大怪獣のあとしまつ
「トゥレーア! こっちに飛び移って!」
「フィルゥク!」
イケメン俳優さんがコクピットから身を乗り出し、手を差し伸べる。
飛び込んできた女優さんを受け止め、ギュッと抱きしめた。
「カーット!」
緊張した雰囲気が解れ、コクピットの奥に身を潜めていた私も、ほっと溜息を吐いた。
只今、映画の撮影中!
ザッパー戦から、ロブスラー戦までを報道映像で見ていた監督さんが、何やらインスピレーションを得てしまったらしく、急遽撮影協力の依頼があった。
もっとも、これは映画本編ではありません。
明日のレセプションの、オープニングムービーにするらしい。
当日も、このムービーを上映し、その映像を引き継ぐように空から、主演&ヒロインの二人が
主役機に選ばれたのが、私の青いバリアント! やっぱり贔屓目抜きでも、私のが一番カッコいいと証明されたね。……ムフッ!
戦闘シーンは、実際のザッパー戦を編集するみたい。
たった一日で、良くぞここまで作り上げるものだ。
ちなみに今のシーンは、煽りで撮影しているだけで、実際はATは地上に立ってます。巨大な旋風機の風で、飛行中に見せかけてるの。
次はコクピット内部の撮影に入るため、操作系をすべてキャンセルした上でシートを明け渡す。このあたりは、サポート・キャラのいるプレイヤーの強み。
ショウが許可しないと、レバーもボタンも受け付けない状態。撮影には持って来いだ。
私は撮影現場となっている領主邸の芝に降りて、領主様がお茶を楽しんでいるテーブルへと戻った。
「ご苦労さまでしたね。ミナ女男爵」
微笑みながら迎えてくれるのは、エレガントな老紳士。
そう、マイケル・ケイン似のレスター子爵様です。眼福眼福……。状況を見てのAT販売契約を結ぶために、急遽いらっしゃいました。それに加えて、ロブスラーくん加工に関する資本と設備の提供など、細かい話が増えてしまったらしく、しばらく留まるそうです。
民間企業を食い込ませ過ぎた、コルデナイト鉱産業の反省も踏まえて、ランドルフ伯爵からの援助を中心に、産業を発展させていく方針なのだとか。
「子爵様、ロブスラーくんの産業価値は、いかがなものなのでしょう?」
「最も高価値なのは、あの甲羅と皮膚でしょう。ビームを霧散させ、かなりの強度を誇る。分子構造を調査していますが、現状では再現不可です。更に骨も、軽さと強度を備えた構造体として、注目に値しましょう。……肉などについては、今カヌレ女男爵が中心となって、いろいろ試していらっしゃいます」
カヌレちゃんってば、本当にもう……。
それより、気になるのは
「あの甲羅は、加工できるのですか?」
「手間はかかりますが、削り出し加工が可能です。ブロン子爵領からお借りしてきた技術者たちが、引き続き調査中ですが……大量生産は難しそうですね。その分、高価なものになってしまうでしょう」
そこは、さすがの特産品。どうしてもそうなるし、それ故に領地が潤う。
匠の世界の代物になりそう……。
カルディア男爵が、機嫌よく提案してくれる。
「最初のロットは、皇帝陛下の近衛への献上機体用シールドに加工するのですが……今回色々していただいた謝礼として、皆様の隊長機にも贈らせていただこうと思っています」
うぉぅ! 私たちの搭乗機のみとはいえ、あのロブスラーくんの装甲を盾にできるのは、嬉しいかも知れない。ますます高級機になるよ……。
「撮影終了次第、ミナ女男爵の機体に先行搭載して、明日の映画のワールドプレミアでお披露目していただこうと思っています」
よろしいんですか! ますます格好良くなるよ、私のバリアント……。
あの巨体の冷凍保存庫に加工工場。流通設備。更には討伐用のAT部隊の設立。とんでもないお金が動く、領地規模の大事業だ。初期投資も凄いだろうけど、確実なリターンが望める。
領主様の望む、領民の生活向上は果たせそうだ。
「それに今度の件で、これまでのコルデナイト鉱採掘に関する契約事項の見直しが決まったのだよ。企業連の力を抜きにしては、採掘、流通は不可能であるが、それに関しては、作業従事者たちの収入を増やすことを認めてもらうことになった」
「それだけで、よろしいのでしょうか?」
「企業としても、儲けは必要だよ。それは否定しない。だから、領民の生活向上だけを考慮して貰えば、それで良かろう」
「領地としては、ロブスラーで収入が増えますからね」
こういった場に慣れてない【金獅子倶楽部】リーダーのユーゴさんが、ようやく口を挟むんだ。
カルディア男爵は、満足そうに笑った。
微笑み返す私たちを見やりつつ、レスター子爵がそっと目配せをしてくれる。
「まあ……お二方は、少々クリード子爵に恨まれるでしょうから、ご注意を」
「え……何かしましたっけ? 助言は戴いたのですが?」
「もっと広く、情報を得なさい。……この件で企業連と共謀していたことが発覚して、処分された中央官僚たちが、第二皇子派の者たちですよ」
あうっ……それは、資金源を一つ断ってしまったかも知れない。
それにこの流れでは、カルディア男爵もシスティーナ様の中立派傘下になるのは、ほぼ確定。確かに、恨みを買いそう。
「でも、まあ……システィーナ様の件で、第一皇子派からランドルフ伯爵家を翻意させているから、バランス的には良いのかも」
ユーゴさんは、案外お気楽。
問題なのは、私たちが動く度に、パワーバランスが変わってることなんだよ。
いくらシナリオの都合だからといって、度重なると、私たちの介入を阻止するためにクリード子爵や、パロマ子爵が動きかねない。
平和主義の私としては、彼らを敵に回すよりは、味方として情報を得たいもん。
今回みたいに……さ。
個々の動きで対応が変わるかどうかは解らないけど、なるべく【美食倶楽部】単独で動く方が良いのかなぁ。
情勢が複雑になりすぎると、雁字搦めになって、身動きが取れなくなりそうだ。
深く考えないメンバーが、私を含めて三名いるだけに、慎重に行こう。ね? マサくん、カヌレちゃん。
ようやく撮影が終わったようで、監督さんや主演俳優のお二人が、挨拶をして帰ってゆく。
足場はそのままに、おおっ! 技術者さんが、試作第一号盾を持ってきてくれた。
クレーンで吊り上げて、私のバリアントの左手の盾と交換。
きゃーっ! メタリックグリーンの虹色に光る盾が、青のグラデーションで染められた、私のバリアントに似合う! 実物見て、ますます惚れ込んだ。
夕空に近づいた陽射しに照らされた私のバリアント、本当にカッコ良い。
あとは明日のレセプションを乗り切れば、このシナリオもクリアできるかな?
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