たまにはチートもしてみたい

 契約書にサインして、ペタンと判子を押す。

 これで新たに、ショウのライブビデオの配信が二本追加されることになる。

 合計五本!


 先月に独占配信されたライブの評判が良く、期待値以上の契約者増という、ファンの皆様のおかげ。

 第一弾は、独占期間は半年。以降、各配信会社からも配信される。

 ただし、二本目以降は二年の独占配信期間があるから、絶対契約した方がお得だよと、ファンの皆様には連絡してある。そのおかげもあっての、二本追加は嬉しい。

 期待に添えるものを配信しないと!


「これで、ロックオペラ三部作を配信できるわね」


 朝吹さんが満足げに微笑む。

 ショウ自身は、まだ練り込みが足りないと不満だったから、撮影ビデオは封印したままだったけど……こうなると、絶対に世に出したい。

 ショウのライブでも、渾身の作だと思うから、余計に。

 スタッフの思い入れも強いステージだったから、朝吹さんの感慨も当然だ。


「でも、サムネイルはどうしよう? 今までの二本は、ツアーパンフレットの表紙そのままだったけど、今回はちょっと地味というか……」


 黒字に金文字や、銀文字でタイトルを書いてあるだけなんだよ。

 パンフなら格好良いけど、配信のサムネとしては地味。ある程度は内容が解るようにしたいけど……どうしよう?


「サムネは最後に決めれればいいから、何か考えましょう。それよりも内容をしっかり作り込まないとね」


 解ってます。

 また、しばらくは仕事と称して、ショウのライブビデオに浸っちゃおう!

 私の一押しカットは、優先的に採用されるシステムです。

 一つのライブを撮影しているいくつものカメラの映像を、全部チェックするのは好きでもなければしんどい作業。何の苦にもならない、私は偉い!


 昼は幸せなお仕事に浸り、夜はまた『リラサガ』の世界に戻る私です。


      ☆★☆


「やっと『金獅子倶楽部』の第一陣が、イベントクリアしましたよ」


 D51さんが報告してくれる。

 もうじき、こちらに追い付いてくるでしょう。とのこと。

 まあね。こっちが苦労したきっかけづくりも、全部ネタバレを辿って追いかけてくるから、当たり前なのだけど。


「少しはこっちの苦労も、味わって欲しいもんだ」


 エグザムさんのセリフに、みんなで頷く。

 攻略手順から、ダンスの指導まで私たちのお仕事だったんだから……。早くこの星系まで来て、一緒に右往左往しようよ。

 ゲームが便利なのは、イベントセーブができること。

 全員が揃うまでは、イベント時間を止めておける。別に、私たちは攻略一番乗りを目指しているわけじゃないし、のんびりとみんなが揃うのを待ってから時間を進めている。

 特に今は、気を使いすぎる情報収集の段階だからね。

 普段は通常の銀河で、【勅令】をこなすと言いつつ、ATアーマード・トルーパーを、他のプレイヤーに見せびらかしては、羨ましがらせていたメンバーが数日ぶりに揃った。


「さて……情報収集はどうしよう?」


 ホテルの部屋でゴロリとしながら、『倶楽部チャット』でみんなと打ち合わせ。

 うっかり、リアルの本体と、アバターたるキャラクターが同じ事をしてるんじゃないかと気づいて、吹き出しそうになる。


「コルデナイト鉱採掘及び、流通販売に関する問題に絞るんだよね」

「本命は、利権。対抗は価格や採掘量に関する闇カルテルってところか……」

「穴馬は、政治家への献金、汚職~」

「モモさんっ、まだ競馬が抜けきってませんっ」

「でも、それなら犯罪だから、警察や検察で対処できるはず、私たちの出番はないような?」

「そういう連中に限って、警察や検察も、なあなあだからなぁ……」

「……そうなのよ、世論が盛り上がらないと、知事の公金流用がはっきりしても辞職しないのよ……。私だって、たまには公金横領くらいしてみたいわ……」

「ちょ、ちょっと! しーちゃん、暗黒面に落ちないで!」


 あぶなっ! この手の話は、真面目な地方公務員さんには耳に毒だよ。

 でも、そっち方面なら、確かに私達の出番は少ない。

 あの美人さんは、何を望んでカマをかけてきたのだろう?


「いっそのこと、『金獅子』の連中が追いついてくるのを待って、連中に探らせるか?」


 まあっ、なんて魅力的な提案!

 思わず賛成しちゃいそうになる。


「それも悪くないけど、カンニングしながらイベント進めるのもつまらないだろう?」


 でも、イベントの進行で『詰まる』ことは無くなるしぃ。……というダジャレは、言わずにおく。

 攻略担当になる気は無くても、攻略手順通りに進めるゲームが楽しいはずもない。探索仲間は、増えるに越したことはないけどね。

 とはいえ、詰まった時にはチートも有り派の私。悩むのは楽しいけど、度を越すと一気に熱が冷めるタイプです。

 チート……しちゃおうかな? 多分これも、通常手段の一つだと思うし。


「じゃあ、今日も各自で調査で良いのかな?」

「それしか無いでしょ。デゴは登記簿関係調べるというし、モモさんは図書館で古いニュースを漁るんだろ?」

「「うん、他の手が思いつかない」」

「じゃあ、私はちょっと他の星系まで行ってくるよ。『倶楽部チャット』はどこでも繋がるよね?」

「もちろん、だけどどこに行くの? ミナさん」

「内緒……カヌレちゃんも来る?」

「行きたいですっ。頭を使うのは苦手なのでっ」


 こら、現役女子高生。

 でも、カヌレちゃんを釣れたのは良い傾向。場所が場所だけに、一緒に来てくれると助かる。

 解散して、各自思い思いの場所に散る。

 私たちは、バリアントとレパードのランデブー飛行で宇宙港に帰り、カヌレちゃんには内緒で、航路設定&航行計画を提出。認可された。


「教えて下さいっ。どこに行くですかぁっ?」

「着いてからのお楽しみ、です。私をリーダーにパーティー設定してね」

「はーいっ」


 素直でよろしい。

 星系内は、亜空間飛行に入れないからのんびり進む。

 その間に、ショウにお願いして、行き先の領主様宛のメールを入れておく。……釣れるかな?


『返信あり、即釣れたぞ?』

「やったね! 何で、そんなジト目なのよ?」

『この宇宙、お前みたいなのが多いな……と思っただけ』

「失礼な! 食欲は銀河を救うんだよ?」

『……本当か?』

「……自信ないけど、さ」


 さて、問題です。私はどこに向かっているでしょう?


 亜空間から抜けた先の星系を見て、カヌレちゃんは目を丸くしている。

 うんうん、初めて見る星系だよね。

 実は、私も初めて来る。

 ここの領主様とは、二度ほどお逢いしているんだけど。


「ここは、どこなのでしょうっ?」

「すぐに解るよ、カヌレちゃん」


 待ちきれなかったのであろう。

 まだ、星系内に入る前から、その人から通信が入った。

 スクリーンに浮かぶのは、丁寧に撫でつけた銀髪の男。キラリとモノクルが光る。

 さすがに今日は平服で、ブラウンのスーツを来ている。


「あなたも大胆な人ですね、ミナ女男爵」

「教えていただきたいことがありまして。あなたなら、きっと事情に通じているだろうなって思いました」

「私が、簡単に情報を提供するとでも?」

「はい……今なら『タラレバガニ』に、『虹のしずく』をセットでお届けに上がれますもの。それに見合う情報はいただけるのではないかと?」


 モニターのクリード子爵は苦笑いして、肩を竦めた。

 お忙しい方が、急遽星系に戻った時点で、こっちの勝ちですって。

 パロマ女子爵がお持ちの情報なら、敵対する立場のこの人が知らぬ訳がない。


 攻略に詰まったら、知ってる人に教わるのが一番早いよね?

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