どうしたものだか……
夜空に花火が打ち上がる。
日本のようにドーンと趣があって広がるのと違って、西洋式の連続打ち上げの賑やかなスタイルだ。
「ヤケクソみたいに、打ち上げるよなぁ……」
「侘び寂びを感じるなんて、日本人くらいでしょうから」
喉の先まで、某庁舎のマッピングイベントの件が出かかったけど、確実にしーちゃんが暗黒面に落ちるだけだからやめておく。
侘び寂びの欠片もないもんね、あれ……。
まあ、パーティーの余興としては、ド派手で良い。
みんなカクテルグラスを片手に、夜空を見上げている。
映画のワールドレセプションの夜まで、こんな騒ぎが続くのだろう。
「クリード子爵の情報通り、下町は地味そのもので馴染みやすいですね」
D51さんが、呆れ顔で言う。
かなり勤勉な国民性らしく、「お貴族様は別の世界」とばかりに、賃金が低かろうと活気があるのだそうな。領主様が、気を回して様々な保証や、施設を準備してくれるのを有り難いと思い、決して男爵を悪く言う声は聞こえないのだとか。
「何とかしてあげたいですね~……」
モモちゃんの溜息に、皆同意する。
ただ本当に、犯罪は行われていないんだよ。私とカヌレちゃんが戻るまでの間に、色々とみんなが調べてくれていたのだけれど……本当にクリーン。
政治家への献金はあっても、ちゃんと法律の枠内で裏金は無さそう。
惑星開拓初期の取り決めが、あまりにも企業側有利な条件ではあるのが気にはなるけど、鉱山設備などの初期投資を、ほとんど企業側の出費で賄っていた事を考えると……。
もはや、犯罪を犯してまで、無理に儲けに走る理由がない状態。
税率を上げれば、困るのは領民たちだから、そこもイジれない。
……完璧過ぎるシステムだ。
「どうすりゃ良いのやら、こんな状態……」
「簡単になんとかなるなら、男爵自身がとっくに動いてるだろうしなぁ」
うん、溜め息しか出ない。
どこをどう突っ突けば、状況を変えられるのか……想像もつかないよ。
「もう、
「それで済むなら楽だけど、ただのテロ行為だし……」
「【金獅子倶楽部】の連中は、まだ追い付いて来ないのか?」
「システィーナ様に貢いだけど、まだパロマ子爵が出てこないそうです。どこかフラグを立て損ねているんじゃないかと、ドタバタしてます」
「連中も巻き込んで、悩ませてぇ……」
アハハ……男子は過激だ。
でも、その気持も解るよ。彼らは攻略班を標榜しつつも、結局は私たちの後を追いかけてるだけだもんね。
たまには一緒に悩んでよ。と言いたくなる。
「クリード子爵がああ言うからには、レセプションの夜までに、解決できる方法があるってことだよな? メタ読みだけど」
「うん……現実ならともかく、イベントだもの。何かあるはず」
「固まっていてもしょうがないから、バラバラに散って情報を集めましょう。誰かが何かを教えてくれるかも知れないし……」
あまりにも抽象的な提案だけど、他に手もない。
教えてくれそうな誰かを探して、私たちはパーティー会場に散った。
いっその事舞踏会であれば、まだ聞き出しやすいのだけれど……。
エスコート相手でもない異性と、ヒソヒソ話すのはスキャンダルの種。
特に貴族女性などは、自分の結婚相手探しにも関わってくるから、スキャンダルには敏感です。リアルなワイドショー大好きおばさんが、束になっても勝てないくらいの噂好きだからなぁ。
そんなゴシップ好きの、元祖みたいな人たちだもの。
うっかり、帝国側で貴族に飛びつくと、色々トラップが多すぎでしょう。
諸国連合側は、その辺のバランスが取れてるのかな?
いつか痛い目に遭うと良いよ!
あ……クリーム煮のロブスター見っけ。手持ち無沙汰でフラフラしているのも何だから、美味しく戴いてしまおう。
今夜の主催は、レミントン子爵。
長身痩躯の青年は、野心家っぽい瞳を隠さずに、若手起業家たちの輪に入って熱心に頷いている。領地経営も、先立つものはお金だものね。
自分の代で、何か結果を残そうと必死みたいだ。
そして、その様子に聞き耳を立てているグローバル企業の会長ジュニアや、三世たち。
嫌な構図だなぁ。
絶対に私は、そういう生き馬の目を抜くような商売には向かない。
「おや、ミナ女男爵。楽しんでいらっしゃいますか?」
話しかけてきたのは、当然招かれているであろう領主であるカルディア男爵。
未練を残しつつ、ロブスターのお皿を置く。
「皆さん熱心でらっしゃるから、少々アテられてます」
「爵位にかかわらず、領地経営には誰も苦労をしていますから。領地に産業を根付かせるのは大変です」
「痛感しています。農業や漁業など、第一次産業を興すのは星の資源があるから比較的簡単なのですけれど、それを流通に乗せるのは難しいです。ましてや、商業や工業などは……ライバルが多いので、知名度を上げるだけで大変です」
「やはり、苦労をなされてますか?」
聞き上手な人だ。つい乗せられて饒舌になってしまう。
周囲の貴族たちも、いつの間にか集まって話題に嘴を入れてくる。
苦労しているのは、みんな同じだよね。
「私どもは木材を扱っているのですが……これがなかなか。材質は悪くないと思うのに、流通ルートに乗ってくれません。バックギャモン仲間の領地に卸すのがせいぜいです」
「まあ、どなたも品質は良いと自負なさってますから……もうひと工夫必要なのでしょう」
「高級家具に向いているとか、的を絞ってアピールしてはいかがかな? 名の通った工芸家の目に留まれば、箔が付こうというもの」
「男爵の所の大理石は、建築家の指名が注目のきっかけでしたな」
わいのわいのと姦しい。
こうして顔繋ぎするのも、新しい売り込み先を探す意味もあるのだろう。
趣味のボードゲームや、狩猟の約束を取り付けるなど輪を広げようと忙しい。
「しかし、ミナ女男爵は羽振りが良くて羨ましい。海塩や、海産物。ライバルは多いでしょうに」
あ、こっちに話を振られたよ。
海を汚さないようにとか、色々考えてはいるけど……ウチの収入の最たるものは、やっぱりアレだよね。
「特産品のタラレバガニが、おかげさまで評判が良いものですから。それに引っ張られる形で、他の物も売り上げております」
正直に話すと、周囲から溜め息が漏れた。
「特産品……それは羨ましいですな。我々も探しているのですが、なかなか見つからない。特産品は貴族同士が値を吊り上げる形になるので、それだけで大いに領地が潤いますのに」
羨ましそうな目を向けられて、ちょっと照れちゃいます。
って、何でカルディア男爵まで?
他の貴族のおじさんも、不思議そうに問う。
「カルディア男爵の所は、コルデナイト鉱があるので安泰なのでは?」
男爵の微笑みが、一瞬だけ強張る。
でも、それはすぐにデフォルト状態の微笑みに上書きされた。
「特産品ではないと、なかなか……。多くの民を相手にする物品は、どうしても平民の企業が絡んできますからなぁ……」
え? カルディア男爵領って、特産品が無いの?
「恥ずかしながら、惑星開拓初期に大きなコルデナイトの鉱脈が見つかったもので……。そちらに回す手も足りませんでしたし、タイミングも失してしまいました。探索には、色々と障害もございまして……」
それなら、さ……。
目線で合図して、カルディア男爵の赤ら顔に耳打ちする。
「特産品探し、お手伝いしましょうか? とても暇な男爵が八人いるんです」
突破口、見つけた!
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