浮かれる姫様

「あぅ……パワーダウンさせられる……」


 私の嘆きをメンバー全員「しゃーないよ」と苦笑いで済ませてくれる。

 年末年始のイベントでの対人戦を見た結果、運営さんが戦闘ルールの見直しを検討しており、その第一弾が明日から三日間のメンテの後に、実装されてしまう。

 曰く、ミサイルの速度を落とす。

 これによって、ミサイルの着弾が遅れて、レーダーで捉えられるようになる。酷いよ~。

 せっかく無双できていたのに……。だから弱体化されるんだけど。

 その分、高価だったミサイルの補給価格は半額になる。

 それと、こっちの方が大きいのだけれど、ビーム兵器やバリアもエネルギー制になるの。

 百パーセントのバリアエネルギーの内、今回の防御に何パーセント使用するか? の入力が必要になるんだって。ビーム兵器も同様。ゼロになると使えなくなるよ!

 だから、イマイチ活躍できていなかった砲撃艦も、バリアの貫通とか出来るようになるはず。ちょっと、頭も使うようになる。

 そして、今回はまだだけど、その次に導入されるのは、ターン制の完全廃止。

 艦隊の推進力によって動きが違うとか、かなり細かな設定を求められるようになるらしい。私の大雑把な脳みそに、なんていう仕打ちよ!

 高速ミサイルとかも導入されるとか、戦闘は大きく変化しそう。


 あ……私達は今、レスター子爵領に来ています。

 リアル時間で三日間のメンテタイムは空いてしまうけど、シェフィールド辺境伯を迎えるパーティの準備に大忙し。

 みんなの特産品を総動員だ。

 もちろん、目玉の一つとして、パステルパンダも展示される。可愛いな、まったく。

 ウチからもタラレバガニを提供したり、しーちゃんの銀薔薇が飾られたりと、豪華絢爛。

 でもその前に、カードゲームの特訓をせねば。

 子爵のダンディーな息子さんもカードゲーム要員で、JCズと年齢の変わらぬお孫さんも、ピアノを披露する事になって、初々しいドレス姿で緊張している。

 奥様方は、もちろん社交をしなければなりません。

 主催一家は総動員だ。

 今回は辺境伯を招いてのパーティーということで、失敗は許されない。辺境伯に、ヒナちゃんという、今帝国貴族で縁を結びたい人トップ・ツーが揃うとあって、参加希望者のお断りに忙しいみたい。

 第一皇子派、第二皇子派、中立派。まんべんなく揃うんだとか。……やだやだ、面倒くさい人がいっぱい来るよ。

 とはいえ、私たちもゲストです。

 一足先に現地入りしてるシスティーナ様のお相手が、主なお仕事。

 今は、のんびり七並べなんぞをしております。


「誰ですか? ハートの八を留めてらっしゃる方は」

「誰でしょうねぇ?」


 こっちも歳の近いJCズと熱戦中。カヌレちゃんやD51さんたちは、隣でババ抜きしてる。

 私としーちゃん、エトピリカさんは、久しぶりのシスティーナ様の側近、オルガさんと情報交換の真っ最中。お互い、少ない持ち札を交換しないと足りやしない。

 何であのイケメンさんは、こんなに謎に包まれているのでしょう?


「それよりも、システィーナ様の反応はいかがなのでしょう? 縁談に乗り気なのか? 否定的なのか?」


 しーちゃんの質問に、オルガさんは溜息を吐いて右の掌で目を覆う。

 これは、呆れてないかい?


「……初めての縁談で浮かれてます。シェフィールド辺境伯の見目麗しさもあって、ちょっとドリーム入ってしまっているような……。相手の正体が解らないなら、直接話してみるのが一番というくらいの分別は有るようですが、いかんせん思春期の子供ですので」


 あぁ、修道院暮らしが裏目に出てるのね。

 元々恋に恋するお年頃な所に、男子に免疫がないから……。少女漫画のヒロイン状態なわけだ。了解しました。


「とはいえ、正式に家を継いだシスティーナ様だけに、婚姻はひと騒ぎだろう? 相手も辺境伯だけに、嫁入りするとなれば、こっちはまた兄二人の内乱が起きかねない」

「兄上方は、『まだ、システィーナに結婚は早い』と、頭ごなしの反対をするばかりで、現在は絶賛兄妹喧嘩中です」


 シスコン兄弟は役に立たずか……。レスター子爵としても、正式に申し込まれては無下にはできず、こうして場を持とうとしているものの、内心は穏やかではないだろう。


「中立派の切り崩しと考えたら、これ以上の策はないという上策だわ。庇護するトップが、夢見る乙女ですもの。婚姻で取り入るも、操るも考え方一つ。酸いも甘いも噛み分けてらっしゃる方ではないし……」


 うん、酸っぱいものと辛いものは苦手で、甘いものには執着するほど大好き。典型的な、子供舌。

 美味しい激辛カレーなんて勧めると、泣きながら完食するタイプだ。


「姫様の食べ物の好みの話ではないのですが……」


 解ってるけど、食べ物の好みと恋愛は結構似ているというお話です。大好物を先につまんじゃうか、最後まで大切に取っておくか? 甘いものをそのままパクパク行くタイプか、渋めのお茶と合わせて甘みを引き立てるタイプか?

 システィーナ様の好奇心と、偏食具合に期待しても良いのかな?


「辺境伯がセロリや、生玉ねぎのような方だと、何の心配もいらないのですが……」

「玉ねぎはトロトロに煮込むと平気でしょ? 割と困った食材」


 辺境伯もただ甘ったるい、砂糖菓子のような相手ではないでしょう。貴族としての位はともかく、影響力はシスティーナ様の方が上だけに、女遊びに慣れてる人だと、システィーナ様はマジで貞操の危機だ。

 ……姫様の性教育は、どの程度? あ、オルガさんとぼけた。好奇心旺盛な娘だけに、その方が正解なのかも知れない。

 正式な婚約が整って、相手が正式に決まってからの方が良さそう。

 これは、情報収集は誰かに任せて、私たちは過剰接触を避けるように動いた方が良いかなぁ……。

 既成事実を作られちゃうとマズいし、辺境伯がロリコンだともっとマズい。

 この話を進めるべきか、ぶち壊すべきかが判断できないのが、一番マズい。

 本人はすっかり、えへへ……うふふ……な状態だしなぁ。せっかくのヒロイン気分も、壊さずにいてあげたいからね。


 こちらの、そんなジリジリした思いを他所に、辺境伯の到着はメンテ後だ。

 そんなタイミングでメンテを挟まないでよ……。

 そうでなくても、ミサイルの優位が調整されて、ガッカリしてるっていうのに。

 運営さんの意地悪……。

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