第2話 好印象

痴漢から、女の子を助けた話は、高校で話題になった。

といっても、私たちのやりとりを他で見ていた学生がいたらしく、その子から広まったっぽい。

私は恥ずかしいし、被害者だし、勿論ベラベラ話なんてしていない。

アヤはどうなんだろうか。

やはり、痴漢から助けたことを誇りに思い、自慢しているのだろうか?

それなら、ちょっとやだな…。

かといって、アヤのいる教室に「話してる?」と、聞くのもおかしな話だから、やめた。

アヤの普段の行動や友人関係を確かめるには、特進クラスに行くしかない。

ちょうど、同じ中学校だった友達がいるので、シャープペンを借りるふりして、特進クラスへ行こうと思った。


「ちゃーっす」

「ミズキ?どうしたの?相変わらずギャルだねぇ」

「マオにお願い事あって」

「なに?教科書なら貸さないよ?教科書に落書きされて返ってきて、おこだったから」


マオが頬に空気を入れて怒る。

その肩越しに、自席に座っているアヤを見つけた。

ひとりで、本を読んでいた。

あまり、友達がいないタイプ?なのかな?


「あー、その際はごめんごめん。先生の話がつまらなくてさ」

「授業ちゃんと聞きなさいよ…」


呆れるマオの後ろで、アヤと目があった。

思わず、手を振ってしまった。

アヤも小さく振り返してくれた。

そのことに気がついたマオ。


「あ、黒川さん?」

「黒川さん?」


聞きなれない苗字に、私はおうむ返しをした。


「黒川、えーっと、アヤさんだったかな?」

「うん、アヤ。苗字までは知らなかった」

「友達なの?」

「うん、まぁ…」

「呼ぶ?」


うちの高校は、他のクラスの生徒が教師の許可なく勝手に入室することを禁じている。


「いやぁ、大丈夫」


私が知りたかった事、「言いふらしているんじゃないか」という考え方は、無しになった。

アヤには、そこまで仲のいい友達がいるようには見えなかったからだ。


「あ、急用思い出したから、戻るわ」


知りたいことも何となく知れたので、自分のクラスに帰ることにした。


「あんたマジで何しに来たんだよ…」


と、マオが私の背中に呟いていたのが聞こえてきた。




アヤが私に起きた痴漢事件を言いふらしていないのは、とても好印象だった。

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