第7話 Kingaku Soul
「もうそろそろ近学祭の準備を始めようか。そして近学祭の準備を早めに終わらせて夏の合宿の計画を立てよう」
と岸本部長が言った。
「夏に合宿なんてあるんですか?」
泉がとても不思議そうに聞いた。
泉が不思議に思うのも当然だろう。たいてい漫画研究会には合宿なんてものはないのだから。
「ないよ。部長の言う合宿っていうのは夏休みに毎年漫画研究会のみんなで行っている旅行のことだよ」
と林田が言った。
そう、この合宿は合宿という名の旅行なのだ。
この旅行は毎年夏に行われていて、この漫画研究会で一番の大イベントだ。
「今年も行き先は小豆島にある私のおばあちゃんの別荘でいいですか?」
岸本部長のおばあちゃんの別荘は小豆島の海辺にあって眼の前にはビーチが広がり、そこで泳げるという最高の立地であり拒否する理由がない。
「はーい」
みんな岸本部長の案に賛成した。
「じゃあ小豆島でなにする?」
「泳ぐ!」
「釣りをする!」
岸本部長の質問に対してみんなが遠足前の小学生のように答える。
「美味しいものを食べる!」
泉はいつも通り食いしん坊だ。
「あっ、でも先に近学祭について決めよう」
「泉は今年が初めての近学祭だから先に説明しよう。みんなは知ってると思うけど、この学校の文化祭の近学祭は夏休みが終わった直後にあります。毎年この漫画研究会では、『Kingaku Soul』という漫画とイラストを載せた薄い本を制作して販売しています。」
そう岸本部長が言うと
「『Kingaku Soul』ってなんかダサいですね」
と泉が言った。それを名前をつけた本人の前で言ってしまうとは…
僕も去年部長が「Kingaku Soul」という名前をつけたときはダサいなあと思ったが、あまりにも部長がこの名前に自信ありげだったので言えなかった。
「なんか、名前をつけようと思ったとき全く案が出なくて当時の部長が適当に決めたらしいよ」
よくもまあそんなにサラサラと嘘がつけるなあと僕は感心したが、部長の顔は泉を睨んでいる。
「そうなんですか」
泉も睨まれているのを悟ったのか、それ以上はこの本の名前について追求しなかった。
「いつもなら山本がストーリーを考えて佐藤が作画をして書いた漫画と、林田がストーリーを考えて森崎が作画をした漫画の2つの漫画と私が描いたイラストを載せて作ってるんだけど、泉は何がしたい?」
「私はイラストを描くのが好きなのでイラストを描きたいです」
「じゃあ山本、佐藤、林田、森崎が漫画を書いて、私と泉がイラストを描くっていうことにしよう。そうと決まったらみんな作業を始めよう!」
そして僕と佐藤さんは一緒に漫画を書き始めることになった。
「どんな内容のが書きたい?」
「うーん、やっぱり私はラブコメがいいかな」
「じゃあラブコメの話を考えてみるよ」
どんな内容の話がいいだろうか。
そう考えていると突然頭の中に「お互いに好きなのに告白する勇気が出なくて、なかなか次のステップに進めない男女」という設定が浮かんできた。
その設定を佐藤さんに伝えてみると
「良い設定だね。私達みたいで」
と言ってくれた。佐藤さんも気に入ってくれたみたいで良かっ……
「えっ!」
思わず心の声が漏れてしまった。
「何かあった?」
佐藤さんはそう言った。
でもさっきサラッと「私達みたいで」って言ったよな…
もしかして佐藤さん、僕のこと好きなのか?
いや、僕が佐藤さんのことが好きだけどなかなか勇気が出なくて告白できないというのに実は佐藤さんは気づいていたから、そういったのかもしれない。
うん、そうだろう。
そう自分に言い聞かせて自分の心を納得させて作業を続けた。
「合宿は夏祭りに合わせて行きたいからその前後は何日か予定を開けといてね。あと合宿に持っていくための服と、水着の用意も忘れないでね」
岸本部長は帰り際にみんなにそう呼びかけた。
「はーい!」
僕たちはまた小学生のように元気よく返事をした。
「今週末一緒に旅行用の服を買いに買い物にいかない?いつもは森崎さんと一緒に行ってるんだけど森崎さんに林田くんと一緒に行きたいからって断られちゃって」
と佐藤さんが聞いてきたので僕は
「いいよ。じゃあ後で集合時間と行き先をLINEで教えて」
と答えた。
「わかった。じゃあまた後でLINEするね」
そうして僕たちは一緒に買い物に行くことになった。
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