諸国連合へ行こう!
「すみません、私はここで落ちます。節目節目には何とか入りますので、連絡してくださいね」
既に気苦労が目元に出ているしーちゃんは、申し訳無さそうにログオフした。
それでも、しーちゃんの旗艦『フォトンショック』に率いられた艦隊は、ダミーとして私達と共にある。
シェフィールド辺境伯の旗艦『エディプス』と、捕虜たちを乗せた旅客宇宙船『さざんふらわあ』を護るようにして、【美食倶楽部】全艦隊と、ひまりちゃんたち混成軍の全艦隊が、亜空間を諸国連合の首都『リバティベル』へ向けて航行中です。
シナリオ参加フラグは立てたみたいだから、何とか最小限のログインでクリアさせてあげなくちゃ。比較的考えないメンバーの多い【美食倶楽部】だけに、先に進むにつれて、ますます、しーちゃんは重要になるんだから。
「疲れ切ってるんだから、気を使わずにさっさと落ちろっつーの」
「仕方ないよ~。気配りの人で、気疲れの人なのがしーちゃんだもん~」
「まあ、そうなんだけど……それで呑み過ぎてちゃ世話がないよ」
イベント用に作った長期固定チャットルームで、ひまりちゃんとモモちゃんがじゃれ合う。混成軍は【金獅子倶楽部】三名、【倶楽部エクシード】三名、【
ついでに【艶夜】の男子、ディーノさんと、女子のバニラさんは、社会人の遠恋カップルなんだって。ヴァーチャルで逢って、移動の時間とお金を浮かすんだとか。
みんなから、冷やかしのブーイングを浴びてました。
「それより、【エクシード】さんは女子三名がこっちに来ちゃいましたけど、揉めたりしてないですかっ?」
「んー……多分、大丈夫でしょ。『姫』は向こうのルートにいるから」
「『姫』……ですかっ?」
「そうだよ。『姫乃』っていう、甘えん坊のJK。男子ウケは良いから、あっちはあっちで盛り上がってるんじゃない?」
……男子ウケは良いのね。
ウチはカヌレちゃんの性格によるものか、みんな仲が良いけど、他はいろいろありそうだ。ノッコさんの口調からも伝わるよ。はるちゃんさん(今後『さん』は省略)、
「何で、女子だらけの【美食倶楽部】は、波風一つ立たないかねぇ?」
【金獅子】の男子、茄子さんが不思議がる。
そっちの方も、波風立ってるんだ。そうは見えなかったけど。
「なんだかんだで、ミナさんが纏めてるからな」
「違うよ、エトさん。カヌレちゃんの性格が大きいと思うよ?」
「そうかあ?」
「きっと、みんな面白がりが揃ってるから~」
「それはある!」
「でも、しーちゃん抜きは不安ですっ。マサくんはこの方面では戦力外だからともかくっ……」
「こらこら、カヌレちゃんはもう少し、残念がってあげなさい」
実は、マサくんもイベントエントリーで、ログアウトしてるの。
ようやく脚の骨折が癒えたらしく、リハビリを始めるのだ。高校レスリングのトップクラスとはいえ、負傷欠場のブランクは大きいらしい。夏のインターハイでは結果を求められてるみたいで、こっちにかまけてもいられないのでしょう。
「いえ、暇を見て入るッスよ? 女子の知り合い、かなり貴重ッスから」
なんて、照れながら言ってたけど、こっちは構わずに集中して欲しい。
男性陣は、「それこそ、励みになるんじゃね?」と同意してるみたいだけど……。
「それより、デゴよ。諸国連合プレーヤーはどんな反応よ?」
「最初の内は『JCズが来るのか?』とか『動くしーちゃん、見たい!』とか盛り上がってたんですけどね……」
エグザムさんの質問に、D51さんがニヤリとする。
『リラサガ・ヘッドライン』の記者でもあるから、事情通なんだよね。
「歓迎式典が、帝国式の舞踏会となったので、阿鼻叫喚です。さんざん【ダンス】スキルの件で、こっちを煽ってましたから。……自業自得です」
うわ……全部シャットアウトに近いね、それは。
諸国同盟側のプレーヤーで、踊れる人っているのかな?
「こっちが二ルートに分岐しているから、プレイヤー同士の接触を避けたのかも……」
男子が笑い転げている中、エルモさんが、小声で首を傾げる。
それは、あり得る。この人は頼って良いかもしれない。
大まかな向こうのパワーバランスは、『リラサガ・ヘッドライン』で、諸国連合側のプレーヤーから直接、情報がもらえるのを、運営が知らないわけはない。
とすると、接触できるNPCからの情報って、どんなものなんだろう。
「アクシデント的なものがありそう……」
「テロを仕掛けられたり?」
「必ずしも、諸国連合側が起こすとは限らないよね。こっちの派閥争いもあるんだし」
【エクシード】のトリオが、物騒なことを並べてくれる。
どれも有りそうなのが、ちょっと嫌。
「辺境伯さんは
「無いんじゃない? いちおー、平和の使者なんだし?」
「じゃあ、いざという時は私が助けて乗せる!」
「ルカ、ズルい! それ、私がやりたい!」
「私も!」
「私も!」
「じゃあ、後でじゃんけんで決めよう」
勝手に盛り上がってるから、いざという時の辺境伯の保護はJCズに任せちゃっていいかな? ますます、幼女趣味の噂が真実味を増して、嫌な顔されると思うけど……。
そのくらいの仕返しは、許されるよね? 人命優先。意欲最優先。
『そろそろ、亜空間を出るぞ』
ショウのアナウンスとともに、ズンといういつもの鈍い振動。
窓の外に、お星さまが帰ってくる。
歓迎と警備の意味を込めて、ずらりと諸国連合の艦艇が並んでいるよ。
航路のデブリとかは、すっかり綺麗に掃除されているようで、星系内では異例のスピードで進み、六時間後には首都星の衛星軌道にまで到達した。
艦隊はここで待機。万が一の指揮用に、不在のマサくんの旗艦を残しておく。しーちゃんは必要な時には、無理しても呼ぶから、衛星軌道には置いておけないよ。
ゆっくりと、各旗艦のみで辺境伯艦『エディプス』と、捕虜を乗せた『さざんふらわあ』を護りながら、地上へ降下してゆく。
レーザービーコンに案内されて、首都近郊の宇宙港へ。
タラップを降りて整列する辺境伯と側近たちを、楽団の演奏で迎てくれるのは形式というものか。私達は警護の意味もあって、それぞれのATに乗って、その周囲に降り立った。
イベントの時も見たけど、諸国連合側のAT『リム』は、原型に追加パーツで特化させるスタイルだから、結構無骨。最初から特化した機体の帝国側の方が、カッコいいよね?
……特に蒼いバリアントなんて最高!
ん? 辺境伯からプライベートトークが来た。何?
「ミナ女男爵、このATの並びは何とかならんのか?」
辺境伯の側に並ぶのは、立候補したJCズの機体だ。白を基調にそれぞれ、パステルピンク、パステルブルー、ミントグリーン、レモンイエローの差し色が可愛い。盾には猫や、犬、ウサギに熊さんのイラスト付きで、本当に可愛い。
「いざという時に辺境伯を乗せて護ると、立候補したメンバーですから。じゃんけんに勝ったのは誰? ……万が一の時は、パステルブルーに熊さんイラストが目印の、ヒナ女男爵のバリアントに同乗してくださいね」
「同乗する前に、同情していただきたいものだ。これでは、また妙な噂が消えぬ」
不機嫌そうに、通信を打ち切ったよ。
おぉ、ちゃんとダジャレも言える方だったんだね。
だんだん、人間味を感じられるようになってきたんじゃないかな。
「……なるほど。さすが、あの辺境伯対策を思いつく人だ」
「ナチュラルに追い込むよね」
こら、そこの遠恋カップル。
楽しそうにそういう事を言わない。
みんなにクスクス笑われながらも、式典だけは進んでいきましたとさ。
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