探索開始

「『特産品』って、プレイヤー領地の素敵なサムシングじゃないんですかっ?」


 カヌレちゃんが、疑わしそうに首を傾げる。

 事情通のエグザムさんや、D51さんも似たような反応。

 まあ、そうだよね。


「でもなぁ、あと数日で状況をひっくり返せるものって、それくらいしか思いつかないのも確かなんだよ。特産品の威力は、俺達自身が一番良く知っているし」

「そうね……さすがにこの星系の収入には及ばないけど、税収のバランスを覆す切り札にはなるかも」


 エトピリカさん、しーちゃんの両策士の意見は一致してる。

 他の手では、あと三日もせずに解決できそうにないだろう。それに、このイベントへのキーがシスティーナ様へ、特産品を献上するものだというのも、ヒントなのかも知れない。

 それにきっと、特産品は新たな事業となって、領民の生活を鉱山に頼らずに済むものに限定して良い筈。


「物騒なのは~邪魔が入るかも知れないってこと~」


 男爵に、そう釘を刺されている。

 そんな物を見つけられたくない企業グループとしては、当然邪魔をしてくるはず。過去にも、そんな事があったらしい。

 とはいえ。モモちゃんの顔を見るまでもなく、みんな是非とも邪魔が入って欲しいって顔をしている。

 そんなにATアーマード・トルーパー戦をやりたいのかな?

 私も、せっかく乗れるのなら、やってみたいけど、さ。


 半信半疑ながら、みんなも特産品探しに賭ける気満々だ。

 すでに領地から領民たちの探索部隊を呼び寄せて、みんなの領地の特産品を探した時同様にするつもりで準備してる。

 違うのは、領主として領民を守るべく、ATで上空を飛び回ることだ。

 みんな、社交よりはそっちの方が好きそうだもん。


「じゃあ、あとは『倶楽部チャット』で」


 次々とホテルから、それぞれの愛機が飛び出してゆく。

 私の領地からは当然、タラレバくんを発見した漁船団が呼ばれております。


『で、ミナ? 漁船団をどこに向かわせるんだ?』


 イベント中は無口になるショウが、ようやく口を挟んでくる。サポートキャラだからしょうがないけど、ちょっと冷たいぞ。

 まあ、探すべき場所は決まっている。


「第三宇宙港の有る大陸の裏側。第四大陸との間の海だよ。多分きっと、まだ未開拓だと思うから」


 私みたいに漁業を勧めていない限り、未開拓の大陸間の海なんて手つかずだよ、きっと。

 海に何かがあるなら、そこが一番怪しい。

 途中の海はマリンジェットでぶっ飛ばして、そこに集中するように指示する。

 ヤマを張っておかないと、もう時間が無いんだよ……。

 あ、いたいた。私の漁船団。クラブメンバーの領地で、何も見つからなかったウサを晴らそうね。

 ついでに、美味しいカニもプリーズ。探索中の収穫物は、いただける約束です。


 網を下ろす場所は、プロにお任せ。

 魚群探知機やら、水中ドローンなどを駆使して探してるはず。

 地上の狩りと違って、すぐに結果が出ないのがもどかしい。仕方がないので、ちょっと周囲を飛び回って、何か無いか探してみよう。

 青い空、青い海。赤道をちょっと南に行った所なので陽射しが強い。

 いくつかある島に降りては、全天球モニターを記録モードにする。申し訳ないけど、ちょっと島をバサバサと騒がせて、生き物を追い立てて撮影しておく。

 戻ってから、画像チェックして何か見つかるかも知れない。ついでに地質や、地下、スペクトルとセンサーをフル活用だ。


「……これ、何だろう?」


 サウンドセンサーが見慣れぬ波長の音を拾ったので、降りてみたけど……。

 隣りの島からの浅瀬に、ポツンと半径十メートルで、高さ六メーターほどの岩が突き出ている。同じ経で海底に突き立っている……みたい。

 イメージは、爪楊枝の頭? そこに何やら怖い顔が彫ってある。

 何かの遺跡だろうか? 画像を領主様に送ってみる。この岩が海風を受けて、何やら音を出しているみたいだね。


『ミナ、ぼ~っとするな。何か来るぞ!』

「ふぇ?」


 慌てて高度を取ると、今いた場所をビームの光跡が通り過ぎた。

 島から迫る十二機程の機体……見たことのないAT?

 私のバリアントのような完全な人型ではなく、航空機の翼を肩の上に乗せた、戦闘機に頭を突っ込んだような中途半端な形。

 何だこれ?


『レギオン重工製の試作機だな……。去年のウェポンショーに参考出品された『ザッパー』って機体だ』

「何で試作機がこんなにあるのよ! ATって私達のだけじゃなかったの?」

『ATも突然、実用化されたわけじゃないからな。機能や機構は、それなりに積み重なっているんだろう。数が有るのは、知らねえよ』


 多勢に無勢。とりあえず逃げ回っておく。だって、もし……。


『安心しろ、ミナ。向こうはAI操縦だ。人は乗っていない』

「じゃ、遠慮はいらないね!」


 基本、ATはAI操縦です。私達のカスタム機のみ、操縦可能。だから、乗れると聞いて驚いたんだよ。カヌレちゃんの『彗星と呼ばれしエース』の称号は、コントロールAIに与えられているから、一機がエースなのではなく、全機強くなるんだよ。……ずるい。


 人を殺すことにならないなら、私は頑張るよ!

 腰に装着していた、ビームライフルを構える。

 ショウ、サポートよろしく!


『頑張るのは、俺じゃねえか!』


 ビームを躱しながら二連射。よし! 一機撃墜!

 ふふふ……この世界で、初のAT同士の戦闘を記録したぞ。


「あーっ。ミナさん一人で楽しそうな事をしてますっ! 私も混ざりに行くっ!」


 そんな事を言ってたと思ったら、もう到着したよ、カヌレちゃんのレパード。さすが高機動型、速いわ。

 こらこら、敵の真っ只中に突っ込んじゃダメでしょ!


「ああっ! 対艦ミサイルが無いですっ!」


 当たり前でしょ、艦隊戦じゃないんだから。ライフルを撃って、援護する。

 危ないことはしないの。


「そうだよ、カヌちゃん。こうするんです」


 到着したD51さんのレパードが、プラズマソードを抜いて、即ザッパーを一機斬り捨てた。


「形はATですけど、動きは戦闘機ですから。方向転換時に小回りが効かないので、狙い目です」

「そういうことは、早く教えて下さいっ」

「カヌが先走るからだろ!」


 続々、みんなが到着する。

 これで数は同じだね。……と思ったら


「海中より、潜水艦多数接近!」

「おぉ……ずいぶん出てきたね」

「ここ、本命なのかしら?」

「でも~岩しかないよ~」


 それにしては、守りが堅すぎるのも確か。試作のはずのザッパーが、追加で四十機。

 何かあって隠してるっぽいよね。

 でも、一人六機か……ちょっとしんどい? でも、やるしかない。


「おいおい、撮影ドローンが飛んでるぜ。こんな所まで追いかけてくるんだな」

「じゃあっ、みんなで良い絵を撮って貰いましょうっ」


 だけど、ビームが凄いよ。

 躱すだけで精一杯。私のバリアントに傷が付いちゃう!


『まだ、それを言うか……』


 しーちゃんとエトさんを固定して、射線を確保するフォーメーションを取る。大口径砲は有効に使わないと。レパード二機が撹乱して、バリアント四機でタルタロスを守る。

 でも、さすがに数が……。ああっ! ビーム掠った! 肩に傷が付いちゃったよ!

 逆襲したいけど、数の差がキツイかも。両肩の大口径砲を活かす為に、空中固定していたタルタロス二機も、回避動作をしなきゃならなくなってる。

 いくら数に差があっても、カメラが見ている前であんなのに負けたら、システィーナ姫が口を利いてくれなくなっちゃう!

 ビームを躱して、移動方向はランダム、ランダム……うぅ、AT酔いしそう。女子の尊厳も含めて、色々な意味でピンチだ。


「射線空けて!」


 エリアチャットの声に、ショウが強引に操縦を奪って、機体を横跳びさせる。四条の大口径砲の射線が、そこを通過して敵を三機巻き込んだ。更に、追い打ちをかけるようにレパードが、疾風となってザッパーに迫り、斬り落とした。


 え? 見た事ない機体だよ?


「遅えぞ、攻略班!」

「エグたちが先に進み過ぎるんだろ!」


 怒鳴り合ってるし……え? 攻略班?

 遅れて、見慣れぬ彩りの七機のATが戦場に到着した。


「【金獅子倶楽部】先行班、助太刀いたします」

「やっほぃ! いきなりATバトルができるとは、ラッキー!」


 ようやく追いついてきた【金獅子倶楽部】のプレイヤー八人が参戦する。こういうのは、やっぱり男子の方が向いているのかなぁ。一気に形成が逆転した。

 ライフルだと味方に誤爆しかねないので、プラズマソードに持ち替える。昔、時代劇の殺陣を習った時に知ったのよ。素人が剣を使うなら、突き捲るのが一番良いって。

 隙も少ないし、手数も出せる。

 盾の影から、ザッパーのオリーブ色の機体を突っ付きまくる。

 やったね、一機の片側ジェットエンジンが貫いたよ。黒煙を上げて、ザッパーが墜落してゆく。その先には謎の岩……というか遺跡があった。

 あぁ、岩に激突して大爆発。爪楊枝が壊れちゃった。


「何だ、この地響き……」

「ミナさんが遺跡、壊しちゃったからですっ」

「私が壊したんじゃないわよ? ザッパーが勝手に落ちたの!」


 不気味な地響きが続き、巨大な水柱が吹き上がる。地面に突き立っていた、あの遺跡が空高く噴き上げられ、落ちてくる。ザッパーが二機巻き込まれた。


「何よ、あれ……!」


 水柱の中から現れたものに、私達は驚愕した。

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