やっぱり特産品だ

「ハアッ!」


 マサくんのバリアントの下段蹴りが、ロブスラーの足首に打ち込まれる。

 さすがにこれは痛かったらしく、長い尻尾を振り回した。間一髪、空中に逃れて無事だ。


「……物理攻撃は効くんだな」

「でも、大して効いちゃゃいないッス。分厚いッスよ、こいつの皮膚」

「関節でも砕く方法を考えるか……」

「ナンコツ……美味しいのにっ」

「だから、カヌ。肉の部位で言うのはやめろ」


 まったくもう、カヌレちゃんは。

 そもそも、それは豚とか牛とかの部位でしょ? 本当にアレが甲殻類だったら、その言い方は当てはまらないわよ?


「ミナさんも、ちょっとズレてます~」


 モモちゃん、少し現実逃避させて。

 怪獣相手にビームが通じないんじゃあ、どう戦えって言うのよ……。アレ相手に殴り合いしても、勝てる気がしないんですけど。


「それは同感なんですけど……。ゲーム的には絶対に何か、攻略法が有るはずなんですよね。そうでもなければ、無理すぎます」

「……お酒でも飲ませてみる?」

「酒乱だったら、手に追えませんよ?」


 しーちゃんが怒った。ごめん、反省します。

 前史文明人も、良くアレを封印したよ。でも、アレが特産品なら、私たちは封印するのではなく、倒さなければならないわけで……無理ゲー。


「今、【金獅子】のユーゴから連絡が来た。微妙だけど、一応朗報の無類だな。……企業連が対ロブスラー用に準備していた、ザッパー用の鋼の剣や槍が有るから持って来るってよ。遺跡の方は、ほとんどバラバラで使えそうにないから、置いてくるとさ」

「ハハ……何も無いよりはマシだけど」

「決定打には、なりそうにないですね……」


 ロブスラーくんは、まだ美味しそうに食事中だ。

 お腹いっぱいになったらどうするんだろうね、この子。

 食休みでも取って、昼寝してくれると良いんだけど……睡眠は充分だろうからなぁ。


「おまたせ、武器は持ってきたから好きなのを使って」


【金獅子倶楽部】のメンバーが、ドチャッと地上に武器を置く。

 物理攻撃は効きそうだから、ありがたい。

 ミナは、はがねのやりをそうびした! なんてね。


「どうせなら、レールガンとか、ミサイルポッドとか欲しかったぜ」

「文句は企業連に言ってよ。連中は牽制だけのつもりで、武器を用意してたから」

「俺達は、コレで何とかしなけりゃならないんだよな」


 物は試しと【金獅子】さんのオレンジ色のレパードが突撃して、甲羅に刃を突き立てる。鈍い音を立てて、剣が折れた……。甲羅は硬すぎて、どうしようもないね。


「モーやん、無茶するなよ」

「一応試しておかないとダメっしょ。しかし硬いな、あいつ」

「甲羅にだけは、当てちゃ駄目だね」


 モーやんさんは、残りの武器からまた、剣を掴んで舞い上がる。

 ロブスラーの甲羅には、掠り傷一つついてない。特産品だとしたら、とんでもない装甲になりそうだ。

 量産は無理だろうけど、ビーム無効、防御力高し。加工はできるのかな?


「やれそうなことは、目を狙う?」

「口はデカそうだから、内臓から破壊するとか?」

「人間サイズならともかく、ATアーマード・トルーパーサイズだと噛み砕かれるだろう……」

「もっと平和的な方法はないですかっ? 甲羅はともかく、皮とか……お肉とか勿体ないですっ」

「カヌは、まだ食う気でいるのか?」

「産業としてですっ。できるだけ傷つけない方が、資源になるじゃないですかっ」

「まあ、そうなんだけど……」


 海に落としても、泳ぐのは確かめたから溺れない。

 落とし穴を掘っても、穴掘りは得意そう。

 火を吹くくらいだから、熱にも強そうだしなぁ……。

 低温は試してみたいけど、南極はずいぶん遠い。


 ……お手上げ!


「ミナさん、諦めが良すぎ~」

「あの娘がどんな風に封印されてたのか、思い出してみて下さい。それ知ってるのは、ミナさんだけなんですから」


 私の諦めの良さに、モモちゃん、しーちゃんコンビが慌てる。

 自慢じゃないけど、考え事は苦手なんだよ……。

 浅瀬に、あの爪楊枝みたいな遺跡で、封印されていたんだよね。

 モニターに、映像を再生してみる。


 怖い顔が彫刻されていたから、怖い顔で脅かしてみる? 元アイドルの私は、無理!

 そもそも、何で見つけたんだっけ?

 確か……音?


「ねえ、ショウ。あの時の変な音の周波数って解る?」

『記録してあるし、耳コピで採譜してあるが?』


 ニヤリとショウが笑う。

 あ……これが正解っぽい。

 コクピットにヴァーチャルな鍵盤と、楽譜が浮かび上がる。お金を取って聴かせる腕はないけど、怪獣相手になら披露するのもやぶさかではない。


「あの子を封印していた遺跡が出していた音があるから、ちょっと試してみるね」

「そういうのがあるなら、最初からやってよ」

「……ごめん、今思い出した」


 よく聞こえるように、ロブスラーくんに接近して……。

 機体のコントロールはショウに任せてっと。では!


「私のシャウトを聴けぇ!」

『演奏だけだし、子守唄だし……』


 余計なことを言わない! 気分の問題でしょ?

 シートを叩いて、カウントを取って……四小節の単純なメロディーを弾く。

 ロブスラーくんは、不思議そうな顔でこっちを見上げた。その目がトロンとして来て……寝ちゃった。

 コロンと裏返って、お腹を上にして。……どこまで可愛いんだよ。


「凄い、寝かした。……そのまま弾き続けて」


 試しにと、ユーゴさんの金色のレパードがお腹の上に降りてみる。起きない。

 剣の先で、甲羅の無い喉を突いてみる。刃は通りそうな感じ?

 六機のATが、熟睡中のロブスラーくんの頭の周りに降りた。


「とりあえず、首を落とすか……」


 あ、可哀想で見ていられない。

 モニターを切ってもらって、私はひたすら曲を引き続ける。


「もう演奏を止めていいよ」


 そう、エトピリカさんに言われるまで。

 女性陣はみんなモニターを切っていたみたい。

 悲しそうな溜め息が漏れた。

 首と胴が別れ別れになったロブスラーくんが、変わらず仰向けに寝ている。南無~。


「えっとっ……血抜きをしないと駄目ですっ」


 全機がかりで尻尾を持ち上げて、崖の上に胴体を固定する。ドッと緑色の血が流れて、地面に染み込んでいく。


「この作業必要なのか?」

「すぐに血抜きをしないとっ、お肉に臭みが残りますっ」

「やっぱ食う気だ……」

「諦めろ、ユーゴ。これがカヌだ」


 乾いた笑いが交差する中、D51さんは残された頭を調べてる。

 死んだ後でも、ちゃんとビームを霧散させる性質は、残ってるみたい。玉虫色の甲羅も、とても綺麗。

 そんな中、領主であるカルディア男爵から連絡が入った。


「終わったようだね……。危険度の低い討伐法を見つけてくれたようで、礼を言いたい」

「いえ……でも、血抜きが済んだら、この子をどうしましょう?」

「保管できる設備が、まだ無い。申し訳ないが、南極圏への移送をお願いしたい。腕か足の一本でも持ち帰ってもらって、後はしばらく氷漬けにしておこう」


 ちょうど、ロブスラーくんが倒された時間に、今度は第三大陸の外れに爪楊枝のような遺跡が確認されたらしい。

 やっぱり、特産品みたいだ。

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