【美食倶楽部】全艦隊出撃!
「この紋章は、見たこと無いな~。多分、第一王子派の貴族だね」
受け取ってしまった依頼書の封蝋の紋章を見て、モモンガさんが片目を細める。糸目なのに……。
さっきの紳士録を調べながら、紋章まで覚えてたんだ! 凄すぎる。
私は倶楽部チャットで、エトピリカさんとD51さんにイベントが動いたことを
緊急会議で、今度は倶楽部ハウスに集合だ。
モモンガさんに憂さ晴らしをして欲しかったけど……ごめんね。
あ……カヌレちゃんが、今日はまだログインしてないんだった。倶楽部リーダー! 早く入ってこないと、いない間に方向決まっちゃうよ!
「イベント動いて、会議中」とメッセージを入れておく。
「D51さん、ゴシップ絡みの情報は掴めました?」
メンバーが揃うのを待って、まずは情報確認だ。
D51さんは悔しそうに顔をしかめて、首を横に振った。
「そういうキャラがいないはずはないんだけど……。『リラサガ・ヘッドライン』スタッフ総出で全NPCに当たってみたけど、見つかってません」
「総出は凄いな……。ゴシップ解禁のフラグが何か、あるんじゃないか?」
ビール片手に、エグザムさんが慰める。今日はカヌレちゃん不在で、おつまみが無いのが口寂しそうです。
その意見には、しーちゃんも同意みたい。
「この依頼で、両陣営からの誘いを受けたことになるから、フラグが立つんじゃないかな?」
「それは……ありそうですね」
「で、ミナさん……誰からの依頼なんだい?」
「みんな揃ってから開けようと思ったから、これから開けるところ」
苦笑に包まれながら、厳かに開封の儀を行う。
ふむふむ……何て書いてあるのかな?
貴族らしい勿体振った文章なんで、要約してしまおう。
要するに……。
『ランドルフ伯爵への献上品を輸送する船団があるので、それの護衛をお願いしたい。
貴重品である為、海賊等の略奪行為が予想されるから
最大八艦隊の派遣を望む。……シャパラル子爵』
という内容だ。
報酬その他も書いてあるけど、まあそれは問題ない額だ。
帝国星系図と照らし合わせながら、D51さんが唸った。
「航海予定を見ると、かなりの距離を移動します。途中で三つの星系に立ち寄る予定になっているのか」
「多分、全て第一皇子派の貴族の領だね~」
モモンガさんが補足してくれる。すっかり貴族派閥に詳しくなっちゃった。
エグザムさんもちょっと首を傾げてる。
「問題は『海賊等の略奪行為』って所か。……最初から海賊以外を予想してるな」
「クリード子爵のお仲間さんかしら?」
「しーちゃんも意外と過激だね。……さすがにこの時点で、どちらかの派閥に直接対峙させることはないと思うよ。いずれ選択を迫られるにしても……」
「うん、情報もなしに選ばされるのはキツイ」
だよねぇ……そもそも、第一皇子にも、第二皇子にも逢ったこともないどころか、名前も知らないんだもん。
モモンガさんのように、調べれば良いんだろうけど……そんな噂も聞かない。
私の耳に入らないなら、それはまだ、いらない情報。単純明快。
「基本路線としては、ミナさんには依頼を受けて貰う方向で良いね? もう一つ気になるのは、『最大八艦隊」と指示されてる艦隊数……」
「わかる、エトさん。ウチの倶楽部は七人しかいないもんね」
「そこはもうひとり候補がいるから、特に問題にならない」
私の渾身の同意は、あっさり却下された。
もうひとり候補がいるのか……初耳。バランス的に男子だろうな。女子だったら、カヌレちゃんの目を逃れられるわけがない。
「人数じゃなくて、武装的に通用するのかな? っていう疑問」
「確かに……超ロングレンジ砲のミナさんと、対艦ミサイル装備のカヌ。後は強化バリアを付けてるエト以外は、バリバリの初心者装備だもんな」
エグザムさんが納得する。
言われてみれば、みんな私の超ロングレンジ砲を羨んでも、自分の艦の武器をレベルアップして無いよね? なぜ?
「なぜって……それはね~、お高いからだよ」
「ってか、ミナさんは良く初期から、二倍近いロングレンジ砲に資金を注ぎ込んだよね」
「だって、エグさん。撃たれたら痛いじゃない。遠くから撃てれば、みんなの邪魔にもならないし、被害も無いかなぁって……」
「何たるビギナーズラック!」
呆れられた?
言われてみれば、そうだね。……最初期の艦隊の方向性を決める時じゃないと、なかなか武器まで手が出ない。お高いのよ。そんな資金があったら、領地開発に当てます! 私だって、今考えるとそう思っちゃう。
普通の長距離砲だったら、きっと江ノ電も造れてた!
カヌレちゃんみたいに、良い武器を戦闘で拾えるとラッキーなの。
「でもエトさんって、ベータテスターで知識があったんだよね? 何で地味なバリア艦を選んだのか、気になる」
「地味だから。選ぶ奴が少ないと、それだけパーティを組んで貰えるだろ? バリア艦は必須なんだ」
なるほど……納得した。
その時、やっと元気な声が響いた。
「遅くなりましたぁ! 何がどうしてどうなってるんですかぁ?」
カヌレちゃん登場。待ってたよ、倶楽部リーダー。
とりあえずは状況説明だ。ウンウンと頷きながら、どんどんテーブルの上が賑やかになっていく。この娘は本当に……。
酒のアテが出来て、エグザムさんを始め、モモンガさんや、しーちゃんもニッコリだ。もちろん、私も、ね。
ようやく、みんなの会話に追いついたカヌレちゃんは、ニッコリと言い切った。
「武器は大丈夫だと思いますっ! まだイベント初期だし、みんな初級海賊退治止まりで、中級まで手が出てないでしょ?」
「中級は、グンと敵が強くなりますから」
『リラサガ・ヘッドライン』スタッフとしていろいろ試している、D51さんが納得と、頷く。カヌレちゃんの、こういうハッキリした所が心強い。
単に敵の数が増えるんじゃないかと、予想しておこう。
「後は、スケジュールですっ。長いイベントになりそうだから、日曜祭日の前とか、予定を合わせて一気に突破しちゃわないと……」
「待て、カヌ。そういう話なら、先にもうひとりの候補……マサも呼ぶわ。……ちょうど、ログインしてる」
呼び出す間に、回転テーブルがクルクルと。
この鶏の唐揚げ美味しい……エグザムさんのビールとぴったりだよ。
しーちゃんは酢豚が気に入った様子。
食欲を満たしながら待っていると、入ってきたのは……マッチョマ~ン!
身長はエトさんと同じくらいだから、やや高めだけど、鍛え方は段違いだ。でも、顔はまだ可愛い。高校生かな?
「こいつがマサ。高校レスリングのトップクラスなんだけど、脚を複雑骨折しちまって、治るまでは無茶しないようにと、VRユニットを渡されたんだそうな。無口だけど、真っ直ぐで良い奴だよ」
「……よろしくっす」
アハハ。確かに、強制的にゴロ寝状態のVRユニットのゲームなら、絶対に安静でいられるよね。
即座にカヌレちゃんが倶楽部メンバーに登録して、ニッコリと微笑む。
「ようこそ、マサさんっ! 【美食倶楽部】リーダーとして歓迎します!」
瞬時に頬が真っ赤だよ、マサさん……いや、マサくんか。
今どきの高校生としては純情……スポーツ一筋だったのかな? 愛嬌たっぷりのカヌレちゃんの笑顔は眩しいでしょ?
改めて、それぞれの自己紹介をする。
また女子が奇跡的に増えるまでは、この八人が【美食倶楽部】のメンバーだよ。
そこまで考えて選んだのだろう。
D51さんの艦隊は、カヌレちゃん型の機動艦隊。マサくんのは、五割強化の大口径砲艦隊だって。
上手く組み合わせれば、バランスはバッチリだ。
スケジュールを摺り合わせた結果、イベント決行は今週土曜日の夜九時。
それまでにご飯やお風呂は済ませておくこと!
☆★☆
──当日。
『リラサガ・オンライン』にリアルタイムで、イベントの記事を上げる準備をしていたD51さんが少し遅れて、全員が円卓を囲んだ。
「では行きますっ! 【美食倶楽部】艦隊、全艦出撃ですっ!」
勇ましいカヌレちゃんの号令を合図に、私は依頼受理にOKする。メンバー選択は倶楽部を選べば、それで良い。
いつもの倍! 八人分の艦隊が星の海を征く。
その先に何が待っているのか? まだ、誰も知る由もない。
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