君の名は。

「いかんな……あの泳ぎ方を見てると情が移る」


 良かった、私だけじゃないんだ。

 ATアーマード・トルーパーに乗った私たちは、相変わらず上空から怪獣を監視中。

 この子がまた、泳ぐのが遅いんだ……。それもパチャパチャ犬かき風に泳ぐものだから、妙に可愛らしくってね。

 進行方向も、未開拓の第四大陸に向かっているし、『都市に近づけない』という指示も守っている。

 海を泳いでいる最中では、攻撃した所で、水面から出ているのは硬そうな甲羅の部分だけだし、あまり有利な戦いになるとも思えない。

 何をするにも、上陸してからだね……。

 この子は人気ひとけのない大陸に行って、何をしたいんだろう? 怪獣って、都市を破壊するものじゃないのかな?


「ミナさん、それは偏見だよ。子供を取り戻しに来たり、双美人を迎えに来たりと、怪獣にだっていろいろ事情は有るんだから」


 エトピリカさんは言うけど、第四大陸に子供はともかく、双美人はいないと思う。

 もう一人、情が移っていそうな、しーちゃんが呟く。


「本当に、何を目指してるんでしょうね? あんなに一生懸命に……」


 何の迷いもなく、進んでるんだよ。

 絶対になんか目的が有るはず。怪獣さんの考えることなんて、解らないけど……。


「お腹が空いていて、大好物の匂いを嗅ぎつけたとかっ?」

「それじゃあ、カヌだろ? まるっきり」

「でも~あまり深くは考えていないと思うけど~」

「まあな……三大欲求の内、睡眠は充分だろうし……性欲だって、つがいがいたら大迷惑だし、カヌと同レベルの食欲が、一番マシなんだが」


 陽射しに輝く水面を、怪獣くんは一心不乱にポチャポチャ移動を続ける。

 ううっ……何だか独走中の、マラソン中継を見せられている気分。ふわぁと欠伸が出てしまうよ、眠い。


「そちらの状況はどうだね、諸君?」

「変わりません。怪獣は第四大陸方向に、微速前進中です」

「こちらはいろいろ動きがあったので、お知らせしておこう」


 カルディア男爵からの通信に、無理矢理眠気を振り払う。

 動きがあったということは、あの怪獣について何か解ったっていうことかな?


「どうやら、私は企業連の奴らに、ハメられたようだよ」

「……穏やかじゃないですね」

「彼らは、あの怪獣……ロブスラーの存在を知っていたようだ。惑星環境を人類が住めるように改良する、テラフォーミングの段階でな」

「そんな前から?」

「前史文明人の遺跡の碑文にあったそうな、『コルデナイト喰らいのロブスラーをここに封ずる。新たな鉱脈探しの際には、起こすべし』とな……」

「『コルデナイト喰らい』っていう事は、あの子はコルデナイト鉱脈を求めて、第四大陸に向かってるのですか?」

「恐らくは、そうだろう。……出来ることなら、新鉱脈を発見後に対処して欲しい」


 アハハ、ちゃっかりしてる。

 もはや人類の科学は、あの子に頼らずに鉱脈を探せる。でも、それには莫大な資金がかかるから、見つけてくれるなら、それに越したことはない。


「その時点で、この惑星に眠る大鉱脈の存在を確信して、資産が少なく、鉱脈開発を企業に委ねるであろう私をここの領主とするよう、中央に働きかけたことが明白だ。あれが眠る場所を巧妙に隠して、開発経路から外し、私設軍まで投入して守っていたと白状したよ」

「いつまでも、隠せるようなものじゃないでしょうに」

「万が一、私が彼らの掌で踊らなかった場合の、ジョーカーとして考えていたようだ。使われなかった自分が、少々恥ずかしいよ」

「そんな……」

「だが、この件を帝国議会に提訴した。どんな判断が下されるか解らんが、アレを放っておくわけにもいくまい。私からの要請として、何とか対処して欲しい」


 毅然とした態度で、頭を下げる。

 吹っ切った顔をしているけど、潔すぎるのも考えものです。

 ひょっこり、カヌレちゃんが口を挟む。


「ご領主っ、あのロブスラーくんですけど……ここの特産品だったら、どうしましょう?」

「と、特産品?」


 完全に虚をつかれて、フリーズしてる。

 解る。私たちも、さっきそんな感じだった。


「他の星では、見たことが無いのですっ。だったら、ここの特産品なのかもっ。生物でしょうから、一匹しかいない可能性は低いですし……あの甲羅は固くて良い材料っぽいですっ。ひょっとしたらお肉も美味しいかもっ」


 明後日の方向からのカヌレちゃん理論に、まだ混乱が見えてるよ。

 アレを間近に見て食べようとか、製品になるとか、思うのはカヌレちゃんくらいだろう?


「と、とにかく……その可能性も検討項目に加えておこう。間もなく上陸するだろうから、諸君らには、具体的な退治方法を検討して欲しい」


 通信が切れた。意外過ぎる意見に、考えをまとめる時間は必要だろう。

 そうか……正式名称がついちゃったか……。


「でもでもっ、『ロブスラー』くんですよ? 更に美味しそうな感じがしますっ」

「ロブスターの鋏のお肉が好きなのに、あの子には鋏が無いじゃない。がっかりにも程があるわよ!」

「ミナさんも……カヌレベルで張り合わないで下さいよ」

「ごめん……甲殻類の話題だけは譲れなくて」

「でもでもっ。本当にお腹を空かせてたんじゃないですかっ。私の予想通りですっ」

「それならなぜ、第四大陸なんだ? 他の大陸にも鉱脈が有るだろう?」

「他はプラント化されちゃっていて、臭いがしないんじゃないかな~?」

「それっぽいけど、本当の理由は、奴のみぞ知る……かな?」


 何だか、エグザムさんに格好良く締められちゃった。

 それと共に、ロブスラーくんが浜辺に上陸したよ。

 ようやく地面に足をついて、前屈みな二足歩行で「アンギャア!」とひと鳴きする。


「サーモグラフで見ると、胸の体温が高いです。心臓はそこに有るかと」

「どうやって火を吹くんだろ~?」

「それはね、モモさん。体内に火炎袋が有るんじゃないかな?」

「どこの怪獣大百科の知識だよ!」


 ちょっと男子ぃ、子供返りしてるよ?

 眼の前にいるのは怪獣だからなぁ、無理もないか。

 ロブスラーくんは、名前に反して陸上の生き物らしい。いきなり移動スピードが上がった。目指すは遠くに見える、切り立った崖?

 いかにも、鉱山が掘れそうだけど……。

 そこに頭からダイブ! 衝突するかと思ったけど、サンショウウオみたいな大きな頭、いっぱいのサイズの口を開いて岩を食べ、掻き分け始める。


「ここの岩……コルデナイト含有量がめっちゃ高いですね」


 各種センサー発動中のD51さんが、驚嘆した。

 地上に鉱脈が出ている感じ? この匂いに惹かれてきたのかな?


 緯度経度と、状況映像を報告すると、攻撃命令が出た。

 ついに、戦わなくちゃならないのね。


「しーちゃん、タルタロスのショルダーキャノンで、お尻の辺りを撃ってみて。甲羅の上から。甲羅の耐久性を見たい」


 エトピリカさんの指示で、しーちゃーんがショルダーキャノンを撃つ。

 大口径のビームが二条、真っ直ぐにお尻の装甲に突き立って……霧散した。


「ビームが……効かない?」


 甲羅に触れると、ビーム粒子が拡散されてしまってダメージが通らない。

 試しにと、私はビームライフルで甲羅の無いお尻を狙った。


「ああっ、ランプ肉がっ」

「肉の部位で言うな、カヌ。戦い辛いだろ!」


 甲羅が無くても結果は同じ。皮膚にビームが霧散してしまう。


「これならどうよ!」


 プラズマサーベルを抜いて、エグザムさんが斬りかかる。

 だが、そのサーベルさえも意味をなさない。


 ちょっと、これどうやって倒せば良いの?

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