動き出す歯車

「絶対に、あの辺境伯の所がキーだと思うんだけどなぁ……」


 しーちゃんが、ぼやくのも仕方がない。

 何度行っても、門前払いを食わされるんだよね。もう一つ何か、条件が有りそうなんだけど……わからん!

 仕方なく、今日は大人女子チームで【勅令】を受けてます。


 ショウの一周忌ライブ……またの名を『美菜ちゃんに美味しいカニを食わす会』は、大盛況の内に終了した。何で変な名前が付いてるのかというと……お金の件でレコード会社が揉めた時に、当のミュージシャンが


「そんなことで揉めるなら、全額チャリティーにしちまえよ!」


 と言い出したこと。

 他のミュージシャンも同調して、本当にその流れになってしまった。「支援先なら、復興の進まぬ能登だろう」「能登といえばカニだし、漁港支援で美菜ちゃんに安心してカニ食わせてやろう」というノリで、そうなった。

 ……みんな、『ショウの一周忌』って言葉は、できるだけ使いたくなかったんだろうね。

 こちらのお願い通り、明るく盛大にノリノリで盛り上げてくれた。

 私は会場の隅っこに隠れていた……つもりだったけど、打ち上げの始まりに朝吹さんが呼びに来たから、居場所はバレバレだったっぽい。


「来年はステージに上りなよ!」


 と、みんなに言われたけど、約束はできないな。

 まだショウを追いかけるの、諦めてないし……。その為にも、『リラサガ』を進めて残りの曲を聴かなきゃいけないんだ!

 ちなみに、しーちゃんやモモちゃん、カヌレちゃん達もどこかで観てくれたらしくて、ウキウキと感想を教えてくれた。


「別路線の方は、派手な展開になってるみたいですっ」


 カヌレちゃんの声に、我に返る。

 そうそう、婚儀決裂派の方は内戦状態になって、派手目の戦闘が多くなってきてる。それこそ望む所と、血気盛んなゲームプレーヤーは、どんどんそっちに流れてます。

 我が【美食倶楽部】のみが、本当に我が道を行っちゃってる状態。

 こっちは、全然進んでないんだけど……。


「そう言えば、ミナさん。他に辺境伯をやり込めるアイデアが有るんですか?」


 うん……一つだけ、危なっかしい方法だけど。

 ロリコン作戦を試した人たちは、ロリコンホイホイのJCがいない為にカードゲームの際、辺境伯が躊躇せず、システィーナ様に歩み寄って失敗したみたい。

 でもたぶん、こっちの方がイレギュラーな対策だと思うんだよ……。運営さんも、渾身の二枚目キャラをロリコン扱いされたくないだろうから。

 でも、なんで今さら?


「ひまりが~、こっちの路線に来たいってうるさいの~」

「エルちゃんも、戦闘よりは諜報戦の方が好きそうだもの。でも、他の辺境伯対策って思いつかないから……。ロブスラーくんを終えた所で、ふたりともストップさせてるのよ」


 エルちゃんって……エルモさんか。結構仲良くなってるのね。

 手は有るのよ。多分こっちが本命。


「辺境伯の弱みは、ロリコン疑惑以外は……その血筋。内緒にしなければいけないから、自ら告白できないでしょ。だから、もう一つのタブーを絡めちゃうと良いかなって」

「もう一つのタブー?」

「ずばり、近親相姦。前ランドルフ伯爵の妾腹の子で、システィーナ様の腹違いの兄だって噂を流すの。こっちだと不名誉な噂だから、レスター子爵ではなく、オルガさんに協力して貰う形かな?」

「大胆ですっ」

「そんな噂があれば、辺境伯も躊躇するだろうし……父親が不義を働く人のはずがないと確信している、システィーナ様が先に動くかなって?」


 え……呆れられてる?

 危なっかしいけど、ロリコン疑惑よりはマトモだと思うよ……?


「いえ、そこを攻めるのかって……驚いてます」

「確かに~辺境伯の絶対口にできない弱みって、出自だし~」

「敵に回すと、怖い人ですっ」


 謎にしている事って、ひっくり返すと表に出せない弱みになるんだよ?

 そこを攻めるのは常道だと思うんだけど……何で誰も思いつかないの?


「とりあえず~今のミナさん案をひまりに送って良い~?」

「成功するかどうかは、保証できないけどね」

「それで駄目なら、私たちが運営さんの想定外をやっちゃったのよ、多分……」


 相変わらず、こんな話をしながらも海賊艦隊を退治してるんですよ。

 今はまだ、ターン制だから余裕が有るけど、リアルタイムになったらどうなることやら。すぐに慣れちゃうのかな?

 ミサイルが一ターン遅れて到着する距離から撃って、ビームと同時に炸裂させるという情け容赦のない攻撃を発案した私だもんね。

 本当に、このゲームに馴染んじゃってる気がする。


      ☆★☆


「あの緊急会議の時に、もうこの手を見つけてたんですか……」


 D51さんが、感心した顔で見るけどやめて。表情に困ってしまう。

 結果として、ひまりちゃんたちは無事に辺境伯の牽制に成功して、こっちのルートに乗ることができた。

 確立された攻略法は『リラサガ・ヘッドライン』に掲載されたけど、あまりこっちのルートに来る人はいなさそうだね。あっちのルートの派手なドンパチの方が楽しそうだし、こっちは駆け引き重視の頭脳戦が予想されるもん。

 お互いのストーリーの流れは気になるけど、それは『リラサガ・ヘッドライン』などで知ることが出来る。唯一やっかまれそうなのが、こっちルートの方に女性陣が集まっちゃってること。

 ひまりちゃん、エルモさんの他にも女性四名、男性二名の計八人で突破して来たんだ。

 向こうにも女子はいるにしても、女子十四名、男子六名の比率は『リラサガ』プレーヤーの男女比を考えると、有り得ない比率だろう。


「ここでルートが別れると知って、それぞれのルートの流れを確認してから、面白そうな方を選ぼうっていうプレイヤーもかなりいるみたいだからなぁ」

「本当は、それが正解なんだろうけど……」

「どこに向かってるのか解らない、獣道を突っ走る方が楽しいですっ」


 あはは……カヌレちゃんなら、そう言うと思ってたよ。

 私たちが集まってるのも、実はちょっとした理由が有る。ひまりちゃんたちがこっちルートでクリアした時、辺境伯から親書が届いたんだ。「依頼したいことがあるから、来訪願いたし」ってね。


「もう一つのキーは、こっちルートのクリア数か……」

「人数が必要となると、大事になりそう~」

「ひまりちゃんたちの所には、もちろんまだ届いていないみたい。……終わったばかりだし」

「明日辺りじゃないですか? この際、彼女たちとも合同で動いた方が良いかも」

「判断は早いって、デゴ。先にその依頼とやらを確かめてからだろ?」

「一緒にやっちゃう方が楽しそうですっ」

「そう思うッス」


 基本線は、決まってる。

 できれば、みんな一緒で。ただ、こっちに中学生がいたりするから、どこかの土日で一気にケリをつけられるような内容なら良いけど……。


「むしろ、学年末試験の試験休みの方が動きやすいよね?」

「うん! 平日昼間もオーケーだし」

「実は私もそうだったり……っ」

「同じくッス」

「男性陣はみんな、同じだよな」

「くぅ……年度末の役所の忙しさを教えてあげたいわ……」


 ああ、しーちゃんは大忙しで、ストレスを溜め込むシーズンだね。

 戦力的には惜しいけど、節目のみの参加で大丈夫だよ……。

 私としーちゃん以外は、みんな学生さんだもん。いつも、大人女子に入れてるカヌレちゃんは高校生だし、男性陣は大学生。モモちゃんは……卒業じゃなかった?


「家事手伝い兼、漫画家修行~」

「そこは花嫁修業じゃないのか?」

「予定ないし、しーちゃんくらいには稼いでるよ~」

「ボーナス分だけ勝ってるもん」

「いえいえ、今年はぐんと副収入増えるからね。税金に気をつけるのよ」

「あぁ、そうだった。この間振り込まれたから、税金的には来年。油断は禁物……」

「大きな液タブは必要経費として~。あとはお酒を控えれば問題なし~」

「無茶言わないでよ!」


 無茶なのかい!

 ケラケラ笑うJCズ以外からの総ツッコミを受けるしーちゃん。

 なるべくストレスを溜めずに、決算期を乗り切ってね。


 亜空間飛行を抜けた私達の目の前に、シェフィールド辺境伯領の主星系が広がった。

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