第5話
「やった!ありがとうお兄ちゃん!」
こうして僕らは二人で仲良く登校することになった。
そして教室に着くと結ちゃんは真っ先に自分の席へと向かった。そんな彼女を見送った後、僕は自分の席へと向かう途中、クラスメイトたちと挨拶を交わしつつ会話に花を咲かせた。
そんな中で僕はふと思ったことを口にしてみた。
「ねえみんなはさ、旅行とか行きたい?」
すると彼らは一斉に笑い始めた。
『唐突だね』
「そうかな?でもやっぱりどこか遠くに行きたいと思うことはあるでしょ」
「まあね……」
同意を示すように頷く彼らを見て僕は言葉を続ける。
「もしみんなも旅行に出かけたいって考えているなら、その話を一緒に考えてみようかなって思ったんだ」
『なるほど……面白そうだね』
「でしょ?」
僕はニヤリと笑いながら言った。すると彼らは興味津々といった様子で身を乗り出してきた。その様子を見て僕は嬉しくなった。
やっぱりこういう話はみんなで共有しないとね……と思った次の瞬間、突然後ろから声をかけられた。
「おはようございます!みなさん相変わらず仲良しですね!」
振り返るとそこには千佳ちゃんが立っていた。
「おはよう千佳ちゃん」
僕が挨拶を返すと彼女は笑顔を浮かべながら近づいてきた。
「今日も早いですね!さすがです!」
『おはよう』
「おはようございます千佳さん」
結ちゃんと那月ちゃんが挨拶を返すと彼女はさらに笑みを深くした。それからしばらくの間、僕たちは雑談に興じることになったのだが、途中で彼女がふと思い出したように尋ねてきた。
「ところで皆さんは旅行とか行きたいですか?」
その問いに対して全員が即答した。
『もちろん!』
その言葉に満足した様子の彼女は続けて言った。「じゃあ、具体的にどこに行きたいか考えましょう!どんな場所がいいですか?」
『うーん……』
「やっぱり海外は憧れるよね!」
僕がそう言うとみんなが一斉に頷いた。特に結ちゃんは目を輝かせているように見える。やはり彼女は海外が好きなのかもしれない……。そう考えていると、不意に那月ちゃんが口を開いた。
「私はヨーロッパとか行ってみたいなぁ」
『へぇ……どうして?』
千佳ちゃんが不思議そうに尋ねると、彼女は少し照れくさそうにしながら答えた。
「……私一人っ子でしょ?だから、姉妹とかに憧れてるんだ……。でも一人っ子なのは変えられないからせめて架空の妹と一緒に旅行してみたいんだよ」
『なるほど……』
彼女の話を聞いて僕は納得していた。確かに架空の妹と旅行するというのは楽しそうかもしれない……。そんな事を考えていると今度は結ちゃんが口を開いた。
「じゃあ私はアメリカに行きたい!」
『おおっ!アメリカいいね!』
僕が興奮気味に言うと、他のみんなも賛同してくれたようだ。こうして話はどんどん盛り上がっていったのだが、不意に千佳ちゃんが何かを思い出したように声を上げた。
「あっ!そういえば今日は英語の小テストがあるんでしたね」
『え……嘘!?』
全員が凍りつく中、僕は一人ため息をついた。やっぱりそういう日に限って授業は進んでいくんだよなぁ……。そうして絶望に打ちひしがれる僕らだったが、千佳ちゃんだけは違ったようだ。彼女は自信満々の表情でノートを開いた後、僕らに見せつけるように口を開いた。
「みなさん安心してください!この私がいる限り赤点なんて許しません!」彼女はそう言って胸を張ったが……正直不安しかなかった。しかし、それでも僕らは彼女を信じるしかなかったのだ。こうして僕たちの英語の授業が始まった……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして放課後になり、僕たちは学校を出たのだが……そこであることに気付いた。
「あれ?結ちゃん?」
そう、いつの間にか結ちゃんがいなくなっていたのだ。一体どこに行ったんだろう?不思議に思いながら辺りを見回すとすぐに彼女の姿を見つけることができた。
どうやら彼女は近くのコンビニの前に立っているようだったが、なぜかその場から動こうとしなかった。気になった僕は彼女に声をかけることにした。
「おーい!結ちゃん!」
彼女は僕の声に気付いたらしくこちらを向いて笑顔を浮かべた。そしてこちらに向かって駆けてきた後、そのまま僕に抱きついてきた。
突然の行動に驚いたけど、なんとか受け止めることができたのでよかった……。それからしばらくの間、結ちゃんは僕のことを抱きしめたまま離さなかったんだけど……しばらくして満足したのかやっと解放してくれた。
「ごめんね?急に抱きついたりして……」
申し訳なさそうに謝る彼女に僕は苦笑することしかできなかった。
その後は二人で一緒に帰ることになったんだけど……なんか気まずい雰囲気になってしまったので話題を変えようと思って口を開いた。
「そういえば結ちゃん、さっきコンビニの前にいたみたいだけど何かあったの?」
「うん……実はね、ちょっと買いたいものがあったんだ」
彼女はそう言いながらコンビニの方を見た。どうやらあの店で買い物をしていたようだ。そして彼女はそのまま続けた。
「お兄ちゃんと一緒に旅行に行きたいなと思ってお菓子とジュースを買ったんだよ」
『おおっ!』
その話を聞いて思わず感動してしまった。まさか僕と一緒に旅行に行くためにわざわざ買い物をしてくれていたなんて……本当に嬉しい気持ちになると同時に申し訳ない気持ちになった。
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