どうすりゃいいのよ……

「あれって……どう見ても……」

「怪獣……だよね?」


 空気を震わせて雄叫びを上げるのは、尻尾まで合わせれば、全長百五十メートルを超えそうな生き物。

 アルマジロとサンショウウオを足して二で割ったような、玉虫色の艶々した甲羅は綺麗だけど、吊り上がった大きな目と、牙の生えた大きな口が凶暴そう……ナニコレ?


「ベタな推理だと……あの遺跡で封印されてた怪獣?」

「有り得るね。先住民族か何かが封印して、古い文献が残ってるとか……」

「とりあえず、名前つけとく? テレ○ドンに一票」

「似てるけど、テレス○ンはマズい、円谷プロに怒られる」


 【金獅子】さんたちは、そんな呑気なことを言っているけど……火を吹いた!

 散開するのは、プレイヤー各機。

 逃げ遅れたザッパーが、全部片付いたのは助かる。でも、どうするのよ、これを?


「まずは領主様に連絡しましょう? ひょっとしたら、専門の係がいるかも知れないわ」


 さすが、都庁職員。しーちゃんは、できれば誰かに丸投げしたいご様子。

 ♪怪獣退治の専門家~は、いないんじゃないかなぁ?

 一応、映像を領主様に送ってみる。

 なんとなく世界観が違うから、できれば戦いたくないなぁ……。

 撮影ドローンは嬉々として、映像を撮りまくってるけど。……あまり近づくと、危ないよ?


『ミナ女男爵……映像は見ている。とんでもないものが出てきたね』

「カルディア男爵……アレ、御存知ですか?」

『いや、私は聞いていないのだが……心当たりのある者がいるようだ』

「……どなたでしょう?」

『クレイトン氏をはじめとした、企業連の方々だよ。ニュース映像を見ていて、あんな所に軍事兵器が配備されている事は、報告を受けていない。その件で、問い詰めている最中に、アレだ……。ずいぶんと顔色を悪くしていたね」


 余裕の笑みを浮かべる領主様。

 ついに、企業連に報いる一手を見つけたって顔をしている。

 それは良い事なのですけど……この子をどうしましょう?


『今、帝国軍と相談をしている最中だ。……すまないが、なるべく都市に近づけないように牽制しておいてもらえないだろうか?』

「怪獣退治の専門チームがいるんでしょうか~?」

『寡聞にして、聞いたことが無いよ。少なくとも、あのような巨大な……恐竜じみたものを私は、見たことがない』

「何か解ったら、教えて下さい。退治できるかどうかも不明ですし……」

『解った。くれぐれも気をつけて対処して欲しい』


 確定事項は、様子見。そして、都市には近づけない。

 幸い、怪獣は第四大陸の方へ泳いで行く。泳ぎ方は犬かきっぽくて、ちょっと可愛い。


「ユーゴ、お前らの方で、遺跡の破片を回収してくれないか? お前さんたちはまだ、領主への挨拶が済んでないだろう?」

「了解。首都に運んで、ついでに領主様と会って来るわ」

「この領地にも、考古学者くらいはいると思うから、見てもらえよ。せめて何か情報が無いと、やってらんねえ」


 八機が海に潜り、残った私たちが、パチャパチャ泳ぐ怪獣を追跡する。

 泳ぎは苦手なのか、スピードは遅いし、妙に可愛いし……情が移っちゃいそうだ。


「ミナさん、物凄く嫌な予想を言っても良いでしょうか?」

「何、D51さん。あまり聞きたくないけど……」

「実は今、この帝国で最強の惑星内兵器って、ATアーマード・トルーパーで、それを大量に装備していて、この星系に最も近くにいるのって、我々じゃないかと……」

「あぁ……」


 微妙な空気が流れる……。

 アレを退治しろって話になったら、指名で勅令が出そうだね。

 ほんの数十メートルの距離にいるし。


「……真面目に、アレを倒す方法を検討してみる?」

「……念の為に、ですよね?」

「……そうそう、念の為に~」


 女子はどうにも、ノリが悪い。

 怪獣退治は、女子の分野じゃないものね。

 ちょっと男子ぃ、アイデア出してよ?


「最悪は、旗艦を呼んで……対艦ミサイル一発?」

「それは地形、変わっちゃうッスよ?」

「最終手段だよ、あくまでも」

「現実的な対応考えろよ、デゴ」

「相手が、非現実的すぎるのに?」

「巨大ロボットも、充分に非現実的なサムシングだろ?」

「機龍クラスが欲しいぜ……」


 男子も、あまり頼りになりそうにない……。

 さて、どうしようかと考えていたら……カヌレちゃんが、とんでもないことを言い出した。


「ミナさん……っ。あの怪獣くんって、美味しいんでしょうかっ?」

「「「「「「「「おいっ!」」」」」」」」


 キレイに揃った総ツッコミにもめげず、カヌレちゃんは真面目な顔をしてる。

 食いしん坊なのは知っているけど、君にはアレが食べ物に見えるのかい?


「だってだってぇっ。他の星系で見た事が無いなら、あの子は特産品かも知れないじゃないですかぁっ! だったら、美味しいのかも知れませんよっ?」


 あ……。


 あまりの世界観の違いに、当初の目的を忘れてたよ。

 美味しいかどうかは別にして、特産品は有り得る!

 こんなものが、普通に私たちの領地なんかにいて、堪るものですか!

 むしろ、特産品であって欲しい。


「ミナさんの大好きな、甲殻類かも知れませんっ!」


 やめて~……何だか、美味しそうに見えてきちゃうから。

 たしかに甲羅付きで、お腹側は柔らかそうだけど……うん、美味しそうかも。


「……カヌ、仲間を増やそうとするなよ」

「エヘヘヘッ……バレちゃいましたっ」

「でも~特産品だとすると、クジラさんみたいに捨てる所が無いみたいな~」

「そうね……アレを退治して、血抜きして、加工して……領地規模の事業は確定かな?」

「しーちゃんは、そこまで考えますか……」

「うん……覚悟を決めましょう! 絶対にアレを退治しないと、イベントが進まない。アレを退治して、領地事業を新しく興せっていうのよ!」


 あ、しーちゃんがついに腹を括った。

 領主様ファミリーは、ATを欲しがってたからなぁ……。

 怪獣退治のお仕事が生じるなら、AT隊の配備もやぶさかではない。たとえ、システィーナ様がウンと言わなくても、皇帝命令が出るんじゃないかと。

 そうか……全部がここに繋がってくるんだ……。


「それじゃあっ、なるべく傷をつけない倒し方を検討しましょうねっ」


 カヌレちゃんは、どうしてそんなに嬉しそうなのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る