第6話
その夜
僕は小説の続きを書くことにした。
そしてしばらくの間、夢中で作業を続けていると結ちゃんが部屋に入ってきた。
彼女はそのまま僕の隣に座ると肩に寄りかかってきた。
「ねぇお兄ちゃん……今何書いてるの?」
「えっとね……主人公が幼馴染と一緒に旅行に行く話だよ」
そう言いながら僕はプロットを書いたノートを開いて彼女に見せた。すると彼女は興味津々といった様子で覗き込んできたが、途中で首を傾げたかと思うと難しい表情を浮かべてしまった。どうしたんだろうと思っていると彼女が口を開いた。
「この主人公ってさ……」
『なに?』
「もしかして私のことだったりする?」
……え? 予想外の発言に僕は固まってしまった。なんで分かったんだろう?戸惑っていると彼女はさらに続けた。
「だってこの主人公って私のお兄ちゃんに似てるもん」
『ええ!?』
僕が驚いていると彼女は笑いながら言った。
「ほら、やっぱりそうだ!髪の色も目の色も同じだし、性格や話し方とかも私と一緒だもんね!」
確かに言われてみればその通りだ……だけど何故分かったんだろう?不思議に思っていると彼女が答えてくれた。
「だってお兄ちゃんのこといつも見てるし、どんな人なのかもよく知ってるから……分かるよ」
『そ、そうなんだ……』
僕は赤面しながら俯いた。すると彼女は突然僕の腕にしがみついてきた。そのまま上目遣いでこちらを見つめてくる彼女の瞳に吸い込まれそうになったが、何とか堪えた。それからしばらくの間、僕達は何も言わずに見つめ合っていたのだが……やがてどちらからともなく笑い始めた。
それからしばらくの間はお互いに笑い続けていたのだが、やがて疲れたのか二人とも無言になってしまった。でも決して気まずい感じではなく、むしろ心地の良い沈黙だったと思う。
やがて彼女が口を開いた。
「お兄ちゃん……」
『なに?』
僕は聞き返すと、彼女は少し間を置いてから言った。
「ずっと一緒だよ?」
その言葉を聞き終えた瞬間、胸の奥が熱くなったような気がしたけど、それはきっと気のせいじゃないんだろう……。そして僕は結ちゃんに向かって微笑み返しながら答えるのだった。
『うん』
そう言うと彼女も嬉しそうな表情を浮かべてもう一度強く抱きついてきた後、ゆっくりと離れた後ニッコリと笑ってくれたのだった。翌朝、目が覚めると隣では結ちゃんが気持ちよさそうに寝息を立てていた。
そんな彼女の頭を優しく撫でてあげると、彼女はくすぐったそうに身を捩りながら微笑んだ。それがとても可愛らしくて思わず見惚れてしまった。それからしばらくの間、僕は結ちゃんのことを愛でていたが、やがて彼女が起きる時間になったため名残惜しいと思いつつも布団から出ることにした。
カーテンを開けると入ってくる陽射しに結ちゃんは起きる
『おはようお兄ちゃん』
結ちゃんはそう言って抱きついてきた。
「うん……おはよう」
僕は微笑みながら返事を返した後、彼女を軽く抱き寄せる。
結ちゃんは目を細めてにっこりして
『ありがとうお兄ちゃん』
と声を出してベッドから降りる。
そして顔を洗い終えた後、一緒に朝食の準備をしたのだが、その際に彼女はとてもご機嫌な様子だった。どうやら今日はいい日になりそうだと僕は思った。
朝食を食べ終わった後は一緒に学校へ向かったのだが……そこでも結ちゃんは僕の側にべったりだった。授業中はもちろんのこと休み時間になっても僕にくっついて離れようとしない彼女にクラスメイトたちは驚いていたが、僕は特に気にしていなかった。
むしろ周りの反応を見て楽しんでいる節さえあったかもしれない。
昼休みになり、結ちゃんはお弁当箱を持って僕の元へやってきたので一緒に屋上へ向かうことになったのだが、途中で他のクラスメイトたちに声をかけられたりしながらもどうにか到着することができた。
『わぁ〜ここが屋上なんだ……』
結ちゃんは目を輝かせながら周りを見回している。そんな彼女を見つめながら僕はふと疑問に思ったことを口にしてみた。
「ねえ結ちゃん……どうして急にこんなに僕に甘えてくるようになったの?」
すると彼女は少し考え込んだ後、
『だってお兄ちゃんだから』
と返す。
「そっか」
と僕は答えつつ、彼女の頭を撫でてあげた。すると結ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべながら
『えへへ〜』
と笑う。そしてそのまま僕にもたれかかるようにして抱き着いてきたため、僕は彼女を受け止めつつ背中をさすってあげた。
しばらくそうしていた後、僕らはベンチに腰掛けて昼食を食べ始めたのだが……その際も結ちゃんは僕にべったりだった。時折箸で掴んだおかずを僕の口元へ運んでくれたりするのでとても食べやすかったし嬉しかったのだけど、同時に周囲の視線も気になって仕方がなかった。
それでも結ちゃんが楽しそうだったのであえて止めずにいると彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
昼食を食べ終えた後、僕は結ちゃんに膝枕をしてあげていた。
彼女はとても幸せそうな表情を浮かべているように見える。
そんな彼女の頭を撫でてあげると、彼女は気持ち良さそうに目を細めた後、そのまま僕のお腹に顔を埋めてしまった。
『お兄ちゃんの匂いがする……』
などと呟きながらスリスリと頬ずりをしている様子を見て思わずドキッとしてしまったが、何とか平静を装って彼女の髪を優しく撫で続けた。
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