そいつ見つけに行こうぜBoy!

「マサくん、おめでと~っ!」

「ありがとうございまッス」


 私たちがブラックバーン・ルビー争奪戦の為に集結したのは、リアルタイムの二週間後。

 なかなか日程が合わなかったことと、この日ならマサくんが参加できると聞いていたからなんだよね。

 梅雨真っ盛りの六月半ば。

 大学進学もかかった競技復帰のマサくんは、個人戦でも学校別の団体戦でも、関東大会をクリアして、夏のインターハイ出場を決めたんだ。

 ちなみに今は、部の仲間たちが別モニターで観戦しながらのプレイらしい。

 先日のカヌレちゃん上京オフの時に撮りまくった、モテ写真を羨ましがられての「本当かよ?」と、やっかみ混じりの観戦だとか。

 そういう事ならと、みんなニマニマしながら、必要以上に持ち上げてる。

『倶楽部チャット』メインのモニターだと、おなじみ倶楽部ハウスの円卓を囲んだ絵面になるから、余計だね。

 綺麗なお姉さんたちや、可愛い妹たちが総出でチヤホヤしてあげよう。


「いや……何だかやりづらいッスから、真面目に依頼をしませんか?」

「大丈夫、からかいながらもミナさんの【鷹の目】が睨みを利かせてるよ」

「周囲は、どんな状況なんですかっ?」

「いろいろ集まってるよ?」


 海賊さんはもちろん、ブローカーっぽい船団や、どこかの貴族の集まりまで。

 艦隊を連れてくれば、簡単なんだけど……ブラックホールの影響もあって、今回は旗艦のみの行動だから、ちょっと面倒くさくなりそう。狭い重力圏の隙間を進まないと、吸い込まれちゃうからね。

 久々の純粋な対艦戦だ。

 各勢力の座標を、みんなに転送する。


「……こういう時は、まず予告状を送らなくて良いのかな?」

「むしろ送られたい!」

「○ッド様じゃなく、ル○ンから届いたりして!」

「キャ○ツカードも有り!」


 これこれ、JCズ。盗むんじゃなくて、採取するんだからね。

 最近は配信で古いアニメも見られるものだから、モモンガさんたちに唆されて、かなり古いネタにもついていけるようになってる。おっとりニコニコの都庁のお姉さんも、実はコミケの人だからなぁ……。環境が悪いよ。


「それにしても凄い景色ね……」


 おぼろさんが、感嘆するのも解る。

 二つのブラックホールの擦れ違いで、二重太陽を持つ恒星系がゆっくりと歪んでいく。艦橋の窓から見える景色は、あまりにも壮絶なものだ。

 強烈な重力の谷間に拉げてゆく天体の末路が、私たちが求めるブラックバーン・ルビーということになる。正確にはルビーではないらしいけど、赤黒い輝きにルビーを思わせるものが有るのだろう。

 CGサンプルは参考に見たけど、実物の輝きは別物らしい。


「やっぱり、先制攻撃してはマズいんでしょうかっ」

「帝国貴族としては、マズイんじゃないかな? 多分、専守防衛みたいな事を言われると思う」

「だよね~。……誰がが攻撃されれば、こちらも正当防衛になるから~。ここは一番、攻撃されても大丈夫な艦が、先に突入すべき~」

「そうかも……じゃあ、誰が向いてるのかしら?」


 ボケてるわけじゃないですよね? しーちゃん。

 ビームにも、物理にも強いシールドを持ってるのは、あなたの艦だけですよ?

 みんなに言われて驚いているけど……確かに突撃役といえばカヌレちゃん。しーちゃんは、いつでもフォロー役だもんね。


「たまには先頭切って、女の生きざま見せてみろ~」

「もう! モモちゃんは、今度は何のアニメに影響されてるのよ」


 取ってつけたようなセリフに送り出され、しーちゃん艦がグンと加速する。

 すぐにも追い抜ける距離で、飛び出したがりのカヌレちゃんが続き……私は中段で、他の勢力動向を見張りつつ、狙撃準備だ。

 あ、言い忘れていたけど、もうとっくにリアルタイム戦闘は導入されてるよ。だいたい、諸国連合本星で戦後処理に行った後くらいから。

 操作指示は忙しくなったけど、いろいろ小技が使えて楽しい。


「他も動き出したわよ……ブラックバーン・ルビー生成予想時間まで、あと一時間。他も動き出したけど、くれぐれもしーちゃんが撃たれるまで、攻撃を謹んでね」


「何だか、損な役回りになっちゃった」

「そういう時は、悲劇のヒロインを気取ると楽しくなるよ」


 おぼろさんの的確(?)なアドバイスに、しーちゃんも納得のご様子。

 ほら、男性陣は頑張って、生贄に捧げられた悲劇の美女を救出しようね。しーちゃんなら、救出し甲斐は有るでしょ。

 こちらの作戦としては、しーちゃんが攻撃を受けるのを待って、カヌレちゃんが一気に突入。ゲットできれば良し、できなかった場合は、そのまま対面の敵を蹴散らす。

 最終的には、私たちで敵対勢力と戦闘しつつ、チームワーク抜群なJCズ艦隊が、確実にブラックバーン・ルビーを確保するという方向で頑張る。


「くれぐれも重力レーダーを確かめながら、ブラックホールに吸い込まれないようにね!」

「まあ、撃沈した所で、すぐにリポップできるんだけどな」

「あのね、エグザムさん……ゲーム的にはそうなんだけど、これはVRゲームよ。撃沈されて死ぬ時って、すっごく苦しくて痛いんだから」

「……経験、お有りで?」

「ショウの曲を確認するために一度、試したことが有るのよ。機会があったら、諸国連合側で死んでみなくちゃ……」

「執念ですね……」


 D51さんに呆れられたけど、それが目的でゲームやってるところも有るから。

 諸国連合側で死んでも同じ曲だったら、文句言ってやる。


「私、痛いのも苦しいのも嫌だから、早めに助けに来てね」


 しーちゃんが、口元で指を組んで訴える。

 すっかり、悲劇のヒロインになりきってるよ……。


「海賊らしき艦が接近中。そろそろ始まるよ!」


 全速力で、まっすぐ生成予定地点に進んで行くしーちゃん艦を、阻止すべく海賊艦からビームと、光子魚雷が放たれる。

 もちろん、全ては都庁のお姉さんの最強の盾に防がれてしまう。本当に硬い!


「よし、カヌは突入! ミナさん、モモさん、朧さんは狙撃で援護を。JCズは後方警戒。残りは距離を詰めろ」


 そう、朧さんも私同様に「痛いのは嫌」という理由で、長距離攻撃艦なんだよ。

 彼女が気怠げに言うと、別の意味も有りそうでドギマギしてしまうんだけど。

 バリア艦は他の二人に任せて、私は【狙撃】スキルで、高速艦を狙う。向こうにもカヌレちゃんみたいな娘がいて、一気に奪おうとする場合も有るもん。

 装甲の薄い高速艦は直撃を受けて、炎に包まれた。

 当面のライバルは退けたから、行っちゃえカヌレちゃん!


「行きまーすっ! ……うわぁ、通り過ぎちゃいました、すいませんっ!」

「何やってるのよ~」

「思ってたより小さくてっ……もう、向こう側の敵に突っ込みますっ」


 そっちの役目をしたかったんじゃないでしょうね?

 いつもながら、対艦ミサイルの理不尽な命中率で、宇宙に爆発の花を咲かせた。

 重力場の影響の少ない方向へ砲門を向けつつ、生成地点を囲うようにフォーメーションを展開する。

 その中心へと、後ろを守られながら、JCズの回収部隊が中心部へゆっくり進む。


「ミナさーん……何だか、それらしき物が、七つも有るんですけど」

「そうなの~? じゃあ、ヒナちゃん、こう叫ぶんだ~。『いでよ! 神龍シェンロン~!』」


 多分、それ違う話だと思うよ、モモちゃん……。

 ギャルのパンティーなら、私を別にしても八人分有るもん。

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