シェフィールド辺境伯
「私は、断じて幼女趣味では無いのだがな……」
対面するなり、ハンス・シェフィールド辺境伯は、憮然とした顔で恨み言を言う。
あはは……成り行きですって。
でも、敢えて否定せずに置く方が、女避けになって、システィーナ様も安心するのではないでしょうか?
「それを真に受けた愚か者が、年端もいかぬ娘を妾として贈ろうとするのは迷惑過ぎる。……大体、私は豊満な大人の女性が好みだ」
そう言いつつ、チラッとしーちゃんを見る。
駄目ですよ、この人は楚々とした見かけと違って大酒呑みですから、国を滅ぼします。
「そんな国家予算規模では、呑みませんよ!」
「しーちゃん、傾国の美女(酒呑み)~」
「それでは、諦めるしかないな……」
「辺境伯まで、信じないでください!」
おやおや、こちらの冗談話に乗ってくださるとは、ちょっとイメージ変わったかも。
システィーナ様の尻に敷かれてから、何と言うか……肩の力が抜けたような感じ。
生真面目な青年の顔を見せてくれる。
JCズたちには、こちらの方が好評である。密かにニマニマしてるし。
「でもって、本来の要件は何なのでしょう? まさか、呼び出してまでロリコン疑惑の苦情を言いたかったのですか?」
ここは、辺境伯の私邸の応接室。
堅苦しいのは抜きにして、システィーナ様に接するようにしてくれ。と、言われたのでこうなった。
無礼な態度や言葉使いも、怒られないみたい。セーフ。
「そんな訳はなかろう……。私が間もなく、『ホリデー岩礁会戦』の戦後処理の話し合いに出席ことは存じているな?」
帝国の勝利で終わった『ホリデー岩礁会戦』だけど、勝った万歳で終われないのが、国家の責務だ。勝った側としては、戦後賠償とかを分捕らねばならないし、捕虜交換も行わなければならない。プレイヤーはともかく、NPCにはちゃんと捕虜が出ている。
地上戦と違って、宇宙戦で敵兵を捕虜にすることは人道行為です。
水も空気も無い宇宙空間で、交戦能力を失った機体で漂う先には死、あるのみ。救助信号を出せれば良いが、そうでない機体もある。それらを確保し、パイロットを救出することを敵味方を超えて優先するから、兵士たちも安心して戦えるというものです。
敵軍に保護された捕虜たちを交換し、国へ帰すことはとても大切なことなんだよ。
「私には、まだまだ手駒が足りなくてな……。私の身辺を護るだけで手一杯。情報収集をする役目を負ってくれる者を借りられないかと、システィーナ嬢に相談した所……」
「我々を推薦されたと?」
「私が幼女趣味であると噂を流すなど、なかなか奇抜なことを考える者たちだから、期待に応えてくれるはずとの評価だ。……間違っては、いなさそうだな」
否定したいんだけど、否定したらストーリーイベントが終わってしまいそうな気もする。曖昧な顔で、視線を交わし合う。
……ここは堪える場面。
「悪い話ではないと思うが? 私としては情報収集の人員を得られて、システィーナ嬢は直接情報を集めることが出来る」
「我々が、辺境伯には語らぬことを、システィーナ様に報告する可能性は?」
「あるだろうが、彼女にとって有益な情報は、それほど多くはないだろう。ついでにお願いしておくが……私の行動に関する報告は、甘めに盛って貰えると助かる。あの御令嬢の採点は、かなりキツめなのでな……」
などと、少々情けないことを、声を潜めて付け加えた。
家柄の古さと圧倒的な経済力に支えられて、ランドルフ伯爵家の権勢は身分の差を超えている所がある。そこに持ってきて、完全に尻に敷かれちゃってるし……。
努力する男は、好感を持たれるから。頑張って、見放されないようにね。
「それで……どんな情報を集めれば良いのでしょう?」
「賊軍……いや、諸国連合側の現状と、この先の政情の全般。もちろん、他のどんな情報でも良い。あちらと直接接触できる数少ない機会だ。……有効に活かしたい」
「この先の政情……ですか?」
「先の敗戦による損失の責任問題が必ず起きるのが、民主主義の議会政治というやつだろう? 我々が派閥の勢力争いをするように、党派の議席争いがある。民意とやらがどちらに傾き、誰が次の評議会議長となるのか……。場合によっては、外交相手がガラリと変わることになる」
ああ……その辺りは、リアルで良く知ってる。
政党は独裁が続いても、総理大臣が代わった時は、人気取りの為か政策がブレるものね。帝国は退位や、クーデターでも起きない限り、トップが代わることはない。
どっちが良いのかは別にして、外交上は代わらない方がやりやすいのは当然。
「政党だけでも面倒くさいのに、その政党の中で派閥を作って争い、党のトップを決めているのだ。最新の情報を得ておかねば、対応を誤りかねないからな」
「質問してよろしいですか~? それを気にかけるということは、今後の諸国連合との外交は、辺境伯様が受け持つのでしょうか~?」
「皇帝陛下からは、そう仰せつかっている。……まずは、彼奴らを御してみよと」
……まずはですか。
あまり、聞きたくはなかった発言だなぁ。
その次を思えば、ズッポリと派閥争いの中に放り込まれそうだよ……。
システィーナ様としては、辺境伯の側に私たちを置いて、その器量と技量を採点する為の目とでも思っているのでしょうが……。人材不足の辺境伯の手足として使われそうだな、これは。
辺境伯の絵になる一挙一動に、キャイキャイしてるJCズは置いておいて、どうしたものかね、これは。エトピリカさんや、しーちゃんの様子を窺う。
やっぱり、渋い顔をしているね。
こっちのルートは、いずれクリード子爵やパロマ子爵と、まともにやり合うことになりそうだね。それもドンパチではなく、諜報戦で。
うーん……リアルでの決算期による、しーちゃん離脱が痛すぎる。
「大丈夫ですっ。ひまりさんはともかく……エルモさんや他のメンバーは、頭を使うのが得意そうですからっ」
カヌレちゃんが、コソッと耳打ちしてくれた。
それに期待するしかないか……。諜報戦が好みで、こっちのルートをわざわざ選んだメンバーだもんね。成り行きでこっちに来てる私たちとは、ちょっと違う。
……覚悟を決めよう。
目線で確認すると、みんな渋々ながらも頷いてくれる。まあ、今更逃げようがない。
あ……そう言えばまだ、聞いてなかったけど……。
「あの……辺境伯様。今更なのですが……戦後処理の話し合いは、どこで行われるのでしょう?」
「貴公はニュースというものを見ていないのか? 毎日、煩いくらいに報じられておろう」
辺境伯は呆れ顔で、ガックリと肩を落として私を見た。
そうは言うけど、ウチで知っていそうな顔しているのはD51さんと、しーちゃんくらいだよ? 他は私と同じ顔してる。
「戦後処理の話し合いは、来週……諸国連合中央星系。正確に言えば、諸国連合中央議会のある首都惑星で行われる」
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