道無き道を突き進もう

「今回は、『戦闘』があったのはモモさんだけか……」

「さっさと敗退しただけで、エトもやってたじゃないか」


 ストーリー的には大転換だけど、プレイヤー的にはちょっと物足りなかった今回のストーリー。

 ようやく解禁で、キーイベントの入り方を公開したみたい。

 いろいろ言われてるみたいだけど


「こんな楽しい話題、ネタバレ見ながら追いかけても面白くねえだろ?」


 と言い返されれば、誰もがそう思うわけで……。

 結局イベントの詳細は載せずに、それぞれ楽しんでくれというスタイルで情報公開されたみたい。

 私も久々に自領で、のんびりしている。


 だってほら、冬はカニが旬の時期だし!

 それに、【金獅子倶楽部】の女子、エルモさんの領地の特産品が、ジャポニカ米の『ほしひかり』だと聞いていたから、もう我慢できない。

 いでよ、美味しいお寿司屋さん! とばかりに、マグロ漁を中心に強化して、和食推進月間を実施中です。

 遊びに来たカヌレちゃんには、


「何で、こんなにエビの種類ばかりが豊富なんですかっ?」


 と呆れられたけど、美味しいから良いじゃない。

 甘エビ、ぼたん海老、車海老、赤海老、パナメイ海老……味わいはいろいろなんだし。炙ったり、茹でたりで楽しみ方も変わるんだから。

 やっぱ、甲殻類でしょ!


 そして、もう一つ。

 待ちかねた物が生産され、届いたのです。


「さすがに弦は、ガットなのね……」

『スチール弦や、ナイロン弦の登場は、まだまだ先だからな……』


 弦は動物の腸が素材でも、共鳴胴のこの形を見るとやはり感動する。

 ギターだよ! 楽器製作も力を入れてきたけど、やっとここまで来た。

 さっそく、弾いてみる。


 ぼよよよよよ~ん。


『あのな、お前チューニングって作業を、忘れてるだろう?』

「忘れてないけど、チューニングマシン無しでチューニングなんてできないもん!」


 弦の張り方を調整して、六本の弦をそれぞれ開放時の音階に揃えるの。

 リアルなら音をちっちゃな機械で拾って、液晶に今の音階が出るから、それを見て合わせるんだけどさ……それが無いと無理。


『だったら、先に俺に貸せよ』


 呆れつつ奪い取ったショウが、一本一本の音を聞きながら調整してゆく。

 ……ミュージシャンって、いろいろ便利だね。

 ライブの時はマシンで合わせるんだけど、このくらいはできちゃうみたい。凄いなぁ。


『ほれ、弾いてみな?』


 ジャ~ン!


 おおっ、ちゃんとギターらしい音になった。

 チマチマとアルペジオの気分じゃないので、豪快にコードストロークで!

 C! ジャンジャカジャカジャカ G! ジャカジャカジャカ Am! ジャンジャカジャカ F! ポコポコポコ……。


『……お前、Fのコードで挫折してたろ? バレーで弦を押さえられなくて』


 忘れてた……。それで私、キーボードやタンバリンに逃げたんだっけ……。

 だいたい、何で指をまっすぐに伸ばして、六弦全部押さえられるの? 私の指先が不器用なの? ただそれだけ押さえるのすら難しいのに、何で普通に演奏しながら、コードチェンジの流れで、ちゃんと押さえて音を出せちゃうの?

 ショウなんか、エレキギターだとずっとバレーで抑えながらコード弾いてるし……。


「ふ、ふ~んだ! リアルじゃ押さえられなくて挫折したけど、ここはゲームの中だもん。ワルツを踊るのと同じで、経験値さえ溜め込めば弾けるようになるんだから!」

『その意気だ、頑張れ』

「うん、頑張る」


 ポッコポコポコ……先は長そうだよ。

 上手く鳴ってくれないギターに、不機嫌になりかけた頃。エトピリカさんからメッセージが届いた。


「ミナさん、ごめん。時間が有るなら緊急集合。倶楽部ハウスに来て」

「了解、行くよ」


 ギターを置いて、艦に移動する。

 で、そのギターを持ってきたショウが、艦橋でこれ見よがしに弾いてくれる。

 うん……その曲好きだけど、Fコード多用のその曲は、嫌がらせだよね? 何で、そうやって、すぐからかう所まで受け継いでるのよ、このAI君は……。


「お待たせ……私が最後?」

「JCズには声をかけなかったから、ミナさんで最後。急な呼び出しでゴメン」


 メンバーはエトさん、エグザムさん、D51さん、しーちゃん。今ログインしているメンバー全員に、【金獅子】のユーゴさん、【エクシード】の小平次さん。【艶夜にじいろナイト】のKすけさん。……なんだか、錚々たるメンバー。

 何があったの? D51さんが緊張気味に報告する。


「さっき連絡がありまして……。システィーナ様の婚約イベントに向かった【エクシード】のメンバーが、流れが違ってると……」

「イベントの入り方でも、間違えたんじゃないのか?」

「ところがエグさん……婚約が成立しなかったみたいです。レスター子爵領から帰るシスティーナ様の艦を守っていたら、急襲を受けて戦闘が始まっている様子」

「戦闘なんて、無かったよね?」


 私の確認に、みんな頷く。

 どうやら、あのルートで終えたのは私たちだけみたい。【艶夜】さんのパーティーも、【金獅子】さんのパーティーも、決裂ルートなのだとか……。それが当たり前と思っていたみたい。


「JCズがいないと、決裂するのか? 何と言うトラップ!」


 内緒で語らなかった進め方を擦り合わせると、小平次さんが天を仰いだ。

 まさか、それはないと思うよ? 普通は女子中学生の存在は計算してないだろうし……。

 とはいえ……それ以外に何かしたっけ?

 みんなで頭を捻っていたら、しーちゃんが輝くような笑顔で手を叩いた。


「きっと、アレです。パロマ子爵が言ってた『地味にダメージを与えてた』ってセリフ! 私たちはJCズを利用してのロリコンホイホイ作戦だったけど、何かの方法で辺境伯にダメージを与えて、追い込まないと駄目なんじゃないですか?」


 おおっ! と納得した声を上げるけど、視線はどこに行ってるのかな? タプんと揺れる胸元ばかり見つめちゃ、嫌われますよ?


「それは……有りそうだな」

「帰路で襲われるのは、辺境伯の手の艦隊?」

「不明だけど、流れからすると、それっぽいかな?」


 つまりは、何かしらで追い込んでおかないと、増長したままの辺境伯が実力行使に出ると? 

 私たちの時は、ロリコン疑惑で閉口させて、システィーナ様がしっかりと頭を押さえつけてたものね。完全に、やり込められてた。


「そこか……今度、JCズを貸してくれ……」

「お断りします」


 保護者代わりの都庁のお姉さんが即断。そりゃあそうだ。

 代わりに、何か知恵を出してあげられれば良いのだけれど……。


「今、そこまで行ってる連中に『何かしらの手を打って、辺境伯を追い込め』って指示を出したけど、頭を抱えてるよ」

「攻略本に頼るんじゃなくて、そこを何とか考えるのがゲームだろ?」


 ユーゴさんの嘆きに、エグザムさんはウンザリ顔。

 その通りだと思います。


「ミナさんのイタズラ好きを、少しは見習えよ。何の情報もない状態でも、しっかり辺境伯に嫌がらせしてるんだから」


 あれ? エトさん、ついでに私……ディスられてない?

 そうなんだよ。顔には出していないけど、レスター子爵も内心快く思っていない。それは嬉々として、嫌がらせの噂を広げるのに協力してくれたことでも解る。先に一手浴びせておかないと、決裂するのは当たり前かもしれない。

 そっか……ここは諜報戦で抑え込むか、決裂しての艦隊戦かの二択なんだ。

 攻略部隊を自称するなら、自分で何か考えなくっちゃ。

 ……他の嫌がらせは、何かあるかな?


 辺境伯が引け目を感じそうなこと……仕方がないとはいえ、とってもロリなシスティーナ様に求婚したこと以外は……表に出せない血筋かな?

 なんて考えていたら、急にしーちゃんが素っ頓狂な声を上げた。


「ちょっと待って! じゃあ……今の時点で、このゲームの未来は二つに別れちゃってるってこと?」


 あ……確かに。

 システィーナ様が辺境伯に首輪を付けちゃった、私たちの世界線と、辺境伯がシスティーナ様をも敵として対立する世界線、交わるとも思えない。


「辺境伯攻略法が見つからないと、俺達は孤立無縁になりそうだ……」

「でも、それはそれで楽しいかも知れないわ。ずっとそんな感じで進めてきたんだし」

「見捨てないで下さいよ、しーちゃん……」


 それでも良いか……な反応のしーちゃんに、小平次さんが泣きついてる。

 まあまあ、どっちが正解なのかは解らないのだし、そもそも正解なんて無いでしょ?

 最初から、道無き道を進んできた私たちだもんね。

 良さげな嫌がらせも思いついたんだけど、敢えて教える必要もないか。


「ミナさん、その顔は何か良い嫌がらせを思いついてるんでしょ? アイデア出しに協力をお願いします!」


 それは攻略チームで知恵を絞ってくださいな

 私たちは道無き道を進みます。

 倶楽部リーダーのカヌレちゃんには確認を取っていないけど、面白がりな彼女は絶対に賛成してくれます。


 さて、この先を進めるには誰の所に行けば、キーを踏めるのかな?

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