第3話

『ほ、本当にごめんね!私どうかしてたみたい……』


そう言いながらも彼女の声は震えている。きっと彼女も後悔しているのだろう。僕と同じように。だから僕は彼女を安心させるために優しく声を掛けた。

「ううん。大丈夫だよ」

それを聞いた彼女は安心したように微笑んだ後、僕に抱き着いてきた。

「うわっ!?」


『お兄ちゃん……お兄ちゃん……』


そう言いながら彼女は僕の胸に顔をうずめている。そんな彼女の頭を優しく撫でながら僕は言った。

「大丈夫だよ、結ちゃん。もう怒ってないから」

それからしばらくの間、僕たちは抱き合っていた。お互いの存在を確かめ合うように強く抱きしめ合っていたのだ。そしてしばらくしてから僕の方から口を開いた。

「……そろそろお昼じゃない?」


『そうだね……もうそんな時間なんだ……』


時計を見ると12時を過ぎていた。流石にお腹も空いてきたので昼食の準備をしようと思い立ち上がったのだが、結ちゃんは僕の服を離そうとしなかった。

「どうしたの?もしかしてまだ怖いの?」


『……うん』


彼女は消え入りそうな声で答えると、再び僕にしがみついてきた。どうやらまだ不安らしい。だから僕は彼女に提案した。

「じゃあ今日は一緒にお昼を食べようか」

『え?』


「僕が作るからさ。結ちゃん、手伝ってくれるかい?」

すると彼女は少し驚いたような表情をした後で嬉しそうに微笑んでくれた。


『うん!わかった!』


それから僕たちは二人で仲良く料理を始めたのだった。

3 時間後。ようやく料理が完成した僕たちはテーブルに向かい合って座っていた。メニューはオムライスだ。僕が作ったものだけど、我ながら上手くできたと思う。


……まあ、結ちゃんの手つきがあまりにも危なっかしくてヒヤヒヤしたけど……。そして肝心の味の方だが、これがまた絶品だった!

「美味しい!」


思わず声に出してしまうほど美味しかったのだ。それを聞いた結ちゃんは満面の笑みを浮かべると僕に抱きついてきた。


『良かった!お兄ちゃんが喜んでくれて嬉しい!』


「あはは……でもまさか結ちゃんが作った料理でこんなに美味しいものができるなんてね……。ちょっと意外だったよ」


『むぅ〜、それってどういう意味?』


ジト目で見つめてくる彼女に対して僕は慌てて取り繕うように言った。

「い、いや!別に深い意味は無いよ?ただなんとなくそう思っただけだから!」


『ほんとに?』


「本当だってば!」

僕がそう言うと彼女は納得した様子で引き下がった。良かった……なんとか誤魔化せたみたいだ。ほっと胸を撫で下ろす僕だったが、ここで思わぬ事態が発生した。


『ねぇお兄ちゃん……』


「ん?どうしたの?」

僕が問いかけると、結ちゃんは頬を赤く染めながら恥ずかしそうにもじもじし始めた。そして意を決したように口を開く。


『その……一口ちょうだい?』


「え!?」

予想外の言葉に僕は驚きの声を上げてしまった。まさか結ちゃんからそんなこと言ってくるなんて……。でも確かに彼女は僕の料理を気に入ってくれたみたいだし、それなら食べさせてあげても良いかもしれないよね……?


僕はそう思いながら彼女にスプーンを差し出した。すると彼女は嬉しそうな表情でそれを口に含んだ後、幸せそうな笑みを浮かべた。


『うん!やっぱり美味しい!』


「本当に?お世辞じゃなくて?」


『うん!すごく美味しいよ!』


彼女は興奮気味に答えると、次々とオムライスを口に運んでいった。その様子を見て僕は心の中で安堵していた。


どうやら気に入ってもらえたみたいだね……。よかった……。そう思いながら僕も自分の分のオムライスを食べ進めることにしたのだが、そこで突然結ちゃんがとんでもないことを言い出したのだ。


『ねぇお兄ちゃん……』


「ん?なに?」


『食べさせて?』


「……はい?」

予想外の展開に頭が真っ白になる僕だったが、彼女は構わず続けた。


『ほら!早く!』


そう言って彼女は自分のスプーンを僕の方へ差し出してきた。どうやら冗談ではなさそうだ。僕は仕方なくそれに従うことにした。


「えっと……これでいいのかな?」

そう言いながらオムライスを一掬いし、彼女の口元に持っていくと彼女は嬉しそうにパクッと口に含んだ後、幸せそうな表情を浮かべた。その様子を見て僕は思わずドキッとするが、すぐに平静を取り戻すと彼女に話しかけた。


「結ちゃん?もう満足した?」


『まだ!』


そう言うなり彼女は再び口を開けた。どうやらまだまだ食べ足りないらしい。まあ、あれだけ作ってくれたんだし当然と言えば当然か……。僕は苦笑しながら再びスプーンでオムライスを掬い取ると彼女に差し出した。そしてそれを彼女が食べ終わるまで繰り返すことになったのだ。


「ご馳走様でした」

結ちゃんは手を合わせると満足そうに微笑んだ。「どうだった?僕のオムライスは?」


『最高だった!』


彼女は即答で答えた後、僕に向かって満面の笑みを向けてきた。その笑顔を見て僕はホッと胸を撫で下ろした。どうやら喜んでもらえたようだね……よかったぁ……。安心したところで僕は結ちゃんに話しかけた。


「次は何が食べたい?」


『ん〜、じゃあハンバーグ!』


「了解♪」僕はキッチンに向かうと冷蔵庫からひき肉を取り出した。それから玉ねぎやパン粉も用意して料理を始めた。その様子を結ちゃんは隣でずっと見ていた。


「えっと……どうかした?」


『ううん?何でもないよ』


そう言いながらも彼女は僕から目を離そうとしない。まあ、調理中は危ないから離れちゃダメだよって注意したからちゃんと守ってくれてるんだろうけど……。なんだかちょっと落ち着かないなぁ……。そう思いながらも僕は料理を続けた。


そして数分後、出来上がったハンバーグをテーブルに並べて二人で一緒に食事を始めたのだが、ここでちょっとした問題が発生した。


『ねぇお兄ちゃん……』


「ん?なに?」


『食べさせてほしいな♪』


そう言って結ちゃんは僕に甘えてきたのである……。いや、さっきまで普通に自分で食べてたじゃん!急にどうしたの!?


もしかしてまだ怒ってるの!?でもそういうわけでもないみたいだし……。うーん……わからん……。結局僕は彼女の頼みを聞き入れることにして、結局彼女に食べさせてあげることになった。


「はい、あーん……」

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