皆ほど可愛くないしー」
「そんなことないと思うけど」
「目立つのあんまり好きじゃないんだよ。それにね、裏方で輝く人間も必要不可欠なのさー」
「そういうものかなぁ」
そんなわけで全員集まっているのだけど、間違いなくこれはビーチバレーのコートだ。
舞はボールを両手で掲げにっこりと微笑んでいる。
「今回のチームは葵ちゃんとみゆっち。天音ちゃんとミーアちゃんでいくよー。もちろん勝った方にはっ」
「はーい、なにかもらえるんですかー?」
天音が元気よく手をあげた。
「ふふ、いいものだと言っておきましょうかね。じゃあ作戦会議のあと始めるよー」
そうして軽い打ち合わせをしてみてわかった。
石動さんは元々運動が苦手らしく、一方の俺は胸のせいで動きたくない。俺達はどちらかと言えばこういうのは向いてなさそうだ。
「ごめんねあお。私のせいで負けちゃうと思うけど……」
「いいよそんなの。勝敗関係なく楽しも?」
「うん、頑張るーっ……!」
「じゃあ葵ちゃん達も集まってねー」
舞から呼ばれコートに立ったのだけど、ミーアがあからさまに石動さんを狙ってきているのはなんだかもやもやする。
よし、点差もついて油断しているだろう二人に不意打ちしてみよう。
俺はサポートするように動いたあと、隣で構える石動さんに声をかけた。
「次ボールが来たら上に高くあげてもらえない? できればネットの近くね。失敗しても気にしないからどんどんお願い!」
「うん、やってみる」
胸のことを気にしなければスパイクなんてどうってことはない。
石動さんのトスを受けて思いっきりボールをひっぱたく。するとミーアのレシーブを弾き飛ばしボールはコートの外に転がっていった。
「葵サン、やあああっと本気になりましたね!」
「勘違いしないで。やられっぱなしなのが気に入らなかっただけ」
「わぁお。それでこそでーす!」
なぜだかミーアの闘争心に火をつけてしまったみたい。
試合はスパイク合戦になって同点のまま進んでいった。
「みゆ、次のプレーなんだけど――」
「でもそんなにうまくいく?」
「向こうはわたしが打つと思ってるから驚くはずだよ! 一回やってみよう?」
相手からのサーブを石動さんが受け、その間に俺は落下点まで走りこみ跳び上がる。
これはここまでの流れとまったく同じで、ミーアがブロックしようと同じようについてきた。
今回、石動さんにはボールをあげると見せかけて相手コートに落としてもらうつもりだった。
ただここで計算外だったのが彼女のドジっ子属性だ。
「ああっ」
砂浜に足を取られたのかつまずいている。その弾みでボールは力なくふらふらと舞っていった。
そんなことより、石動さんが顔から地面に突っ込んでいこうとしているのは同じ女の子として見過ごせない。
俺は夢中で駆け出し抱きしめたまま倒れこんだ。
「うう……ん?」
むぐむぐと胸元からなにか声が聞こえる。
あれ、なんか前にもこんなことあったような……?
嫌な予感がしつつ視線を落とすと、やっぱり石動さんが俺の胸に埋まっていた。
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