敵襲~っ!

「お疲れ~」


 捕虜引き渡しを警備していた、遠恋カップルさんが戻ってきた。

 宇宙港でまっ先に調印された捕虜交換協定に則って、まず帝国側が連れてきた『さざんふらわあ』号の捕虜を引き渡し、船内を空にしてから、清掃作業とルームメイクを待って、諸国連合側から帝国軍の捕虜を受け入れる。

 二、三日は船内で辛抱してもらわねばならないが、牢獄よりはマシだろう。船内にはカフェもあれば、映画館もある。外には出られないが、ずっと自由になるはず。

 ニュースでは、何処も変わらぬ帰還捕虜とその家族の、涙の再会を映している。

 数日後に帝国に戻れば、それの帝国版が繰り返されるのだろう。


「でも、あの辺境伯さんも、本当に外交嫌いだね。夕刻の捕虜受け入れを待っての晩餐会。翌日午後の評議会会議場での演説。舞踏会。翌朝帰国って……情報収集する気が有るのか疑いたくなるよ」

「普通はどこかの施設を訪問したりと、顔を売るものだけどなぁ」


 晩餐会と聞いて、カヌレちゃんが目を輝かすけど……私達は警備だよ? ATアーマード・トルーパーに乗って周囲を警戒し、食事は休憩時に交代で摂る。さすがにカップ麺ということは無いだろうけど、軽食程度と覚悟しておこうね。


「はぅ……。アイテム欄に料理をキープしておいて正解ですっ」


 あぁっ! お弁当作ってきてる。……用意がいいなぁ。一個頂戴。

 今回は舞踏会以外はドレスとか着ないで済むから、ちょっと楽。ダークなパンツスーツにサングラスなんてかけて、SPを気取っている。JCズは、この服装だと鬼ごっこをしたくなるみたいだけどね……実際やってるし。

 国賓扱いなので、迎賓館に宿を取っているけど、主役の辺境伯やその側近とはちょっと違う扱いだ。男子一部屋、女子三部屋に押し込まれての大部屋住まいです。まあ男爵レベルじゃ、扱いはこんなものでしょ。

 成り行きで、私とモモちゃん、カヌレちゃんに、ひまりちゃんを加えた部屋が集合場所になっちゃってる。今は、辺境伯の移動待ちです。


 私としては、あちこち動いてみたいんだけどなぁ。

 だって、BGMが諸国連合仕様なんだもん! 滅多にない機会だし、全曲聴く為には、あちこち動きたいじゃない。できればテロでも起きて、戦闘BGMも確認できないかとすら思ってる。不謹慎だけど。

 それに、警備ばかりじゃあ、情報収集もできないんだよ。


「でも……今夜は、何かがあるのかも知れません」

「えっと、エルモさん。その心は?」

「メタ読みですけど……明日の夜の舞踏会は、私たちも参加するんですよね?」

「うん、そこで情報収集しないと、機会が無いもん」


 何を当たり前のことを……と思う私。

 エルモさんは唇を窄めて、うぅんと唸る。


「その時の警備は、誰がするんでしょう?」


 あ……。恐らくは、辺境伯の護衛の人がATを持ち出すんじゃないかなと思う。だったら、なぜ今夜は私達が警護しなきゃならないの? って話だよね?

 頷くエルモさん。やっぱり、この人は頼りになりそう。

 鬼ごっこ……というか、ハンターごっこ中のJCズも引っ張ってきて、注意を促す。

 何か起きそうだよ、と。


      ☆★☆


 嫌がらせは、続けてこそ。

 議事堂正門の左右にJCズの機体を配したので、我々【美食倶楽部】メンバーの配置は、もっぱら議事堂の背面だ。その配置に苦笑しながら、他の倶楽部のメンバーは、正面の左右に付いてくれた。

 後ろ側にいると、辺境伯にうんざり顔の恨み言を言われずに済むしね。

 配置から、退出まで約三時間。かわりばんこに食事を摂るくらいで、特に休憩はいらないとみんなの意見。ゲームだから、時間で空腹は訴えても、排泄絡みは特に必要ないもん。

 それに、夕べは何もなかった分、今度こそ何かありそうの期待の方が、みんな大きい。

 視覚を含めて、各センサー総動員でその時を待っている。


「来るとしたら、やっぱり演説中かな?」

「その時は、確実に辺境伯が議会にいるものね……」

「でも、油断は禁物~」


 議会中継のモニターウインドウを開きながら、勝手なことを言い合う。

 まだ何の情報も得てない段階だから、できれば襲撃犯は捕まえておきたいよね。背景を探るのが後手になるのは癪だけど、させて貰えないんじゃあ、しょうがない。

 準備の良すぎる、カヌレちゃん製作のお弁当をみんな食べ終わった頃、ようやく、それは来た。


『ミナ、センサーに反応あり。上から何か来るぞ!』

「上? 飛行機か何か?」

『もっと上! 衛星軌道からだ』


 バリアントのブースターを噴かして、その旨を伝えながら舞い上がる。

 考える前に着いて来たのは、動きたがりのカヌレちゃんだ。


「私も上を見に行きますっ!」

「ええっ、まだセンサーに反応がないよ?」

「ミナさんの『鷹の目』って、こんな時でも有効なのか……」

「茄子とおぼろさんは追いかけて! JCズは、いつでも辺境伯を連れ出せるように連携。他は連動での攻撃が怖い。ライトをオンにして、周囲を探ってくれ」


 テキパキと指示するエトピリカさんの声を聞きながら、一気に高度を取る。

 火花を散らしながら迫るのは、流れ星状態の機影。……何だ、アレ?


「使い捨ての揚陸カプセルです。中にATが格納されてます」

「茄子さん、本当? でも、あんなのが落ちたら街の方がマズイのでは?」

「頭のシールド部を残して、そろそろ燃え尽きるはずです」


 言葉通り、ボワっと大きく火が広がったと思ったら、巨大なパラシュートが開く。急減速した二つ簡易ハンガーから、諸国連合型AT『リム』が四機づつ飛び出す。

 バックパックの主翼を広げた飛行ユニット搭載……ズルい。大気圏内じゃあ、向こうの方が有利かな?

 撒き散らされた冷却剤の煙に、完全に視野は塞がれる。でも、センサーは生きてる。


「所属不明の機動兵器の皆さんっ! あなたがたの所属を報告しなさいっ! 報告なき場合は敵とみなしますよっ?」


 回答は、ビームの射線だ。

 予想通りと、ロブスラーくんの盾で受ける。相変わらず、ビームには無敵。


「センサーに接近する航空機編隊の反応があるけど、これは敵? 味方?」

「味方だとさ。近隣の基地からスクランブルしてきたらしい」

「先に気がついたなら、教えて欲しいわ。いくら敵地とはいえ、こっちは国賓なんだから」

「ミナさん、そこは抑えて。……カヌ、こっちからは撃つな。使うのはソードくらいで、守りに徹しろ」

「あっちが撃ってくるんですよっ! 私も撃ち返したいっ!」

「流れビームが周囲の建物に当たったら、賠償が大変だろ。なるべく辺境伯の気苦労を少なくしてやろうや」


 チェッ……。

 まあ、私達は撃ってない! と、主張できるのは大事だね。

 余計な気苦労で、辺境伯に十円ハゲでも作ったら、システィーナ様とJCズに怒られる。

 地上の方は、どうなの?


「突入する車両をアンナちゃんが盾で止めたら、爆弾が爆発。あとはテロ隊と、警備の連合側兵士との間で銃撃戦中だよ」

「うわぁ、人間相手はやりづらいね」

「手を出すのも気が引けるから、バズーカや手榴弾を盾で防ぐのに専念してるよ」

「エト、敵のATをどこに降ろしたら良いのか聞いてみてくれ。空中戦のままだと、被害が広がるぞ」


 到着した戦闘機は、景気良く機銃を撃ってくれるけど、その流れ弾は大丈夫なのかな?

 宇宙空間ほどではないにしろ、小回りはATの方が効くから、軽く躱されてますよ?

 戦闘機が撃墜された時に、どこに落ちるかわからないし、離れて欲しいなぁ。


「茄子さん、ワンブロック先の中央公園と指示が来てます」

「ありがとう、エルモちゃん。そこの周囲は被害が出て良い所なのかい?」

「観光ガイドのサイトによると……芝生の周囲は桜の名所で、隣接して博物館と美術館が有るそうです」

「どこの上野公園だよ……。芝生以外はヤバそうだ……」

「そっちも頑張れや、茄子」

「おう……」


 地上も空も、お互い苦労が多そうだね。

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