第34話 J・R・R・トールキン

『指輪物語』トールキン(英国:1892 – 1973)


 オックスフォード大学卒、英文学教授(1945年 - 1959年)を歴任。

『ナルニア国ものがたり』の作者C・S・ルイスは親友。


 現在の南アフリカ、ブルームフォンテーンで生まれ、父は銀行の支店長でした。2歳下の弟がいます。庭でタランチュラに噛み付かれたことがあるそうです(『王の帰還』の蜘蛛に襲われるシーン:笑)。父が病気で亡くなると、母の故郷のバーミンガムに行きました。トールキンは水車小屋や自然の探索を楽しんだようで、その後の作品に影響を与えたと思われます。その母も12歳の時に糖尿病で亡くなりました。 孤児となった彼はフランシス神父の元、水道施設の塔の影に住むことになります。これが暗い塔のイメージの源泉となったようです。


 トールキンは16歳のときに3歳年上のエディス・メアリ・ブラットと出会い恋に落ちましたが、フランシス神父から、会うことも話すことも文通することさえ21歳になるまで禁じられ、それらに忠実に従いました。

 19歳の夏に友人たちとスイスに遊びに行き、12人で山岳の縦走、野営し冒険したことが、霧ふり山脈を越えるビルボの旅の元になっているようです。この時アルプスの万年雪や氷河も経験しています。

 21歳の誕生日の晩、エディスに愛を告白した手紙を書いて、自分と結婚するように彼女に頼みましたが、返信には「自分を忘れてしまったと思ったので、別の男性と婚約した」とありました。ふたりは鉄道陸橋の下で出会い再び恋仲になります。エディスはトールキンと結婚する道を選びました。

 23歳で優秀な成績でオックスフォード大学を卒業後、第一次世界大戦時ですがイギリス陸軍に入隊し転戦しました。多くの親友同然だった人々も含めて、自軍兵士たちが激戦で次々と命を落しました。


 トールキンは第一次大戦後、退役してから辞典の編纂作業をしたり大学で語学教授となりました。『指輪物語』には、叙事詩『ベーオウルフ』に影響を受けたと思われる部族間の戦争や怪物との戦いが見出されます。


 46歳から56歳の10年で『指輪物語』を完成させます。

 W・H・オーデンは『指輪物語』に称賛、熱狂し、長年の友人となりました。トールキンはオーデンに感謝しており、最初の頃に彼が第三者にあざけられても非常に良い評価をしてくれたことで元気づけられたと述べています。


 トールキンの作品はいくつかのヨーロッパの神話伝承から多くの影響を受けています。『ベーオウルフ』に代表されるアングロサクソンの古伝承、『エッダ』、『ヴォルスンガ・サガ』をはじめとする北ゲルマン人の神話体系(北欧神話)、アイルランドやウェールズなどのケルトの神話やフィンランドの民族叙事詩『カレワラ』などです。


 トールキンは自分の子供たちを喜ばせるために話を作ることも楽しみにしていました。毎年毎年、「サンタクロースからのクリスマスレター」をしたためたそうです。これらの小話はのちに一冊の本にまとめられ、出版されました。


 トールキンは、自分の空想物語が一般に受け入れられるとは夢想だにしなかったそうです。かつての教え子だった編集者のとりなしで1937年(45歳)に『ホビットの冒険(The Hobbit)』と題された本を出版すると、子供向けを意図したにもかかわらず大人にも読まれ、アレン・アンド・アンウィン社が続編の執筆を要請するほどの人気を呼びました。これがトールキンを刺激することになり、1954年から1955年にかけて、最も有名な作品となる叙事詩的小説『指輪物語(The Lord of The Rings)』が上梓されました。このサガを書き上げるまでにほぼ10年かかりましたが、その間インクリングズの仲間たち、中でも『ナルニア国ものがたり』の作者で親友のC・S・ルイスは絶えず支援を続けました。『ホビットの冒険』も『指輪物語』も、『シルマリルの物語』の神話に続く物語です。


 1960年代、『指輪物語』はアメリカの多くの学生たちの間で好評を博し、ちょっとした社会現象となりました。現在でも世界中で高い人気を保っている『指輪物語』は英国のBBC等が行った読者の世論調査で、20世紀で最も偉大な本と認められました。2004年には100万人を超えるドイツの人々が、『指輪物語』が文学のうち最も好きな作品として投票しました。


 トールキンは当初、『指輪物語』を『ホビットの冒険』のような児童書にしようと考えていましたが、書き進めるにつれ次第に難解で重々しい物語となっていきました。また後に『シルマリルの物語』などに見られるような膨大な中つ国の歴史を構築し、それを背景にして書き上げました。この手法と出来上がった作品群の緻密で壮大な世界観は、『指輪物語』の成功に続いて出来上がったファンタジー文学というジャンルに多大な影響を残しました。


(2024.8.14)

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