糸を辿る

 これまで、漠然と星系開発をするだけだった『リライトサガ・オンライン』プレイヤーたちだけど、私が引っかかったストーリーの兆しに、俄然と盛り上がってきた。

 特産品探しが熱を帯び、いくつもの倶楽部が設立されたらしい。


 その最先端にいるらしい私は、自覚もないままにショウと戯れてる。

 あれから、気合を入れて皇城や城下町を散策してみたのだけれど、クリード子爵からの二度目の接触も、他のNPCからの接触もない。

 気合なんて、三日も過ぎれば抜けちゃうよね?

 ……飽きっぽいとは良く言われるけどさ。

 もう普通にプレイしてればいいじゃん! って気になってしまう。

 その内、また向こうから接触してくるよ。


 私としては、ようやく繋がった、カニさんハイウェイの方が大事。

 半島の根本に町を作り、左右を漁港で固める。

 学校、病院、ショッピングセンター、教会の私セットを建てて、見ている間に宿泊施設が増えてゆく。

 うんうん、これはカニ料理の旅館だね。その内、カニ食べ放題バスツアーとかが企画されるかもしれないよ。

 音楽のムーブメントは、まだ興ない。

 工房はまだ、笛や太鼓くらいしか作れない。……お祭りは盛り上がってるみたいだけど、私も求める所とは、少し違う。

 領地開発の次の一手を、どうしよう?


『酒造りはどうした?』

「アクアビットは順調に売れてるよ? 海賊退治しながら、バイキングのお酒を売る、罪深い私……」

『何を気取ってるやら……』

「ライバルがいないから、アクアビット市場は独占してるんだよ。でも、肝心なアクアビットというお酒の知名度が低いし、その市場の大きさもそれなりなのよ」

『それもそうか……』


 ショウも肩を竦める。

 ちなみに、ウチのアクアビットのブランドは『バイキング・キラー』だよ。

 私とショウの好みには仕上げてるから、自分たちで呑む分には最高。だから、それでいいよね。

 アクアビットを広めようなんて、気持ちも、エネルギーもないもん。


 面白いところでは、イカの漁獲量や加工が伸びてるんだ。

 これは間違いなく、倶楽部を設立して、エグザムさんの呑んだくれ惑星との交易が盛んになったため。……どんだけ、スルメやさきイカを欲しがるんだよぉ!

 倶楽部メンバー割引になったら、一気に購入量が増えてる。まったくもぉ……。


 海産物は評判も良くて順調。

 特産のタラレバくんの売上も、素敵過ぎる。

 当分の間は見守るだけにして、お金を貯めて、念願の宇宙港から首都経由、ビーチサイド行きの電車でも作ろうかな? 仮称は江ノ電。

 初期からの夢でもある。


 そんな風に頭を捻っていると、メッセージの着信があった。

 しーちゃん? あら、珍しい。

 皇城の図書室に来て欲しいって……言われても、図書室ってどこ?

 呆れられていそうだけど、いつものサロンの龍のオブジェ前集合となった。

 ……その方が無難だね。

 龍のオブジェの前に待ってたしーちゃんに連れられて、竜宮城ならぬ、図書室に向かう。そこには、真剣な顔で大きな本を覗き込むモモンガさんがいた。


「モモちゃん、あれから何か解った?」

「うん……クリード子爵自身の家系は、格下の男爵家や、同格の子爵家としか繋がってないのよ。でも、その繋がってる他の子爵家の家系を辿っていくと……複数の伯爵家に繋がってるみたい」

「じゃあ、その伯爵家のどれかが黒幕?」


 短絡的な私の発想は、苦笑いで打ち消されてしまう。

 ニコっと笑いながら、モモンガさんが言葉を繋いだ。


「伯爵家が複数関わってるってことは、その上に黒幕がいるんだと思う。……派閥のトップって、同格を嫌うと思うから」

「伯爵の上って言うと……侯爵様?」

「うん……今の帝国に侯爵は二人。血の繋がりを考えると、たぶんローズワーク公爵ね」

「そんなことまで、解っちゃうんだ……」


 ポカンとする私に、モモンガさんは得意げに笑った。


「貴族の結び付きを強めるには、婚姻が一番なの。上に行けば行くほど、派閥は血脈。親族になっちゃうと裏切りづらくなるでしょ?」

「でも、妹のお市の方を娶った浅井長政は、結局、義兄の信長を反旗を翻したわよ?」


 うぉう! しーちゃんのアカデミックなツッコミが入る。

 しーちゃんって、実は歴女?


「信長は、その長政を信じていたから窮地に陥ったわけで……。まあ、絶対の絆なんて無いもの。でも、利がある内は強固な繋がり……って、変なチャチャ入れないで」

「茶々は、お市の方の娘だし……」

「やめなさいって……戦国武将マニアめ~」


 ううっ……歴史は苦手だよ。

 カヌレちゃんがいたら、一緒に頭を抱えてくれるのに。


「それはともかく……問題は、どんな理由で派閥争いをしているか? なのよ」

「理由もわかっちゃうんだ?」

「そもそもの派閥争いの原因は、ローズワーク侯爵の娘が第二夫人で、第二皇子おうじの母。もう一人の侯爵様……ブリックロード侯爵は第一夫人の父で、第一王子の母。その闘いになるから、もうどうしようもないよ~」

「後継者争いになるのかな?」

「そこまでの争いになるのか? それ以前の小競り合いなのか? クリード子爵が小物過ぎちゃって~……わからん!」


 モモンガさん、はっきり言っちゃダメだって!

 それ以下の爵位の男爵たちが、三人揃って苦笑いだ。そうなんだよね、小物中の小物の男爵の勧誘に、どんな意味があるのかはわからない。

 はっきり言えるのは、第二王子派に誘われてるってだけだ。

 でも、ありがとう。

 何となく背景が見えてきたので、少し安心した。

 その分厚い紳士録から、系図を辿るのは大変だったでしょ? お疲れ様だよ。

 プレイヤー以外の、NPCの世界も動いてるんだな……。


「お役に立ちました~?」


 にんまりと笑って、モモンガさん。

 立ち過ぎてます。漠然としてた、帝国の相関図がはっきり見えた気になっちゃう。

 あのお人好しの威厳無し皇帝、マジで暗殺されちゃいそう……。


「どっちを支持するのかは、早めにみんなで話し合った方が良いかな? クラブの運営にも関わりそうだし」

「まだ情報が足りないね~。……派閥の存在は解っても、それぞれの目指す所がわからないと、支持も不支持も判断できないじゃない?」

「さすがにそれは、紳士録からでは解らないわね……」

「うん、ゴシップの世界だ~。D51さんに期待」


 う~んと伸びをするモモンガさんの肩を、しーちゃんがよしよしと揉んであげてる。

 本当に仲が良さそうなお二人さんだ。


「根を詰めて調べてくれたんでしょ? 気晴らしに海賊退治に行かない?」


 変な誘いだと思うけど、ドッカーンとやる爽快感があるのよ。

 お二人さんも異存はないらしい。

 頭を使った後は、何も考えずにドンパチするに限る!


 勅令のカウンターまで行く間に、倶楽部メンバーのログイン状況をチェックしておく。

 今日はカヌレちゃんがまだいないから……あと一人は誰にしよう? 男性陣三人は揃ってますね。

 いつもは誰かに乗っかってるだけだから、偶には自分で勅令を受けてみよう。

 あ……実は自分メインで受けるの初めてだ!


『主体性のない奴……』

「ショウに言われなくても、自覚してるよ!」


 あったあった、海賊退治。

 こんなに毎日大勢に退治されてるのに、懲りないよね。海賊さんも。

 これ下さぁい。(違)

 すると、窓口のお姉さんが笑みを浮かべてこう言った。


「これはこれは、ミナ女男爵様……。こちらの依頼もお願いしたいところなのですが、勅令ではないのですけれど、指名で艦隊派遣の依頼が来ています」


 思わず、モモンガさんとしーちゃんと顔を見合わせる。

 次の接触は、ここだったの?

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