第9話 お泊り会!
「今日はストレートヘアで決ーまり!」
それは土曜の昼過ぎのこと。天音はいつものように俺の髪を整えおわると元気よく声をあげた。
「じゃあそろそろいこっか」
「はあぁー……楽しみだねえお泊りっ!」
「だからってそんなにはしゃがないの」
「だってだってぇ」
そうして俺は天音とともに家を出た。
今日の服装は黒のキャミソールと白のカーディガン、そしてベージュのパンツ。
隣をいく天音はデニムのショートパンツとロゴの入ったTシャツ、ナイロンジャケットといったラフな格好だ。
そんな俺達の目的地は舞の家であり今回が初訪問になる。
舞としては親睦を深めたいらしく同好会メンバー全員を招待したと言っていた。
地図アプリを確認しながら指定された住所を目指していくと、画面上の表記ではあと数十メートルほどで着きそうだ。
「なにか差し入れでも買っていこうかな?」
「おねえ、パジャマパーティーにはお菓子とジュースと恋話だよ!」
天音は鼻息荒く主張している。
一つ買えないものが入ってた気がするが、またなんとも女子らしい言葉が出てきたな。
ちょうど目についたコンビニで袋一杯の買い物をしたあと舞の家に到着。
そこは思っていたよりも広々とした一軒家で、インターホンを押すとすぐに舞が出てきた。
「ようこそお二人さんー。さあさあ上がって上がって」
「もう皆来てるの?」
「ううん、少し遅れるみたいだから座って待っててねー」
そうして部屋に通されたわけだが、天音の可愛らしい感じとは違いどこか殺風景な空間が広がっていた。
一見すると男の部屋と間違えてしまいそうだ。いつもの舞のイメージとは大きくかけ離れている。
そうしていると飲み物をトレーに乗せた舞が戻ってきた。
「葵ちゃん、きょろきょろしてどうしたの? もしかして女の子のお部屋は初めて?」
「それもあるけど片付きすぎてるなと思って」
「前は推しグッズばっかりだったんだけどね。ママに怒られてからはこうなのー」
「その呼び方も意外すぎるよ……」
「昔からそうしなさいって育てられてますから。さて、うちのことはこのへんにしましてねー」
舞は言いながらスマホを取り出すと昨日の動画ページを開いた。
ちょうど再生箇所が俺の恥ずかしがる姿だったのもあって、俺は手の平で扇いで顔の熱を冷ます。
「えっと、再生数とか大変なことになってたよね」
「もう見てくれてたんだ? 本当すごいよねー」
舞は口に手を当てくすくすと笑っている。
「でもあんな短時間であそこまでいく?」
「実を言うと前はうちのゲームチャンネルでね。一応そういう触れ込みはしといたんだよねー」
「もしかして前の登録者ってそのままだったの?」
「それでも千人くらいしかいなかったよ。だから今回の増加は純粋に葵ちゃん達のお力なりー」
ははーっとおどけて両手とともに頭を下げる舞に、天音はすごーいと嬉しそうに声をあげて喜んだ。
その様子を尻目に俺は思ったことを口にする。
「うーん。でも普通の動画だったと思うけど……なにがよかったんだろう?」
「そんなあなたに、はいどうぞ」
舞から視聴者によってつけられたコメントを見せられる。
そういえば昨日そこまでは確認していなかった。
「結構色々書かれてるんだね」
「これなんて特に面白いよ。『葵ちゃんはドスケベボディ。そのうえ他の子と絡む様子がとにかくえっちでファンになりました』」
思わず体中がぞわっと身震いする。
「ちょっと舞……そんなの読み上げなくていいよ!」
「今のはほんの一部だよー。あとはちゃんとした感想ばっかりだからさ」
「へー、どれどれ?」
『私にもお料理教えて欲しい』
『葵さんとみゆさんの抱き合ってるところ切り抜きしてリピってます』
『妹ちゃん卵割れてえらいね』
『ミーアに日本の美味しいものたくさん食べさせてあげたい』
よかった、比較的まともなようだ。
そう感心しながら読み進めていると舞の指が画面に伸びてきた。
「それからこのような声もございました」
『皆さんとても可愛くて眼福です。ところで生配信を行う予定はありますか?』
「配信ね。監督さんとしてはどうするつもり?」
「しばらくは動画でいくけど皆が慣れてきたら始めようかなとー。いいよね葵ちゃん?」
「それはわたしの決めることじゃないし、舞にお任せするよ」
「そう言ってもらえると助かるよー。そうだそうだ、今度久しぶりにゲームしよ?」
「そっか、あれから全然やれてないもんね。土日なら余裕あるしまた連絡して」
お菓子を食べながらテレビを見てくつろいでいるとインターホンが鳴り、舞は部屋から飛び出していった。
ほどなくして入ってきたのはこの二人だ。
「ごめんね遅れちゃって。途中でミーアさんが迷ってたから案内してたの」
リボンブラウスにロングスカート姿の
「ハーイ、みんなさん。いしゅ……いしゅるぎサンがいなかったら迷子になってた思います!」
「言いにくそうだし私のことはみゆでいいよ」
「わぁお、ありがとございまーすみゆサン!」
ノースリーブのブラウスにミニスカート。肌の露出が多めのミーアは石動さんにハグをした。
「さてさて皆揃ったね。皆はもう知ってるけど、ミーアちゃんにはきちんと伝えておかないといけないことがあります」
舞は仰々しく咳払いをするとミーアの方を見ながら言い放った。
「それはナンでしょう?」
「実はここにいる葵ちゃんは男の子です」
「葵サンが男……!?」
ミーアは驚きを隠せない様子で俺の側まで寄ってくると、顔をまじまじと見つめてくる。
「ミーア、近いって」
「確かめさせてもらってもヨロシイですか?」
「え? わたし今はもう完全に女でね」
「胸があるのはわかってますしコッチの確認を。イザ、失礼しまーす!」
「ねえ聞いてる? ちょっと、やめっ」
言葉がまるで届いていない。
俺は押し倒されるような形になりミーアから下腹部をまさぐられている。
辺りを見回しても、あまりの展開に他の皆は固まっていて今はなんとか抵抗して耐えるしかなさそうだ。
「あのあのミーアさん。おねえはもう女の子なんだよ!」
ようやく天音が声をかけると、ミーアは我に返ったらしく俺から手を離した。
「そういうことですね。葵サン、ハヤチトリしてすみませんでした!」
ぺこりと頭を下げるミーアを見て舞は満足気に笑顔を浮かべている。
「人間誰にでも間違いはあるよー。ね、葵ちゃん?」
「まったく、早とちりさせるような言い方しといてよく言うよ」
「なぁんのことかな? それでね、女の子になって間もない葵ちゃんに皆で色々教えられたらと思ってるんだー」
それからは女の子特有の日を初めとした、まさに男子禁制といった内容の話が展開されていく。
女の子はただキラキラしているだけではないらしい。
天音からやんわりと聞いていたので覚悟はしていたが、かなり生々しいところまで知識として叩き込まれる夕食兼勉強会になった。
「さてと、せっかくだし皆で入ろうよー」
全員一緒に入れそうな広さの風呂に天音とミーアが歓声をあげ、すぐに浴槽に浸かるとくつろぎはじめた。
「葵サン、早くハヤク!」
「そんなに慌てないでよ」
ミーアに急かされながら体を洗っていると石動さんが近くまできていた。
体にはバスタオルが巻かれていて恥ずかしそうな表情を浮かべている。
「あお、背中流そうか?」
ものすごく優しいタッチで肌に触れられ声が出そうになる。
「じゃあわたしも流してあげるね」
「あ、うんっ……」
今度は反対にすべすべとした背中に触れると石動さんからは小さく声が漏れる。
それがどこか色気のある音色に聞こえて、ドキドキしているうちに洗い終えてしまった。
「葵サーン、やっと捕まえました!」
お湯に浸かりぼうっとしているとミーアが俺の腕に抱きついてきた。
思っていたとおりなかなかの大きさで、むにむにとした柔らかさと弾力が直に伝わる。
「急にどうしたの?」
「これぞ裸のツキアイというやつでーす!」
ミーアは無邪気に笑いながらさらに押し付けてきて、それとほぼ同時に石動さんは反対側の腕を強く引っ張ってきた。
こちらはミーアほどの大きさはないが形のよさに目を引かれる。
「ミーアさん。胸では負けてるけど、私絶対あなたには負けないから」
「もしかしてジャパニーズハタシアイですか? みゆサン、どうぞお手柔らかにジンジョウに!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて……」
昨日のような見つめ合いが再び始まってしまい俺はなだめることしかできない。
逃れるように正面に視線を向けると、天音と舞が真剣な表情で話をしている。
「焦らなくてもあの三人みたいになれるよー。毎日頑張っていこうね」
「やっぱり舞さんはあたしの理解者……!」
「よしよし。もーっと頼ってくれていいからねー」
舞が天音の頭をなでている。
なんの話かはわからないが仲がよさそうでなによりだ。
そうして風呂の時間は過ぎていき、俺たちは寝間着姿となって部屋に戻ってきた。
「葵ちゃん、今日はまだまだ寝かさないよ?」
あくびをしていると舞には珍しく背後から抱きついてきた。
「またなにか企んでるの?」
「いえいえ。夜はこれからなんだから楽しもうよー」
余力をもてあましている他の三人の様子を見て、舞の言ったとおり長い夜になりそうだと思わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます