季節の移ろい
「先日は、本当にありがとうございましたっ」
修学旅行から復帰した、カヌレちゃんの明るい声が響いた。
梅雨に入る寸前の東京に修学旅行に来ると知れば、みんなが放っておく理由がない。
自由行動日のカヌレちゃんを拉致って、ひまりちゃんの実家のもんじゃ焼き屋に集合したのは当たり前のことだ。……カヌレちゃんが食べたがったんだよね。
リハビリ&トレーニング中の合間を縫って、マサくんが一時間だけと、強行軍参加したのも、わからないでもない……らしい。
リアルJCズや、しーちゃん、モモちゃん、ひまりちゃんと一緒に写真を撮りまくっていたけど、レスリング部の仲間に相当自慢できるものらしい。……男子は、良くわからん。
せっかくだし、制服姿のカヌレちゃんとツーショットを撮ってあげたりした。
ふらりと、
【倶楽部エスクード】組は、もともと当てつけのように、こちらのルートに来た感じだったし、二人はいつの間にかフェードアウトして、彼女だけが残った。
せっかくだからと、その場で誘って【美食倶楽部】のメンバーになったんだ。
しーちゃんとは違うタイプの、セクシー系の美人さん。
銀座のデパートの服飾フロアの店員さんらしい。さすがにオシャレ。
リアルで全員集合の楽しい夜だった。
そんな楽しさとは別に、今や帝国側の内乱ルートは大混乱だ。
もはや帝国は形骸のみで、実質はプレイヤーの各倶楽部が派閥となり、帝国中央を押しやりつつ有る。
『リライト・サガ』というタイトルには、そちらの方が似合うのかも知れないが、もはやプレイヤー対プレイヤーの様相を呈している。
私たちの和平ルートは、胃の痛くなるような思いをしながら、帝国各勢力のバランサーとして走り回る日々だ。対人戦をあまり好まない人たちが、こちらに参入して、今の人数は半分半分くらいではなかろうか?
その結果……私たちの取った辺境伯暗殺未遂事件ルートは、実はバッドルートだったことが発覚した!
私が、辺境伯の幼女趣味疑惑を弄りすぎたのが原因……。みんな、ごめん。
それで不興を買わなければ、議会での演説にメンバーが同行できて、暗殺を未然に防げたらしいのよ……。
うぅ……だから、あんな後味の悪いストーリーになったのね。
グッドルートだと、辺境伯から、新開発の戦艦装備品『光子魚雷』を貰えるそうな。
私たちのルートだと、辺境伯の女避けができたと喜んだシスティーナ様が、
刺さると電磁波を発生させて、敵機の電子装備を破壊し、動きを止められるスグレモノ。
交渉から、局地戦中心の私たちには、むしろこっちの方が使い出があったりして……。
たった今、クリード子爵の企んだヘリウムガス輸送ルートの妨害を阻止したばかりの私たちは、のんびりと帰還中。毎度毎度、きちんと陰謀を企んでくれる運営さんの努力にも敬意を表するけど、私たちも、良くクリアしてるよ。
内戦ルートは、ネタを放り込むだけで勝手に争奪戦が始まるのだそうな。
その分、こっちに凝ってくれてるのでは? と予想する声が有る。真偽は不明。
「カヌレちゃんは、大学には行かないの~?」
「今どきの酪農家の三女には、そんな余裕はなかなか……っ。できれば、コンビニの商品開発をしたいんですけど……道を模索中ですっ」
「これだけ進みたい道のはっきりしてる娘も、珍しいわねぇ」
「趣味と実益を兼ねてる所が羨ましいかも」
朧さんとしーちゃんの社会人コンビが、感心してる。
朧さんは、何となくで仕事を決めたらしいし、しーちゃんは趣味は趣味で、仕事は別と割り切って、思い切り手堅い仕事を選んだ人からね。
子供の頃から、他の道に進む選択肢が無かった私は、ちょっと羨ましかったり。
女性陣が増え過ぎた上に、マサくんが幽霊部員に近い状況なものだから、男性陣は新加入メンバーを吟味するのに忙しそう。
女の子目当て過ぎては、こっちも引くし、人当たりも良くないとせっかくの雰囲気が台無しになるからね。頑張って、良い人を引っ張って欲しい。
ワイワイ言いながら、賑やかに帰還。
みんなと別れてからも、まだ私は落ちるわけにはいかない。
今日も今日とて、ギター片手に頑張るのさ。
これはゲーム。経験値が物を言う世界……と自分に言い聞かせて、Fコード攻略に挑まなくちゃ。
楽器製作はギターまで出来たものの、我が領地内ではクラシックギター状態なんだよ。
例えて言うなら、「ジョニーBグッド」くらい弾いて欲しいのに、嬉々として「禁じられた遊び」しか弾かないようなもどかしさ。
もう、ダメ出しされて当たり前な心持ちで、私自身がロックの口火を切らなきゃ駄目かと思ってる。ショウの曲を演奏する分には、著作権は問題ないよね? BGMとして、インストになってる曲を歌えば良いかな……。
でも、その為にはFのコードを避けて通るわけにはいかない……。
ヒット曲に多用されていて、ショウも例に漏れず愛用しているコード進行には、Fのコードが付き物なんだよ……。
ぽっこぽこぽこ……ジャーン!
あっ! 鳴った! Fコードが鳴ったよ!
『ほう……じゃあ、弾いてみ?』
C! ジャンジャカジャカジャカ G! ジャカジャカジャカ Am! ジャンジャカジャカ F! ポッコポコポコ……。
「何でよ! さっきはちゃんと鳴ったよ? ショウも聞いてたでしょ?」
『あのな……指の位置と握りをいちいちチェックしてから弾けても、瞬時にコードチェンジできなきゃ、演奏にならないだろう?』
「それはそうだけどさぁ……」
『まあ、進歩は進歩だ。メゲずに続けていけば、その内なんとかなるだろ』
「らじゃあ……頑張って続けるよ」
タンバリンの叩き語りなら、行けるんだけど……それでは様にならなすぎる。
ロック発祥への道は遠いよ。
この間、諸国連合に行ったことで、一気にミュージックリストが増えて、まだ聞いていない曲は、あと五曲にまでなっている。
全部聞き終えるのと、私がギターを弾けるようになるのは、どちらが早いんだろう?
『それから、ミナ。ステージで歌うつもりなら、腹筋とボイストレーニングはしっかりやっておけよ』
「腹筋は……苦手なんだけど」
『リアルスキルをベースに、経験値の加味されるゲームだぞ? お前自身が、ぷよぷよお腹で息切れしてたら、シャウトどころじゃないだろうよ』
「ぷよぷよしてないもん! ……まだ、だるだるレベルなんだから」
『大差ないだろ、それ。朝吹さんに言って、ボイトレ始めとけ』
「あうぅ……やらなきゃ駄目か……」
ショウがいた頃は、からかい合いながら続けられたけどさ。
一人でするのは辛いんだよ。
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