第8話

もう時間がないんだ、早く書かなくては……そんな思いが頭の中を支配していたが、それでも僕は書き続けた。

やがて物語のクライマックスを迎えようとしていた時、ふと窓の外を見るといつの間にか結ちゃんがいなくなっていたことに気付いた。


どこに行ったんだろう?と思ったが特に深く考えることもなく執筆を続けようとしたが不意に背後から声をかけられる。

振り返るとそこには結ちゃんの姿があった。


彼女は僕の隣に腰掛けると肩を寄せてくるので慌てて距離を取ろうとしたが結局逃げ切ることができなかった。


『何書いてるの?』


と聞かれたので、正直に答えることにした。

「小説だよ。今書いてるのは恋愛小説なんだ」

と説明すると彼女は興味津々といった様子で身を乗り出してきたので思わず苦笑してしまうと結ちゃんが頬を膨らませる。


その様子が可愛らしくてつい頭を撫でてあげると彼女は気持ちよさそうに目を細めた後、僕に抱きついてきた。

そんなやり取りを繰り返しているうちに段々と彼女の存在を意識し始めてしまい、顔が熱くなっていくのを感じた僕は誤魔化すように咳払いをしてから再び執筆に戻った。


それからしばらくの間、執筆に集中することができたのだが、結ちゃんの視線が気になってなかなか集中できなかった。

やがて時間が経過して窓の外が暗くなり始めた頃、ようやく僕は小説を書き終えたのだった。


「ふぅ……今日書く分終わったぁ……」


疲れた体を癒すように大きく伸びをしつつパソコンの電源を落とすと立ち上がって大きく背伸びをした。時計を見ると既に夜の8時を過ぎていたので急いで夕食の準備をしようとキッチンに向かうことにしたのだが、そこでふとあることに気付いた僕は立ち止まった。


いつの間にか結ちゃんがいなくなっていたのだ。

「あ、あれ?結ちゃん?」

室内のどこにも居ない。

「なんで?」

こんな夜遅くに出歩くとしてら近くのコンビニだろうけど

もう夜の8時だ。

僕は焦っていたら

トイレから


『ごめん!お兄ちゃんいま私トイレだから』


と言ってきた。

心配したけどちゃんと声がして安心した。

「なんだトイレか」


と僕は呟いてからリビングで待つことにした。

数分後、戻ってきた結ちゃんから驚きの発言が出た。それは


『今日はお兄ちゃんと一緒にお風呂に入りたい』


と言ってきたのである。

僕は突然のことに戸惑いながらも返答することができず黙り込んでしまった。すると結ちゃんは不安そうに聞いてくる。


『ダメ?』


その上目遣いにやられた僕は断ることもできず了承したのだった。

(はあ、僕は結ちゃん相手だとどうも押しに弱い)


と思いながらも僕は結ちゃんと一緒にお風呂に入ることになった。そして脱衣所に着くと彼女は着ていた服を脱いで裸になった。白くて透き通るような肌と大きく膨らんだ胸を見て思わずドキッとしたが、すぐに我に返り彼女から視線を逸らした。


そんな僕の様子を見ていた結ちゃんがニヤニヤしながら近づいてくるので慌てていると彼女はいきなり抱きついてきた。


『ふふん』


と悪戯っぽく笑う彼女にドキドキしつつも何とか平静を装って会話を続けることにした。

「ところでどうして一緒にお風呂に入りたいと思ったんだい?」


『お兄ちゃんだから』


(なんだそれ確かに兄妹……だけど実の兄妹では無いしな)

正式には従兄妹なんだ。

結ちゃんの両親は結ちゃんが中学上がる前に他界していまっている。

僕の親は、結ちゃんの父親のお兄さんなので家で引き取る形となった。


僕の両親は、海外で働いていて滅多に帰ってこない。

だから、ほとんど2人暮らしなんだ。

夕食を食べ終わり、リビングで寛いでいると突然結ちゃんが僕の方に寄りかかってきたので驚いてしまう。


「ど……どうかした?」

そう聞くと結ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしながら俯いてしまったがやがて意を決したように口を開いた。


『あのね……昨日みたいにギュッてして……』


(昨日のハグ……そうか少し人肌が恋しいのか)と察した僕は結ちゃんの背中に手を回して抱きしめる。すると安心したようで僕の胸に顔を埋めてくるので優しく頭を撫でてあげることにした。


しばらくして結ちゃんが落ち着いたようなので体を離そうとすると今度は彼女の方から僕に抱きついてきた。


そしてそのまま僕の膝の上に乗ってきて、ぎゅっと抱きついてくるので僕もそれに応えるように彼女の小さな体を抱き締め返すことにしたのだ……。それからしばらく幸せな時間を過ごしたのだが、不意に結ちゃんが上目遣いで僕のことを見ながらこんなことを言ってきたのである。


『お兄ちゃん……キスして欲しいな……』


(はい?)

いま聞き間違いかな?うん。きっとそうだ。そうに違いない。僕は自分に言い聞かせるように何度も心の中で唱えていたが、やはり現実は非情である。結ちゃんは相変わらず潤んだ瞳で僕のことを見つめているのだ。


「え?本当に?」


僕が聞き返すと彼女は恥ずかしそうにしながらもはっきりとした口調で答える。


『うん……キスして欲しいの……』


それを聞いた瞬間、僕の心臓が跳ね上がったような気がしたが何とか平静を装って返事をすることにしたのだ。

「分かった……」

(どうしてこんなことに……)

と思いながらも僕は結ちゃんの唇に自分の唇を重ね合わせるのだった……。

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